ソルリーナ 2
ソルリーナは何日経っても目覚めません。
小人たちは嘆き悲しみながら、たくさんの綺麗な花と共にソルリーナをガラスの棺に納めました。
ある日、小人たちがガラスの棺を眺めながら泣いていると、白馬に乗ったウェオレトが通りかかりました。
「君たちはどうして泣いているの?」とウェオレトが尋ねると、「お姫様が目を覚まさないからです」と一人の小人が答えました。
ウェオレトはガラスの棺に納められたソルリーナを見て、なんて可愛らしい人なのだろうと思いました。
「どうして目を覚まさなくなってしまったの?」
ウェオレトがそう尋ねると、小人たちはこれまでにあったことを口々に言いました。
「最初は腰紐を締め上げられて」
「腰紐を切って助けたんだ」
「次は毒付きの櫛を頭に突き刺されて」
「櫛を抜いて助けたんだ」
「あんなに家の扉を開けてはいけないと言ったのに」
「ある日帰ってきたら倒れてて」
「傍には林檎が一つ落ちてるだけだったんだ」
ウェオレトは小人たちと共に、ガラスの棺の蓋を開けました。ウェオレトは徐に、ソルリーナの唇に自分の右耳を寄せました。そしてその状態のまま、ウェオレトは暫くその視線をソルリーナの胸元に向けました。
小人たちはウェオレトが何をしているのか全く分かりませんでしたが、きっとお姫様を目覚めさせることができるに違いないと思い、「どうか、どうかお姫様を助けて下さい」と頼みました。
ウェオレトはソルリーナの唇から右耳を離すと、小人たちに向かって言いました。
「僕にはお姫様を助けることは出来ないよ。だって僕には、お姫様が死んでいるようにしか見えないもの。呼吸はしていないし、肌も青ざめてしまっているし。死んでしまった人を一体どうやって助けられるというの? 緩めるべきものも、引き抜くべきものもないのに、一体どうやって助けるというの? ……君たちもお姫様が死んでしまったと思ったから、お姫様をガラスの棺に納めたんでしょう?」
小人たちは呆然と目を見開いてウェオレトの言葉を聞いていましたが、やがて一人が泣き始めると、他の小人たちもみんな泣き出しました。
ウェオレトは小人たちが泣き続ける中、ガラスの棺に納められたソルリーナを見ました。本当に可愛らしい人だと、改めてそう思いました。どうして死んでしまったのだろう、どうして自分はもっと早くに来なかったのだろうと、もっと早くに来ていたならばお姫様を守ることが出来たのにと、残念で悔しい気持ちでいっぱいになりました。
「君たち、悲しい気持ちも分かるけれど、ずっと泣いてばかりではいけないよ。僕はこの国での死者の弔い方を知らないけれど、早くお姫様を弔ってあげるべきだよ」
小人たちが微かに頷く姿を確認すると、ウェオレトは「それじゃあ、さようなら。僕は旅を続けなくちゃいけないから」と言って、去って行きました。
その後、小人たちはソルリーナを弔うために穴を掘り、その穴にガラスの棺を埋めようとみんなでガラスの棺を運んでいました。ところが、運んでいる途中で小人の一人が小石に躓き、バランスを崩したその拍子に、ガラスの棺を思い切り木にぶつけてしまいました。
小人たちは慌てて、ガラスの棺を地面に置き、その中に納められたソルリーナの様子を窺いました。すると、驚いたことにソルリーナの目は開かれていて、自分の身に何が起きたのか分からないためか、ソルリーナはガラス越しにとても驚いた様子で自分を見つめる小人たちを、とても不思議そうに見つめ返しました。
どんなに可愛らしい人でも、死んでしまっている人と結婚することは出来ないな、とウェオレトは森の中を進みながら思いました。そして、領主の娘であるあの少女は鬱陶しいくらいに毎日元気いっぱいで、生気に満ち溢れていたな、とふと思いました。