彼の敵
◇
投稿小説サイトで最近お気に入りの小説だとか、書籍化の話だとか。
ニ○動の歌い手は誰が好きとか、ボカロ曲のどれが良いとか。
まぁ要するにその手の話ばかりってことだ。
この3人だとそれが普通、あとは会社の話が大半を占める。
特に日辻さん、江藤さんをベタ褒め。っていうかベタ惚れ?
日辻さんの好みのタイプは、佐藤玉○だとか小倉優○だとか・・・何か納得。
因みに男のタイプを聞くと鼻で笑われた。
刑部曰く、前の彼氏はスポーツマンっぽい、男らしい感じのヤツだったらしい。
”自由すぎる”って理由で振るなんてあんまり男らしく感じないけどな。
俺なら日辻さんの自由なところも好きだけど!
っていうか趣味が同じだから隠されることもないけどな。
「山下さんとゆりなちゃんが仲が良いのがちょっと不思議」
「それは俺も思った。何で山下さん、江藤に付き合ってられんの?ありえねぇ」
「同じ部署で同期だとそれなりに仲良くなると思うけど」
2課で江藤さんと同期なのは山下さんだけだ。
1年先輩に日辻さんと刑部、1年後輩にもう一人女子がいるだけで、2課の事務は年が近いのは限られている。
「山下さんが大人なんだろうなー」
事実山下さんは俺と同じ28歳だ。
江藤さんがちょっと何かやらかしても大人な対応をするんだろう。
刑部だったら絶対爆発してるよな。
日辻さんならベタベタに甘やかしてそう。
俺は逃げる。
「そういえばもうすぐバレンタインじゃん」
「あ、そういえば」
「若、今年もよろしくね」
「よろしくって何?」
「あ、貫田さんも是非、義理チョコください。本命チョコは自分で食べるのが鉄則ですが」
あぁそういうことか。
お裾分けってことだな。
「でも由宇衣さんからの本命チョコは是非!というかあたしに本命チョコくれれば良いと思う!」
「阿呆か」
刑部が突っ込んで、日辻さんが悔しそうな顔をする。
「・・・言ってみようか?」
「え?」
「欲しいって言ってたって。たぶんくれるよ」
「本当に!?いいんですか!?」
うわぁ、すっげテンションの上がりよう。
勿論です、オッケーです、どうせ作るの俺ですから。
「いいよ。毎年作ってるからたぶん大丈夫」
「うわあぁ!ヤバい!死ねる!!」
本気で嬉しそうな日辻さん。
由宇衣が俺って知ったら、どうするだろう。
激怒しそうだよな、主に性別の部分で。
最近はそうでもないけど、たぶん日辻さん、俺のことあんまり好きじゃなかったっぽいしな。
由宇衣のことで好感度が上がったんだろうけど・・・。
これでいずれ正体がばれたり、別れたことになったりしたらどうなるんだろう。
やっばいな、俺殺されるんじゃないかな。
「あれ、メールだ」
「何?」
「兄貴。酒とつまみ持ってこいだと。・・・ちょっと行って来る」
日辻さんがじゃがりこと缶チューハイを持って立ち上がる。
この至近距離でメールでやり取りするのか・・・。
「いってらっしゃい」
「まぁ、適当に飲んでて、すぐ戻るし」
◇
日辻さんが部屋を出てから、もう10分は経っているような気がする。
志村さんに捕まってんのかな。
「椿戻ってこないなー」
この間にちょっとトイレに行っておこう。
日辻さんがいるときは出来るだけ一緒にいたいし!
「刑部、ちょっとトイレ借りたいんだけど・・・」
「階段過ぎて右手ですよ」
「行って来る」
部屋に戻る途中、階段の辺りで志村さんと日辻さんの声が聞こえてきた。
つい咄嗟に隠れてしまう。
志村さんが上に立ち、見下ろす形になっているので、もしかしたら志村さんからは見えたかもしれない。日辻さんはこちらに気付いてないだろう。
志村さんが、わらった。
「椿チャン、貫田クンのこと、好きなの?」
「・・・まさか、ありえないでしょ。ないない」
俺が居ることを知って、聞いた。
俺が聞いていることを分かっていて、わらった。
頭に血が昇る。
志村さんは日辻さんのことが好きなのか。
それとも俺のことが気に食わないのか。
両方かもしれない。
とにかく志村さんは、俺が日辻さんに好意を持っていることに、気付いてる。