09
「赤夜くん。」
沈黙の中最初に声をかけたのは愛久だった。
「何?」
「ごめんね。」
「何が?」
「巻き込んじゃって。」
「巻き込む?アホか。俺が引っ張り出したったんやろ。
ごめんじゃなくて有難うって言えボケ。」
「……有難う。来てくれて、助けてくれて……有難う。」
「おう。」
運転する赤夜を初めて見る愛久は思わず「かっこいい。」と呟く。
「なんやねん。」
「かっこいいなぁと思って。」
「はいはい。……帰ったら覚えとけよ。」
「やっぱり怒ってるんじゃん!」
「そりゃそうやろ。
連絡先消しとったらもっと早く家帰れとったし今頃飯食って風呂入ってたやろ。」
「うん……ごめんなさい。」
「二人でおる時間減るやんけ。」
「……え?」
「あ?」
「ねぇ、赤夜くん。」
「なんや。」
「赤夜くんって、私の事大好きだよね?」
「……あんま調子乗んなよ。」
「好きじゃないの?」
真っ直ぐ前を見ていた赤夜はチラリと愛久の顔を見る。
「分かるやろ。」
「分かんないよ。」
「わざわざ車出して迎えに行ってんのに?」
「うん。」
「お前ほんまアホなんやな。」
「アホでいいもん。ねぇ、好きだよね?」
「…………。」
「ねぇ?赤夜くん!私は大好きだよ!」
「あー、もうまた出た。その好き好きうるさいやつ。」
「だって好きなんだもん!」
「分かった分かった。もう家着くまで寝とってくれ。」
「やだ!私赤夜くんから好きって言われた事ないよ?好きじゃないの?」
「……はぁ。ほんまうるさい。」
「ねぇ、一回だけ!一回だけでいいから言ってよ!」
「うるさい。」
「もー!分かった!好きじゃないんだ!思わせぶりな事してるだけなんだ!」
「はぁ!?なんでそうなんねん。」
「だって言ってくれないもん!もう半年過ぎてるのに言ってくれな────」
「うっさい好きじゃボケ。」
「え!?」
愛久は先程まで泣いていたせいか普段より目を輝かせる。
「今好きって言った!?」
「……うるさいねんもう。ほんまに静かにして。」
「わ、赤夜くん顔熱いね。ふふ、可愛い。」
「お前ほんましばくで?」
「ふふ、ふふふ。幸せ。」
「……。」
街灯に照らされる赤夜が少し微笑んでいるのに気付いた愛久は、赤夜の腕にしがみつきたかったが運転中なので我慢をした。
家に着くまでニヤニヤと頬を緩ませっぱなしだった愛久は、キツいお仕置が待ち構えているとは思いもしなかった。
──────────────
家に着くやいなやベッドへと連行された愛久は久しぶりに赤夜からの愛を全身で感じる事になる。
痛みを伴う暴力こそ無いものの、苦しみはいつも以上に与えられ、シーツはぐしょぐしょに濡れ、髪は乱れ、メイクも殆ど落ちてしまった。
「せ……きやく……!」
「なあに?」
「好きっ!」
「知ってる。」
「好……き、っ!」
「……俺も好きやで。」
苦しみから解放されたあとは快楽地獄と呼ぶにふさわしい程絶頂に達した。
何度も何度も絶頂を迎え、気を失いかけてもそれは許されることは無く、「もうやめて。」と懇願すれば、「ほんまに?」と意地悪に聞かれ、「もう無理。」だと伝えると、嬉しそうに笑うだけで辞めてはくれない。
休む間もなく次から次へと刺激され、どこを触れられても身体が跳ねるほどになってしまった。
赤夜はそれを愛おしそうに見つめており、愛久が赤夜を求め始めると嬉しそうに抱きしめた。
唇を何度重ねたのかもう分からない。
好きと言われる度に心がギュッと締まりドクドクと波打つ。
俺のものだと言わんばかりにあちこちにキスをし甘噛みをする赤夜が愛おしい。
このまま噛み殺されても構わない、そう思えるほどに。
気が付けば外は静まり返っており、薄らと日が差し始める。
「何時間してんねん。」
窓から外を眺めながら呟く赤夜と、ぐったりとした愛久。
「愛久ちゃん。」
横たわる愛久の上に覆い被さる赤夜。
「え!?まだ!?」
愛久の掠れた声が響くと赤夜は笑いながら頭を撫でた。
「なに?まだしたいん?欲しがりやな。」
「本当にもう無理。壊れちゃう。」
「なんや、まだ壊れてへんの?」
顔を近付け額にキスをする赤夜と、一瞬見せた意地悪な表情を見逃さなかった愛久。
「俺今日休もっかな。なぁ?」
「……え?」
「俺と一緒におれて嬉しい?」
「う、うん。嬉しい。けど……。」
「けど、何?」
「もう本当に無理だよ?」
「なんで?まだ壊れてへんのやろ?」
「壊れてる!もう無理!」
「っははは、はいはい。分かった。ちょっと休憩しよか。腹も減ったし。」
赤夜が愛久の上から退き座ると愛久は少し安心する。
「なぁ、愛久。」
「うん?」
「お前二度と余所見すんなよ。」
「え?急に何?」
「俺おったらそれでええやろ?なぁ?」
「うん。赤夜くんがいてくれたらそれでいい。」
「俺もお前がおってくれたらそれでええし。」
固まる愛久を横目に赤夜は「それにしても腹減ったな。なんか用意するわ。」と腹をさすりながら立ち上がり部屋を出て行き、愛久はやっと言葉の意味を理解し叫んだ。
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「へぇ。で?結局上手くいってるんだ?」
「おー。」
パソコンの画面を見ながら話す陽橙と椅子に座り煙草を吸う赤夜。
「浮かれて話したら歌にまでされたんだ?」
クスクスと笑う陽橙に向けて煙を吐きかける。
「久しぶりに連絡きたから喋っとったらつい。
まさか歌にすると思わんやん。ほんま舐め腐ってんであのガキ。」
「白風黄汰もこんな奴が幼なじみだなんて不憫だね。」
「なんでやねん。嬉しいやろ?」
「どうしてそう思うのか理解に苦しむよ。」
「は?なんかあった時心強いやろ?」
「……心強いって悪の方じゃなくて善の方がいいよね。」
「あんま大差ないやろ。」
「あるだろ……。はぁ、もう僕に構ってないではやく行きなよ。」
「冷たいなぁ。でもほんまそろそろ行かなあかんな。」
赤夜は灰皿にタバコを押し付けると陽橙に手を振り部屋を出ていった。
「与えられた分以上の愛を歪みで返す。
ただ本人は歪んでいる自覚は無いし、指摘されたところでお得意のキョトン顔だろう。
……無自覚の歪んだ愛は恐ろしいね。」




