表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歪愛  作者: 藤岡
墨河 赤夜
32/35

07

「ごめんなさい!赤夜くん、ごめんね!」

「うるせぇよ。」

外でたまたま見知らぬ男と楽しげに話している愛久を見かけた赤夜。

声を掛けようと近寄るが愛久と男は赤夜に気付く前に手を振り別の道を歩き始める。

赤夜は携帯電話を取り出し「もう帰る。」と陽橙に連絡を入れるとそのまま愛久の後ろをついて家へと帰った。

エレベーター待ちをしていた愛久は不機嫌そうな赤夜がこっちに向かって歩いてきていることに気付き足が竦む。

「早かったね?おかえりなさい、赤夜くん。」

赤夜は返事をすること無く黙ったまま愛久の腕を掴みエレベーターに乗り込む。

エレベーターを降りると足早に自分の家へと向かう赤夜。

腕を掴まれている愛久はよろけながら必死に赤夜について行った。

玄関の鍵を開け家の中に入りドアが閉まる。

ガチャンと音を立て鍵が閉まると同時に愛久はその場に押し倒された。

「せ、赤夜くん?」

「さっきの誰?」

「さっき?……あ、コンビニの店員さんかな?」

「コンビニの店員がコンビニ外でなんの用?」

「たまたま会ったから挨拶しただけだよ?」

「挨拶するほど仲が良いってこと?」

腕を押えつけ見下ろす赤夜の目は誰が見ても殺人経験があると分かる目だった。

「落ち着いて?何も無いよ?」

「お前は俺が好きなんやろ?」

「うん、大好き。大好きだよ赤夜くん。」

「ほんなら他の男とイチャこいてんちゃうぞボケ。」

愛久の頬に痛みが走る。

「赤夜くん……。」

赤夜の目は変わらず殺意に満ちており、愛久の息が荒くなっていく。

「そもそもなんでこんな時間に外ほっつき歩いてんねん?なぁ、おい!」

「ごめん、ごめんなさい!」

「なんでやって聞いてんねん。答えろ。」

逆側の頬に痛みが走ると愛久の目から涙が溢れた。

「ちょっと風に当たりたくて……ごめんなさい。」

「連絡せぇよ。」

「うん、ごめんなさい。私が悪い。ごめんなさい。」

泣きながら謝る愛久を見た赤夜は愛久の上からおりると愛久の髪を掴み寝室へと向かう。

「ごめんなさい!赤夜くん、ごめんね!」

「うるせぇよ。」

ベッドに放り投げられた愛久。

その上に赤夜が跨り愛久の目を見ながらゆっくりと手が伸びる。

その手は愛久の首にそっと触れると一気に力が込められた。

「ぁっがっ!」

「お前は俺だけ見とったらええねん。」

「ぅっ!!」

愛久が足をバタバタさせ赤夜の腕を掴むも赤夜の力が緩まることはなかった。

愛久がじわりと漏らしながら体を動かすと、赤夜の頬が緩み始める。

赤夜は愛久が苦しみ意識が飛ぶ寸前の顔が好きなのだ。

「っっはぁ!はぁっはあっはぁっ!」

解放された愛久が大きく息を吸い込む途中、赤夜が唇を重ねまた息苦しさを感じる。

口内に侵入した舌がヌルヌルと動く度に脳が痺れる感覚に陥る。

頬に手が触れると体がビクリと跳ねるが、優しく撫でられ徐々に心が落ち着いていく。

舌も手も止まることはなくそのまま壊れないように優しくそっと抱きしめられる。

これが赤夜なりの愛情表現なのだ。

赤夜は他の人より嫉妬しやすく、嫉妬をすれば我を忘れてしまうのだ。

愛されている証拠なのだ。

愛久はそう考えながら赤夜に身を任せた。

「愛久ちゃん。」

脳を直接揺さぶられるような低音ボイスで甘える赤夜。

あれだけ怖い目で見てきておいて。

暴力をしておいて。

苦しめておいて。

だけど。

嫉妬に狂うほど私の事が好きで。

私の好きな顔を見る度に興奮してくれて。

求める時はだれよりも甘えん坊で優しくて。

「赤夜くん。大好きだよ。」


これがきっかけとなり赤夜の嫉妬から来る独占欲と支配欲による暴力が振るわれるようになった。

頻繁では無く、何かきっかけが無い限りは普段通りなのだが、赤夜が嫉妬するきっかけが何なのか愛久にもわからなかったのだ。

痣ができるほど、骨が折れるほどの暴力はされない。

ただ、必ずと言っていいほどに首を絞められそのまま求められる。

