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歪愛  作者: 藤岡
墨河 赤夜
29/35

04

愛久は顔で好きになることが多かった。

性格やスタイル、価値観等は二の次で、顔さえ好みであればすぐに好きになってしまうのだ。

その為、相手がどういった人間なのかを見極める力も無く、暴力を受けようと騙されようと顔が良いからという理由だけで耐えていたのだ。

酷い時には入院を必要とするほどの怪我をおったこともあったが、ごめんね。の一言で許してしまうのだ。

どれだけの暴力を受けようと、これがこの人の愛し方なんだと自分に言い聞かせ無理矢理納得していたのだ。

愛久自身も本当は分かっているのだ。

自分が男の人を見る目がないことくらい。

顔だけで選んではいけないという事くらい。

だが、好みの人をみかけると好きという気持ちが膨らむ一方で抑えが効かなくなるのである。


赤夜の事もそう。

顔が好き。それに加えて初めて好きな匂いだと思えた。運命の人なのかもしれない、そう思ったのだ。

手離したくない、自分を見てほしい、その一心から来る奇行。

普段は気持ちが悪いと突き放される事ばかりであったが、赤夜はそれを受け止めてくれた。

この人となら幸せになれる。

そう強く思ってしまったのだ。

「頑張らなきゃ!」

愛久はテーブルの上の食器を洗い、ベランダのドアを開け換気をし、ゴミを纏め、洗濯機を回す。

掃除機をかけ、拭き掃除をする。

きっと前に一緒に暮らしていた女性が用意したんだろうな。

赤夜くんがこんなに色々な家具を揃えるとは思えないしな。

そんな事を考えモヤモヤとしながらも、愛久は赤夜が喜ぶ顔を想像して張り切って家の事を済ませていった。

見違えるほどに綺麗になった部屋を見て満足気な顔をする愛久。

時計を見ると赤夜を起こす時間までまだ一時間も残っていた。

「あと一時間どうしようかな。」

そよそよと吹く風に心地良さを感じながら陽を浴びゆっくりしていると、あまり眠れていなかったのと一気に家事をしたことによる疲れが出たのか愛久の瞼は次第に重くなっていった。

「少しだけ寝ちゃおうかな。」

愛久は携帯電話を取り出しアラームを三十分後に設定し、そのまま眠りについた。

──────────────

「……今何時!?」

愛久が飛び起きると部屋は暗かった。

「うそ、なんで?アラーム合わせたよね!?怒られる!!」

愛久が赤夜を起こそうと立ち上がろうとした時、白いタオルケットがかけられている事に気付く。

「え、これ。」

よく見ればベランダのドアも閉まっており、洗濯物も畳まれはしていないが取り込まれている。

「赤夜くん?」

愛久が寝室に行くとそこには赤夜の姿は無く、玄関を見ると靴が無かった。

リビングに戻りテーブルの上を見ると一万円札と紙が一枚置かれていた。

「この金で好きなもん食って。」

それだけ書かれた紙が愛久にとっては愛おしくて、涙が溢れ出た。

なぜ泣いているの?と聞かれれば上手く答えられない。

でも、とても嬉しい。それだけは伝えられる。

このお金はきっと家事に対するお礼として渡されたものなのだろう。

帰れ帰れと言われ続けたがこの紙には書かれていない。

帰らなくてもいいのだろうか?

タオルケットを掛けてくれたのは、風邪をひかないように?

起こせばいいのに起こさなかったのは何故?

