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歪愛  作者: 藤岡
灰月 陽橙
22/35

05

自宅に戻った陽橙は風呂に入りそのまま自室へと戻った。

布団の上に寝転がり目を閉じると、先程までの光景が鮮明に映し出される。

叫ぶ生贄と覆い被さる村人。

嫌がり抵抗する生贄を押さえつけ無理矢理侵入する村人。

男が言うように陽橙は興奮していた。

嫌だ。可哀想だ。残酷だ。と思っているのは事実である。

だが、体は反応してしまうのだ。

布越しに触れるとピクリと反応し熱を帯びる。

陽橙はそっと手を滑らせ直に触ると優しく握りゆっくりと摩る。

はぁはぁと息が上がり、目を閉じあの光景を思い出すと手の動きが速くなる。

「紅葉、も…みじっ!」

生贄の姿が紅葉の顔に、村人の姿が自分へと変化し、神社前から二人の家へと変わり、ベッドの上で激しく愛し合うのだ。

「イっ……!」

掌に広がる生暖かい液体。

体の力が抜けぼーっと天井を見つめながら、なんて想像をしているんだと自分を責める。

赤夜(せきや)が言った通り……僕は紅葉をそういう目で見ているのか?」

陽橙は重い体を起こしティッシュを手に取った。

拭ったものを見て吐き気を催す。

「僕は最低だ。」

──────────────

ほとんど眠れないまま朝を迎えた。

日が暮れるまでの村人は皆優しく気さくで良い人なのだ。

あの儀式が無い日は夜だって良い人なのだ。

あの日だけ皆が豹変するのだ。

小さな子供でさえあの光景を見る事が当たり前として育てられる。

村に車が数台入ってきた日は皆ウキウキとし始める。

数台で来る時は必ず生贄を乗せているからだ。

嫌がる人はいないのか?ときかれれば、それは勿論いる。

だがそんな事を言ってしまえば村人達から何を言われ何をされるのか分からないのである。

そんな人達は神社まで足を運ぶがその光景を直視することはほとんど無いのである。

生まれた時からこの環境下で育ち、女として生まれた者はこの村の為に外へ出ることは許されない。

進学の為、生贄探しのためといった理由で外に出る事を許されるのは男だけである。

ではなぜ陽橙は反対されたのか?

