彼の夕食
◇
外で食べても良かったけど、刑部の”運動後はだるい、炬燵でぐだぐだしたい、貫田さんの家が良い”という希望により、俺の部屋になった。
一人暮らしって俺だけだしな。
全然良いけど、刑部俺のこと先輩って思ってないんじゃないだろうか・・・。
2人がサークルでバレーに励んでいる間に、キムチ鍋の用意。
あれ俺、先輩扱いされてないような・・・。2回目ですね、すいません。
豚肉・ホタテ・海老・白菜・白葱・エノキ・シイタケ・豆腐・キムチをキムチの素で煮込むだけ。
簡単なのにマジうまい。
途中で牡蠣としゃぶもちも入れる。
〆はうどんか米だよな。
キムチ鍋にはビールだろってことで、ビールは2人が来る途中に買って来るらしい。
乾きものと朝飯の材料も忘れずに買って来るとのこと。
帰る気ないのか。全然良いけど。いやむしろ刑部帰れww
9時半前に2人が到着。
鍋はもう食べられる状態で炬燵に鎮座。
「さすが貫田さん!気が利きますね!!」
「刑部お前やっぱり俺のこと先輩って思ってねぇだろ」
「まっさかぁ!尊敬してます、貫田先輩!!」
嘘くせー!
っていうかまだ飲んでないのにテンションたっけぇw
「貫田さん、おなか減りました」
「・・・日辻さんも俺のこと先輩って思ってないよね」
「そんなことないですよ」
棒読みで言われても!
地味にショック。
取り敢えず炬燵に入って、ビールで乾杯。
運動後だからなのか、2人とも一本目一気。
っていうかピッチ速い。
俺が一本目飲み終わるころに2人の三本目がなくなりそう。
「牡蠣うま」
「かゆうま」
「古!」
何だこのカオスw
3人とも酒に強い方だけど、ハイテンションというか、ノリがおかしい。
刑部は前髪ちょんまげだし。
どの書き手が好きだとかどの歌い手が好きだとかオタ話で盛り上がる。
日辻さんはもうすぐ書籍発売だとテンション高い。
ロ○○○と○騎士だろうな。
隠れな俺としてはこういう話が出来るのは貴重。
数少ないそういう友達も就職で散り散りだし。
「あー、そろそろ由宇衣さんの話してくださいよー」
あ、やっぱりそう来る?
というか由宇衣の話は一通り話した気がする。
「何が聞きたいのか言ってもらわないと話し難いって」
俺はむしろ日辻さんの話が聞きたい。
好みのタイプとかスリーサイズとか攻略法とかw
「え、じゃあスリーサイズを・・・!」
「阿呆か!」
「本気だったのに・・・」
「ますます阿呆だ」
日辻さん、酔ってる?
刑部の突っ込みに、若干涙目。
カワイイんですけど。何これヤバイ。
「ははは、残念だけど俺スリーサイズ知らないよ」
今までの歴代彼女、一人もスリーサイズ知らないし。
それが普通だと思ってたんだけどな。
「そうですよね、椿、普通彼女のスリーサイズなんて知らないって」
「なんでだ!」
「お前酔ってんの?」
「酔ってない!」
運動後だから回ったのかな。
食べる勢いいつも通りだけど、口調がちょっと違う?
「珍しいな」
「うー・・・」
日辻さんが唸る。
え、かわいいんだけど、何?酔っぱらうとかわいいとか何ソレ。
江藤さんなら演技入ってそうだけど、日辻さんだと演技と思えない俺。
すでにアウト。
「由宇衣さん、が・・・」
「あー・・・」
「何?由宇衣?」
「ブログに椿のこと書かれてたのがよっぽど嬉しかったみたいで」
調子に乗って飲み方めちゃくちゃ、ペースが崩れ酔っぱらう、と。
しかしそこまでファンになるような小説でブログ内容でもない。
ブログ常連は基本的に同業ブログというか、料理が趣味な主婦が多いし。
日辻さん食べるの好きだし、もしや画像だけで胃袋掴んじゃったとか?
「ん・・・・・」
缶ビール6本目で日辻さんダウン。
「ベッドにのっけてくるわ」
「お願いします」
日辻さんを抱える。
身長そこそこあって筋肉もあるから軽いということはないけど、お姫様だっこくらい余裕。
「よっと」
ベッドに乗せようとすると、日辻さんが薄らと目を開けた。
そしてほにゃっと笑う。
えー何その気の抜けた笑い方!
ちょーかわいいんですけど!
きゅんきゅんする!
すぐにまた目を閉じ、寝息が聞こえ始めた。
きゅ、と服を握られたまま。
ふお、萌える。萌えた。堪らん。
刑部いて良かった。
いなかったら食ってたかも。
いやさすがに起きるか。
ふらふらと炬燵に戻ると刑部は鍋を食い尽していた。
「貫田さん、足りません」
「やっぱりお前、俺のこと先輩と思ってないだろ・・・」