彼女のバレンタイン
◇
ふ、ふふふ・・・ふははははははは!
あ、狂ったわけではありません、アシカラズ。
今あたしは幸せです。
何故なら由宇衣さんの手作りチョコレートを目の前にしてるからっ!
今日ばっかりはジムを自主休練、真っ直ぐ帰宅。
だって早く食べたいし。
由宇衣さんのファンになり、早2年。
まさかこんな日がやって来ようとは・・・!
紙袋の中から箱を取り出す。
蓋を開けると美味しそうなボンボンショコラの数々。
種類豊富!
作るの大変そうだ。
自分が貫田さんのオマケっていうのはわかってるけど、幸せだ。
もう一つの箱には焼き菓子が入っている。
こちらも美味しそう。
珈琲を淹れて早速いただくとしよう。
その前に記念撮影も忘れない。
そしてそのまま至福の時。
ブログを見ると同じものがアップされていて、わかっていたけど感動したり。
絶対今まで一番良いバレンタインデーだ。
好きな人(仮)の彼女の手作りだとかは考えてはイケナイ。
◇
その日の夜遅く、殿と若がやって来た。
よくあることなので気にならない。
どうやら御裾分けに来てくれたらしい。
「ありがとう、あがってく?」
「珈琲のみたーい」
「んじゃ俺も」
時間が時間なのでアルコールではなく珈琲で、ということらしい。
次の日も仕事だし、当然か。
基本的に3人とも、翌日が休みの時にしか飲まない。
そうしないと思いっきり飲めないからだ。
「さて議題は、」
「椿の恋について」
「ぶほっ、げっほ、ごほ、」
吹いたわ!
え、何この流れ。どういうこと。
「ちょ、何、殿、喋ったの!?」
「うん、喋ったー。あたりまえじゃーん」
「うわあああああ!恥しい上に面白がり筆頭にっ!!」
「いやあたのしいなー」
何だその棒読み!
「まあ落ち着け。お前のために作戦会議してやろうってんだ。感謝しろよ?」
「いやいやいや。要らない、要らないから」
頼むから余計なことすんな。
「でもねー椿チャン。俺ら椿チャンには幸せになってほしいんだよねー」
「えー・・・でも略奪愛はちょっと・・・」
「でもさ椿、略奪出来るってことはその程度ってことだぜ?未だに結婚しないってことはもしかしたら醒めてるのかもしれないし」
「それはないでしょ、ブログ見てもさぁ」
いくら趣味でも、あれだけ美味しそうなもの作っといて?
何時間もかかるような凝ったものもあるし、醒めてたらさすがに作らないと思う。、
「まぁそれはそれ。そのときは当たって砕けろ」
「嫌だよ、仕事し難くなるわ」
「大丈夫大丈夫」
「全然大丈夫じゃないし!」
そもそもあたしが略奪出来ると思ってるのか。
一応イケメンの貫田さん相手に?
あたしは別に美人でもなければナイスバディでもないし、恋愛経験も乏しいぞ。
「具体的には、酔い潰して既成事実を・・・」
「阿呆か」
そもそも酔い潰すこと自体無理だ。
貫田さんが泥酔してるところなんて見たことがない。
あたしも割りと強い方だけど、貫田さんはさらに強い。
そうなると若と殿も無理だろう。
「ってことでとりあえず今週末飲みねー」
「もう誘ってるから」
「早!」
いつの間に。
「場所は來海ね。サークルの後で」
まぁ飲むの好きだし良いんだけど。
でも結構頻繁に誘ってるけど大丈夫なのかな。
由宇衣さんとの時間、確実に減ってるよね。
はっ!もしやそれが目的なのか!?
でも了承したということは問題なしってことだよね・・・。
いや、後輩と先輩だし、断れないのかもしれない。
よし、ちゃんと断るように忠告しよう。
由宇衣さんに振られたらどうするんですかって!!