両親は陽橙が気付いていないだけで心の奥底ではこの仕来りを軽蔑している事を知っていたからである。

村の外へ出てそれが確信に変わった時、二度とこの村には帰らないと分かっていたのだ。

だが、息子がそれを望むならと許したのは親心から来る贔屓だろうか。

案の定陽橙は外へ出て暫く村に顔を出さないどころか親への連絡さえ絶った時期がある。

心配をした陽橙の父は村の外の運び人の一人である赤夜にこの話をした。

唯一陽橙と話していた外の人間である赤夜に、陽橙の身の回りの監視を頼んだのだ。

赤夜は、それは俺になんのメリットも無いから嫌だ。と断りを入れたが、それならば無理矢理にでも連れ帰らなければならないと伝えられ渋々首を縦に振ったのだ。

監視と言っても常に見張るだとかそういったものではなく、厄介な者に絡まれたりしたら助けてやってくれという大雑把なものであった。

赤夜が裏社会で名を馳せている事を知っていた陽橙の父は、陽橙が何も知らない中で最悪で最強の味方を付けていたのだ。

それもこれも陽橙が全てを知ったのは三年前。

陽橙が赤夜に連絡をしたあの日だ。

これには赤夜も驚いた。まさか陽橙から接触してくるとは思っていなかったからだ。

そこから更に赤夜を驚かせたのは、陽橙が自殺未遂をした女性を助けただけではなくその女性と恋に落ち一緒に暮らしたいと思っているという内容だ。

これが村長や村人に知られれば確実に紅葉は生贄対象である。

赤夜は陽橙の頼み事を聞く代わりに村へ顔を出すように提案した。

陽橙は何故村に?と疑問を抱くが、紅葉の現状と自分が生まれ育った村の仕来りが合致した事に今更気付き、赤夜に紅葉の事は村の人には話さないでくれと懇願した。

赤夜はそれを承諾した上で、村に顔を出し生贄を運ぶ手伝いをしろと話す。

そうすれば俺の仕事を手伝っているから黙っててやる。でも、手伝わないなら俺はお前の監視役だから全てを報告しなければならないと伝えられる。

陽橙はそこで初めて監視役がいることを知ったのだ。

監視役である赤夜は陽橙と接触すればそれを陽橙の両親に報告しなければならない。

そして、今の陽橙の現状も一緒に伝えなければならないのだ。

紅葉が自殺未遂をしたという事さえバレなければ交際相手がいることに関しては喜んでくれるだろう。

しかしそれは、紅葉を連れ村に帰ってこいと言われているようなものである。

もし紅葉があの村へ行きあの光景を目の当たりにしたらまた心を病んでしまうかもしれない。

そもそもそんな村で生まれ育った陽橙を軽蔑し離れるかもしれない。

そうなると紅葉は村の者に殺されてしまうのだ。

村の仕来りを知る者は他言する前に消されるのである。

村で生まれ育った者達が外に出ても許されるのは、他言すればどんな目に遭うのかが痛いほど分かっている為である。

生贄にもなれぬただの欲の発散の玩具にされ山に捨てられる。

そんな最期を迎えるくらいならば、と誰も話そうとはしない。

他言しても村に帰らなければ大丈夫と言いきれないのは、生贄を運んでくる赤夜のような人物の存在である。

外の世界だからといって油断していると運び人に探し出され連れ帰られる事を知っているのだ。

陽橙は暫く考えた。

そして出した答えは、赤夜の手伝いで人を運ぶ。そうすると両親は仕来りにも参列せよと言うはずなのでそれも承諾する。

紅葉があの人達に汚されるくらいなら自分がドロドロに汚れる覚悟をする。と。

そうして陽橙は三年前から運び人としてまたあの村に足を運んでいるのだ。

少し見ない間に加虐性が増した儀式に最初こそ目を瞑っていたが、それも悲しいことに慣れ始めていた。

一番辛いのは運んでいるときだ。

この人はあと数時間後にはあんな目に遭うのだと思うと助けてあげたいと強く思うのだ。

だが今の陽橙にはそんな力は無い。

陽橙からすれば、いつ村人や親に紅葉の事がバレるのか分からないし、気分屋である赤夜が自殺未遂というワードを話さないとも言いきれない。

誰にも強く出ることが出来ないのだ。

紅葉はやっと幸せになれる。

僕が幸せにするんだ。

誰にも壊させやしない。

その気持ちだけで乗り切った三年。

この先もずっと一緒にいたいと心から思う。

あの笑顔を守りたいと、そう思う。

なのにどうして、僕は紅葉の苦痛に歪む表情を求めているのだろう?

──────────────

昨夜見送られた一人の生贄と集まる村人。

その中に珍しく陽橙の父親がいた。

この人が終われば明日火葬と掃除をして遅くなってもいいから帰ろう。

紅葉に会える事を楽しみに耳を劈くほどの絶叫と鼻を歪ませる悪臭に耐える。

陽橙の父はその行為を見守るだけで参加はしていなかった。

そんな父を見て陽橙はどこかほっとしていた。

陽橙が幼い頃、父親が生贄をいたぶる姿を見た事がある。

幼い心は非常に震え父親に対する恐怖心を初めて感じたのがその時だ。

生贄の血を浴びても手を止めることはなく、かといって村人達のように楽しんでいるようでもなく、ただ義務として淡々と痛めつける父親が誰よりも怖かったのだ。

「落としたぞ!」

村人の声に反応しそちらを見ると膝から下を切り落とされ息絶えた生贄が横たわっている。

村人達は生贄を丁寧に箱に入れ白い布を掛けると蓋を閉めた。

足を切り落とすのは脱走しない為だと聞いた事があるが、正直あんな状態で逃げ出すことは不可能だろう。

仮に箱から出た所で見張りがいるし、見張りの目を掻い潜り外に出た所でこの神社は村の奥、灰月家のすぐ隣にあるのだ。

村の中を真っ直ぐ進まなければ出口は他に無い。

出口までに見張りの犬が数匹いる為吠えられて終わるだろう。

この切断もきっと加虐性からくる欲の捌け口なのだろうと陽橙は思っている。

その日のうちに掃除をすれば翌日が楽だと考える人も少なくは無い。

だが、この床に染み付いた血液や飛び散った肉も守り神が飲食するものとされ放置されるのだ。

翌日の朝になり肉が無くなっている、神がお召し上がりになったと歓喜する村人がいるが、ただ野鳥が食べただけだろう。

そういった考えにも至らない、そういった考えを持つ方が悪だとされるのがこの村に住む者の特徴である。

次々と自宅へ戻っていく村人を見送り、最後の一人を見送った陽橙も自宅へ戻ろうとした時、後ろから声をかけられた。

「陽橙。少し良いか?」

振り返った陽橙は顔を曇らせ返事をする。

「……はい、父さん。」

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