普通の人からすれば異常であり即刻離れるべきだと判断するのだろうが、愛久はこれが最大の愛の証だとし受け入れていた。

だがこの二ヶ月ほど赤夜が大人しいのである。

甘えることも減り、徐々に最初の頃に戻っているような気がした愛久は、自分に対する愛情が薄れているのでは?と不安になる。

元より愛を言葉で伝えられていたわけでもなければ、正式に彼女だと言われたこともない。

ただ、家に住まわせてもらえていることから勝手に付き合っていると勘違いしているだけなのかも?と思った事もあるが、家を出ようとすれば赤夜に止められるのである。

「また、愛されたい。言葉が無くても嫌という程伝わる愛が欲しい。」

──────────────

「え?どういう事ですか?」

「本当にごめん。愛久ちゃんと連絡とってたのが嫁にバレてさ。

不倫だって騒ぐから、それは違うって言ってるんだけど、どうしても愛久ちゃんと話がしたいって。」

「えー、面倒くさいんでやめてもらえます?」

「本当にごめん。違うって言ってくれればいいから。」

「私好きな人いるし本当に嫌なんですけど。」

「うん、分かってるよ。嫌だよね、こんなおじさんと。本当にごめんね。」

「もうそっちで勝手にしてくださいよ。

私を巻き込まないでください。

そもそも連絡取ってたってそっちが一方的に送ってきてただけでしょ?

奥さんはそれを見て不倫だって言ってるの?」

「うん……本当にごめんね。」

赤夜が家を出て少し経った頃、何度も何度もしつこく電話をかけてくる元客。

ブロックをしても良かったが、店を辞めたあとの体調を気遣ってくれたりと特に問題発言をするわけでも、店外で会いたがるわけでも、返信を強要するわけでも無かった為そのまま放っておいたのだ。

だがやはり店を辞めた時点で客とは全て切るべきだった。

こうして客の妻が不倫を疑ったり、人が違えばストーカーになったりと厄介な問題に巻き込まれるのである。

元客が本名を知っているのは、接客中に愛久が自分の名前をポロリと言ってしまったせいなので完全に自業自得である。

きっと赤夜がこの状態を知れば愛久は叱られるだろう。

なんならこれを機に愛想を尽かされ捨てられるかもしれない。

そう考えた愛久は怖くなり赤夜に話すのはやめておこうという決断に至ってしまった。

「で、私にどうしろって?」

「一回だけ嫁に会って誤解だと話してほしい。

愛久ちゃんを見ればこんな美人が冴えないおじさんの相手をするわけないって分かるはずだから。……あ、ちょっと待っ──」

ガサガサと布が擦れる音と女性の怒鳴る声が聞こえ、愛久は呆れ頭を抱えた。

元客はきっと家の中で電話をかけてきたのだろう。

しかも妻がいる状態で。

「もしもし?」

興奮気味に話しかけてきたこの女性は元客の妻だろう。

「はい。」

「貴女ね?主人とコソコソ連絡を取り合ってる女!」

「取り合っていませんよ。メッセージ画面見ていないんですか?」

「嘘ばっかり!どうせ自分が送ったメッセージを消してるんでしょう?」

「消してたら削除しましたとか取り消しましたって表示されるはずです。」

「ああ言えばこう言う!本当、不倫なんかする女はろくな奴がいない!!」

「だから、してないんですって。」

「それを私に直接言える!?」

「今言ってるじゃないですか。」

「直接目を見て言えるの?って聞いてるの!!」

怒鳴り続ける女性に愛久はうんざりとする。

「言えますよ。」

「言ったわね?じゃあ今から言う住所に来なさい!!」

「はい?」

元客の妻は愛久の言葉を待たず住所を伝えるとそのまま電話を切った。

愛久は呆然と立ち尽くし、このまま無視しようかとも思ったが、それでしつこく連絡をしてこられても困る。

ここでブロックをすれば逃げただなんだと騒がれるだろうし、どんな手を使って居場所を突き止めてくるかも分からない。

自分の家ならまだしもここは赤夜の家の為、こんなくだらない事で迷惑をかけるわけにもいかない。

「はぁ……。」

愛久はメイクを直し髪を整え着替えると重い足を引きずって言われた住所へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