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白風 黄汰は人気シンガーソングライターである。
「幼い頃から楽器に触れたり、言葉を紡ぎ合わせ一つの詩にするのが好きだった。
自分が好きな事をして、それが好きだと言ってくれる人がいる事に少し照れる気持ちもあるけれど、とても嬉しく思います。」
インタビューに応える黄汰の言葉に歓喜するファン。
可愛らしい顔をしている事もあり女性人気が高く、その人気に対し僻む男性も少なくは無かった。
「白風さんは二十三歳と若くしてこれほどまでの人気を得たわけですが、今後頑張っていきたいことは何ですか?」
黄汰にインタビューをするアナウンサーに対し黄汰は少し考える素振りを見せる。
「そうですね……今までと特に変わらないと思いますが、僕はあまり恋愛的な詩を書いた事がないのでチャレンジしたいですね。」
「それは、これから恋愛の経験を重ねていきたいということですか?」
「あー……いや、重ねると言うよりは一人と深い愛を育めれば良い詩も書けそうですね。」
「白風さんの熱愛報道もそう遠くは無い、ということでしょうか?」
意地の悪い質問に黄汰は苦笑いをしながら「残念ながらそういった相手はいません。」と答える。
ファン達は黄汰の言葉一つ一つに感情を動かされる。
「黄汰くんはアイドルじゃないから恋愛をするのは自由だけど、実際熱愛報道なんか出たら心が空になってしまう。」
ファンの一人がSNSに書き込むとそれに賛同する人が一人、また一人と反応を示す。
自分のファンの中に歌ではなく見た目だけで好きだと言ってる人や、本気で恋をしている人がいることを知っている黄汰は、どうにかして燃えないように言葉を選び話すのである。
ただ、在り来りな事ばかりを言えばつまらなさを感じる人もいるだろうと、たまにこうして不安を煽るような言葉を散らせるのだ。
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「疲れた。早く帰りたい。」
取材と歌番組への出演を終えた黄汰は車に乗り込み上着を脱ぐ。
「お疲れ様。今日はどこにも寄らずに帰るか?」
黄汰のマネージャーは運転席に座ると問いかける。
「うん。今日はもう帰る。早く寝たい。眠すぎ。」
「了解。着いたら起こすから寝ててもいいよ。」
「ありがと。」
黄汰は静かに目を閉じ心地よい揺れに身を任せた。
呼吸をする度に少しずつ疲れが抜けていく。
それでも蓄積された疲れが取れる事はなく、ほんの少しだけ楽になった気がしているだけである。
「歌だけじゃなくてさぁ、踊りながら歌ったりそのまま別番組に直行する人達、最近では配信をしている人たちもいるんだっけ。
凄いよなぁ、俺には出来ないよ。」
「黄汰だって凄いだろ。
曲を出せば必ずトップを掻っ攫い、数ヶ月は確実にランキング五位以内に留まり続ける。
大袈裟なパフォーマンスをしなくても、出演回数が少なくても、配信をしなくてもそれだけの数字を出せる。
今この国で、安定した数字を出し続けられるのは間違いなく黄汰だけだよ。」
「はは、俺の事を過大評価しすぎだよ。
……でも、俺はこれから先も今のままでいいのかな。」
ガタガタと揺れる車内。
ゆっくりと目を開くと外は煌びやかなネオンに染まり黄汰の瞳に色をつけた。
「いいんじゃないか?
ただ、黄汰が変わりたいだとか他のことに挑戦したいと思うのなら全力で手伝うし、遠慮無く言ってくれよ。」
「うん。有難う高平さん。
……高平さんがいなけりゃ今の俺も存在しなかった。本当に有難うね。」
「今日はやけにしおらしいな。どうした?」
「別になんでもないよ。疲れているだけ。」
「ふっ、そうか。明日は久々の休みだしゆっくり過ごせよ。」
「うん。一日寝て過ごすよ。」
黄汰がそう言うと高平は愛おしそうに微笑んだ。




