彼の衝撃
◇
炬燵ですよすよと眠る、二人の女性。
日辻さんがにこやかにマシンガントークを繰り広げ、あっという間に二人を潰してしまった。
気のせいじゃ、ないよな?
「お見事」
ぱちぱちと拍手をする刑部。
お前も酔ってない?
「それで、貫田さん」
「な、何?」
にこやかだった表情が一転、無表情になる。
何、俺今から説教タイム?
「貫田さんの彼女って・・・由宇衣さん、ですよね?」
「・・・え”?」
日辻さん、今、何て、言った?
落ち着け、落ち着け俺!
半同棲の彼女設定って、こうなった時のためでもあるだろ!?
「貫田さんのお弁当、ブログで見ました」
「あ~・・・」
そういうことか。
あの日、一緒に弁当食った日。
確かにブログを見れば気付くだろう。
しっかし、すげー偶然。
「由宇衣さんが、彼女、なんですよね?」
「まぁ・・・」
設定上、事実だ。
言い逃れは出来ない。
「やっぱり!あたし由宇衣さんのファンなんです!!」
日辻さんのテンション、いきなり上がった。
「お前ストレートにいったなぁ」
「うっさい!・・・あのあの、由宇衣さんの話、聞かせてください!!」
目がキラッキラしてる。
何この食いつきよう。
嬉しいんだか嬉しくないんだかまったくわからないんだけど。
せがまれて、由宇衣の話をする。
もちろん一部は嘘になるけど、出来るだけ嘘は付かず、事実か濁すかで話をする。
あーすげー嬉しそう。
かわいい。
けど内容が俺の彼女(設定上)のことってどうよ?
完全にそういう対象じゃないよね。
むしろ完全に外された?
俺死んだわ。
◇
日辻さんにベッドを譲り、刑部はソファ、俺は炬燵で雑魚寝して、朝。
日辻さんが朝食を作ってくれた。
炊き立ての白米、お味噌汁、金平牛蒡、玉子焼き、きゅうりの浅漬け。
二日酔いの二人には梅粥である。
幸せ・・・こいつらいなかったらもっと幸せなんだけどな!
「おいしい」
「あたしは由宇衣さんの作ったごはんが食べたいですけどね」
作れるものなら作りたかったさ!
でも作るとおかしいし。
いや、俺も料理好きなんだって言えば良いのか?
でもそれだと由宇衣のごはんではないよなぁ。
「ブログいつから見てるの?」
「ん~・・・1年前くらい・・・ですかね?最初は小説から入ったんですけど」
「は!?」
「え?何ですか?」
「小説も読んでんの?」
「はい、何か問題でも?あ、そっか。恥ずかしいですよね。たぶんモデルになってるんだろうし」
えぇ、恥ずかしいですとも!
モデルになってるのはあなたですけどね!
「刑部も読んでますよ。ブログは見てないと思いますけど」
「刑部まで!?」
生き恥だ!
絶対にばれないようにしないと・・・!
「まぁいまさらなんで、諦めてください」
「あああああ」
日辻さんはふっと笑って、洗物の続きにかかる。
こうしているとなんか新婚さんみたくね?とちょっとアガる俺。キモイ。
「あぁ、でも凄い偶然ですよね」
確かに。
凄い数の小説があってブログがあって、俺のファンっていうだけでも凄くて、それがこんな身近にいてバレるってのも凄くて。
「あーもー運命なんじゃないかなぁ」
俺もそう思う。
だけど・・・。
「由宇衣さんを、あたしに下さい」
ですよね、俺じゃなくて、由宇衣だよね!