彼女の家
◇
「日辻家オタハウスへようこそ」
あたしは貫田さんへ向かってそう言った。
だって本当にそう呼ばれてるんだよ、主に若に。
日辻家オタハウス、玄関入ってすぐ正面、階段がある。
その階段からしてすでにマンガ文庫が並んでいる。
各部屋に入り切らず、家中の到る所に本が並ぶ。
「こんなとこまで・・・」
階段、トイレ、廊下にまで本棚が設置されている。
「で、ここあたしの部屋なんですけど」
ドアを開ける床から天井まで一面の本棚。
「噂の壁一面の漫画・・・」
「全部屋こんなですからねー。全部母のなんですけど貸出ノート設置してあるんで、読みたいのあったら持って帰れますよ」
「貸出ノートって」
「多すぎて管理出来なくなるんで昔からやってるんですよ、ノート」
あたしは生れてこの方マンガを買ったことがない。
買わなくても母が買うから必要ないし。
兄の部屋に殿を連れていく。
あれ、まだ帰って来てない?
「殿どうする?」
「帰って来るまで飲んでよーよ」
「じゃあ一階に行きましょうか」
一階の宴会用和室に案内する。
居間は父と母がアニメ鑑賞してるから使えない。
宴会用和室はその名の通り宴会用だ。
炬燵の他にはテレビとDVDプレイヤー、小さな冷蔵庫・食器棚が置いてある。
後はリキュールや焼酎・ブランデーなどのアルコールの瓶が並ぶ。
「炭酸と水とレモンは冷蔵庫にあるんで、何でも好きなものどうぞ。セルフです」
容量が小さいので、ジュースや牛乳は台所の冷蔵庫にある。
殿用に牛乳だけを持ってくる。
カルアミルクを作り、殿に渡す。
あたしもカルアミルクにしよう。
若と貫田さんはハイボール。
「宴会用の部屋なんてあるんだね」
「母が宴会好きなんですよ」
あの人たちは友達・・・なのか?オフとか同人とか言ってるから仕事仲間なのか何なのか。
居間でやられると絡まれるので専用の部屋を作ったというわけだ。
だってあの人たち性質悪い。
◇
「貫田クンの彼女って、どんなコー?」
「えー・・・と、割と家庭的な・・・」
由宇衣さんの話になったので、つい割って入る。
殿はネット小説は読まないので由宇衣さんのことを知らない。
「料理すっごく上手でね、カーテンとかテーブルクロスとか自作しちゃうような女の子らしい人なの!」
「へぇ、いいねー。どれくらい付き合ってんのー?」
「大学の時からなんで長いですよ」
「へぇ~・・・結婚しないの?」
「あーまだしないですねぇ」
勿体ない!しないならあたしにくれ!
由宇衣さんを嫁にください!!
「貫田さん、結婚しないなら由宇衣さんをあたしの嫁に!」
「阿呆」
若に突っ込まれた。
地味に痛いんだけど。
殿に2杯めのカルアを作って、自分の分はメロンソーダにする。
それにしても兄貴遅い。
いつもなら遅くても終電で帰って来るんだけどなぁ。
殿もいるんだし、メールしてみよう。
「殿、兄貴今帰ってきてるって。会社の人に送ってもらってるみたい」
「ありがとー」
兄貴帰ってきたらどうしよう。
流石に兄貴の部屋に5人はなぁ。
3人でこのまま飲むか。
押入れに寝具はある。
酔い潰れても毛布掛けてれば大丈夫だし。
◇
兄貴が帰って来て、殿は兄貴の部屋に。
今2人でゲームを作っているらしく、それに夢中になっているのだ。
因みに兄貴はゲーム会社勤務である。
「日辻さんってお兄さんが一人?」
「いやあと姉がいますよ。仕事で外国に」
外国。うん、外国。
「へぇ、何の仕事なの?」
「菓子職人兼実業家みたいな感じですね」
「すごいね。語学にも強そう」
「いやぁ、語学は苦手なんじゃないかなー・・・。むしろあたしの方が英語得意だし」
「そういえば日辻さん英語ペラペラだっけ」
ペラペラというほどではないが、一応国際学部卒である。
「専攻してましたからね。貫田さん大学どこでしたっけ?」
「俺は○大の経済」
「由宇衣さんも経済なんですか?」
「まぁ、うん」
貫田さん苦笑い。
つい由宇衣さんの話にしてしまうのは許してほしい。
だってファンなんです。