愛久の頭の中は様々な疑問と喜びが混じり合っていた。

「赤夜くん。大好きぃ。」

愛久は赤夜の匂いがするタオルケットをギュッと抱きしめ顔を埋めた。

──────────────

「え?じゃあ今赤夜の家には昨日騒いでいた人がいるの?」

「そう。」

「……刺されないようにね。」

「あー?何?珍しく心配でもしてくれてんの?」

「赤夜が刺されて死ぬことは構わないけど、その後の僕達が困るでしょ。」

「なんやねんそれ。

陽橙がこうやって紅葉と暮らせるようになったんって誰のおかげやっけ?」

「それは感謝してるよ。でもそれとこれとは別。

そもそもどうしてそんな人を連れて帰ったんだ?」

陽橙の質問に赤夜はうーんと首を傾げる。

「もしかして分からないの?」

「おー、なんでやろうな。

別にあのままヤるだけヤって追い出しても良かってんけど。」

「うわ、最低だな。」

「でも出来ひんかってんな。」

「……好きなの?」

「アホかお前。そんなガキみたいにすぐ好きになったりせんやろ。

それに、恋だとか愛だとかくだらんやろ。」

「うわー、捻くれてるね。」

陽橙はパソコンに打ち込みながら流すように返事をする。

「どんだけ好き好き言ってきたとしても、どうせ裏切るやん。」

「裏切られたんだ?」

「…………。」

「はは、なるほどね。過去に裏切られたからもう恋なんてしないって感じ?

……人は皆同じじゃないよ。」

「分かってるけど。」

「ふふ、へぇ、ああそう。」

「なんやねん。」

手を止めニヤニヤと笑う陽橙を赤夜は睨み付けたが、陽橙は気にせず続けた。

「赤夜って独占欲強そうだよね。

浮気なんてされたら浮気相手の事殺しそう。」

「……流石にそれはせんやろ。」

「何?今の間。」

ヘラヘラと笑う赤夜を見て陽橙は過去に裏切りがきっかけで少なくとも一人の命を奪ったのだと察する。

「赤夜は今家に連れ込んでる子とどうなりたいの?」

「別にどうもなりたくないけど。」

「じゃあ帰ったら追い出すの?」

「……うるさいねんなぁ。」

「追い出さない理由がそれだけは弱くない?」

「うーん。」

「一回話し合ってみたら?」

「何を?」

「分かってるくせに聞いてくるのやめてくれない?」

赤夜がケタケタと笑う姿を見て陽橙は胸騒ぎがした。

気に入らないやつは殺せばいい。そう考えている赤夜がもしこの彼女の事を気に入ってしまえば、彼女の客に対して何を思うのだろうか?気に入らないのではないだろうか?そう考えたからだ。

陽橙から見た愛久は誰もが認める美女の部類だろう。

正直に言えば並んでいればそれだけで絵になるような二人。

赤夜に恋をした女性をこの短期間でも何人か見かけたし、噂でもよく聞いていた。

女遊びが激しいと言われているが、赤夜から手を出したのではなく大体が女性からのアプローチで始まり体の関係に至ったのだろう。

そんな赤夜が一晩手も出さず泊めたというのだからそれだけで気に入っているということは明確である。

ただ、赤夜本人がそれに気付いていないのか、または気付いていないふりをしているのだろう。

それは過去に他の女性に裏切られたからだということも判明している。

陽橙は、裏切る事は良く無いと思うが裏切りたくなる気持ちも少しわかってしまった。

素っ気ない態度、暴力的で支配欲が強い。

最初に見た目で惚れてしまえばその後は王子とは真逆に位置する人間性に幻滅するだろう。

そんな時に王子のように思える人が現れればそちらに揺らいでしまうのかもしれない。

だが、非人道的であり生業としているものも世間からすれば悪魔の所業と呼ばれるような事。

そんな男を裏切れば自分にどんな形で返ってくるのか想像もつかず怯えるだろう。

いや、想像がつかないからこそ裏切れてしまうのだろうか?

少なくとも一人の女性は赤夜とは違う王子を赤夜の手によって奪われるという形で返されているはず。

もしかするとこの女性も今頃……。

愛久が裏切るとも裏切らないとも言い切れない。

もし裏切られたとすれば赤夜は構わず相手の男を殺すだろう。

裏切らないにしろ、赤夜の本性を知って耐えられるのだろうか?

陽橙は余計なお世話だな。と思いつつも、今後の二人の展開を想像しどう転んでも頭を悩ますものだと目頭を抑える。

一人ソワソワする陽橙。

向かい側に座っていた赤夜は、なんだコイツ?と不思議そうに見つめていた。

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