ソルリーナ 1
とあるお城に、とても美しい王妃がいました。
王妃は、自我を持つ魔法の鏡を持っていました。王妃は毎日、その魔法の鏡に向かって何度も同じ問いかけをしました。「鏡よ、鏡。世界で一番美しい女性は誰?」と。
その問いかけに対する答えは、いつも同じでした。王妃は自分こそが世界で一番美しいのだと信じていました。そして魔法の鏡もまたそれに同意し、王妃はとても満足した日々を送っていました。
ある日、王妃はいつものように魔法の鏡に向かって問いかけました。「鏡よ、鏡。世界で一番美しい女性は誰?」と。
魔法の鏡は答えました。
「それは雪のように白い肌、血のように赤い唇、黒檀のように黒い髪を持つ、この城に住むソルリーナ姫です」
王妃はあまりに驚いて、一瞬頭の中が真っ白になったかのように何も考えられなくなりました。けれど次の瞬間、王妃の頭は自分の娘であるソルリーナへの激しい憎悪で一杯になりました。王妃はすぐさま猟師を呼び出させると、ソルリーナを森に連れて行くように命じました。
「王女の肝臓を持ち帰りなさい。私の命に逆らったならば、反逆罪でお前の一族諸共極刑に処します」
猟師は困り果てました。まだ幼さの残る可愛らしい少女を、猟師にはとても殺すことは出来そうにありません。しかし、だからと言って王妃の命に背けば、猟師は一族諸共殺されてしまいます。猟師は悩みながらも、ソルリーナを森へと連れて行きました。
「見て! あそこにもきれいな花が咲いているわ。森の奥ってきれいな花がたくさん咲いているのね。鳥の声もとってもきれいね!」
繋いでいる猟師の手を何度も引いては、そのような言葉を口にして無邪気にはしゃぐソルリーナを見つめながら、猟師は一つの決心をしました。
「王女様、あちらにとても綺麗な花畑がございます」
猟師はそう言って、少し遠くの、木々が生い茂り陰になっている場所を指差しました。それを聞いたソルリーナは、ほんの少しでも早くその花畑を見たいと思い、繋いだ手を離し、猟師の指差した場所に向かって駆け出しました。その駆け出す姿を確認すると、猟師はソルリーナとは反対方向に向かって駆け出しました。そして、猟師はそのままソルリーナを森の奥に置き去りにしました。
猟師は、森の中で捕らえたイノシシの肝臓をソルリーナの肝臓の代わりにお城に持ち帰りました。それを受け取った王妃は大層喜び、その肝臓を塩茹でにさせてその日の夕食に食べました。
猟師に置き去りにされたソルリーナは、ただひたすらに森の奥へと歩きました。歩き進むうちに段々と日が沈んでいき、それに従って暗くなる森に、ただ一人きりでいることのあまりの心細さにソルリーナが泣き出しそうになる頃、目の前に一つの小さな小屋が見えました。ソルリーナは猟師と別れてから初めての人の気配に嬉しくなり、それまでの疲れを忘れてその小屋へと足早に向かいました。
ところが、ソルリーナが何度その小屋の扉を叩いても返事が返ってきません。ソルリーナは迷いましたが、辺りのあまりの暗さに、外に一人でいることの怖さが勝り、やがて恐る恐るその扉を開けました。
小屋の中にはやはり誰もいないようでした。ソルリーナは小屋の中に入り部屋を見て回りながら、そこにある家具があまりに小さいことについて不思議に思いました。
「一体ここは誰のおうちかしら?」
思わずそう呟きながら、ソルリーナは一番奥の部屋の扉を開けました。
するとそこには7つの小さなベッドが並んでいました。それを見て可愛らしいと思うと同時に、それまで忘れかけていた疲れが一気に襲いかかって来たのか、ソルリーナは急に眠くなりました。そして自分でも気付かないうちにソルリーナは徐にそれらのベッドに横たわると、そのまま眠ってしまいました。