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「すみません、許してください!本当に……もう二度としませんから!」
「うっさいのぉ。ええから黙っとけや。」
「本当にっ……」
謝り続ける男の視界に映るのはニヤリと笑う悪魔のような男。
買い物帰りの愛久に声を掛けただけ。
ただ、それだけで地獄送りにされたのだ。
下心は無かったか?と聞かれれば否定は出来ない。
だが、それがあろうと無かろうと赤夜にとってそれは重要な問題では無い。
声を掛けた。それだけで死刑が確定しているのだ。
素直に罪の上乗せをしようとも、命乞いをしようとも、いくら従い懇願しようとも、最初に下された決断が揺らぐことは無い。
「あいつに気安く声をかけていいのは女子供と俺が知ってるやつだけ。」
気に入らないやつは殺せばいい。を実行するのが墨河赤夜という男である。
前までは裏切ったと彼女にも怒りを顕にしていたが、愛久に対してそういった感情が湧くことは無かった。
ただただ、相手だけに対して強い殺意を抱くのである。
無駄に命を奪うな。と陽橙に言われても、無駄な命を消してやっているだけ。と理解し難い言葉が返ってくるのだ。
勿論愛久は自分に声を掛けた人が知らないところでそんな目に遭っている事は知らないし、よく行くコンビニの店員も辞めただけだと思っている。
あの日を境に赤夜は愛久に言葉で伝えるようになった。
行動だけではなく言葉でも伝えられる愛に愛久は溺れていた。
伝えるのが照れくさいだとか、そういった理由で言わないのだと思っていたが、一度溢れさせるともう二度と留めることが出来なくなるという事を理解して言わなかっただけなのである。
人によっては受け止めきれないほどの愛を与える赤夜は、同じように返してくれる愛久に対する愛が日に日に増してゆく。
赤夜に好意を寄せる女性達は見ることが出来ない顔を、聞くことが出来ない声を、言葉を、愛久は独り占めしているのだ。
それは赤夜にも当てはまることで、傍から見れば仲が良いバカップルと呼ばれるような二人なのである。
愛久に愛を伝えてからは前よりは少し落ち着き大人しくなった赤夜。
いや、愛久絡みになると前よりも過激なのでプラマイゼロといったところだろうか。
求める回数が多い方では無い。
そう思えていた愛久はもういない。
一度気持ちを溢れさせてからは回数が増えたのだ。
それ自体は特に問題はなかったが、今まで以上に体力が必要となってくる。
勿論不調時は求めてはこないがその分受け入れた時に受け止めきれないほどの愛を与えられるのである。
ただそれさえも、愛久にとっては喜びであり幸せを感じる瞬間なのだ。
それは赤夜も同じ気持ちであり、愛が膨れ上がる一方なのである。
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愛する人には自由を。
邪魔する者には死を。
愛する人が最期に見るのは俺の顔。
愛する人が最期に聞くのは俺の声。
ああ、邪魔するやつも最期に俺の顔を見て俺の声を聞くのか。
同じなのは気に食わない。
なら、俺が最期に見るのは愛久の泣き顔。
俺が最期に聞くのは愛久の愛の言葉。
そうしよう。
愛する人には俺より長生きすることが条件付きの自由を。
邪魔する者にはとっておきの死を。




