キッツェア 1
とある町にキッツェアという少女がいました。キッツェアは幼い頃に母を亡くしましたが、大公である父親にとても大切に育てられました。キッツェアも父親のことが大好きでした。しかし、キッツェアは父親の再婚相手をどうしても好きになれませんでした。
キッツェアは父親の再婚相手からいつも嫌がらせをされていました。顔を合わせれば何か嫌味を言われるのは当たり前で、時には食事の席で突然水を浴びせられ、また頬を叩かれることもありました。そのため毎日父親が家にいない間、とてもつらく悲しい思いをしていましたが、再婚相手に向かって幸せそうな顔を見せる父親にそんなことは言えませんでした。
キッツェアには裁縫の先生がいました。裁縫の先生は、キッツェアが父親の再婚相手に嫌がらせをされて毎日つらい思いをしていることを知っていました。そしてある日、キッツェアに父親の再婚相手を殺す手伝いをしてあげると言いました。驚くキッツェアに裁縫の先生は更に、自分は絶対にキッツェアにつらく悲しい思いをさせたりしないから、どうか父親との再婚を認めて欲しいと言いました。
そこでキッツェアは父親との再婚を認めることを約束して、裁縫の先生と一緒に父親の再婚相手を衣装箱に挟み、その首を折って殺しました。
突然再婚相手を失った父親は大層悲しみましたが、裁縫の先生はそんな父親を支え続け、またキッツェアも二人を後押ししたため、間もなく父親は裁縫の先生と結婚しました。キッツェアは二人の結婚にとても喜びました。これでようやくみんなが幸せになれると思ったからです。ところが、裁縫の先生であった継母は父親と再婚すると6人の実の娘を家に迎え、キッツェアとの約束を破ってキッツェアに対して辛く当たるようになりました。
キッツェアも始めは約束が違うと継母に抵抗しましたが、やがて継母やその娘たちの言われるままにみすぼらしい衣服を身につけ、まるで下女のように掃除や洗濯といった仕事をするようになりました。ただ、父親が家にいる間だけは継母もその娘たちもまるで何事もなかったかのように、キッツェアに対し優しく接したため、父親はキッツェアが継母たちからひどい扱いを受けていることは全く知りませんでした。
ある日、父親が仕事で遠くの地に出かけることになりました。そこで父親は娘たちにそれぞれ土産に何が欲しいかを尋ねました。すると継母の娘たちは揃って、宝石のたくさんついた首飾りや高級な布を使ったドレスなどといった豪華なものばかりをねだりました。しかし父親は軽く頷いてそれら全てを約束すると、今度はキッツェアにも何が欲しいかを尋ねてきました。
「お父様、私は妖精の鳩がくれるものが欲しいの」
キッツェアがそう言うと、さすがの父親も驚いた表情をしました。
「妖精の鳩、かい?」
「そうよ、お父様。昨日、夢に見たの。妖精の鳩は、他の鳩と違って真っ白い色をしているからすぐに分かるわ」
「真っ白な鳩、か。私もまだ見たことがないけれど、その鳩が妖精の鳩なんだね? 分かったよ。キッツェアにはその妖精の鳩がくれるものをあげよう」
父親はそう言って少し困ったような表情をしながら、キッツェアの頭を撫でて約束しました。
父親が遠くの地に旅立ってからは、キッツェアにとってより一層つらい毎日となりました。継母もその娘たちもしばらくの間は父親が帰って来ないことを好いことに、今まで以上に好き勝手なことをし始めました。それぞれが次々とドレスを仕立ててはパーティーへ出かけていき、継母に至ってはそこで若い男も捕まえたようで、金を湯水のように使い続け、面倒事は全てキッツェアに押しつけました。
さすがのキッツェアもこのままではいけないと、何とかして止めようとしたものの、そんなキッツェアを邪魔に思った継母たちによって、とうとうキッツェアは暗くて狭い屋根裏部屋に一人閉じ込められてしまいました。