第8話 森での魔物遭遇(また偶然で大勝利?)
朝。
まだ薄暗い空の下、俺たちは領主館を出発した。
馬車には簡易の荷物と食料、そして護衛としての三人娘――リサ、セレナ、ミリア。
「森って、どんなところなんですか?」(リサ)
「獣道も多いし、魔物も生息している。訓練されてない者には危険ね」(ミリア)
「でも悠真さんと一緒なら……大丈夫、ですよね?」(セレナ)
おい待て、なんで俺を安心材料にするんだ。俺が一番信用できねえよ。
昼頃、目的地である北の森へ到着した。
木々は鬱蒼と茂り、昼間だというのに光は届きにくく、薄暗い。
鳥の声もほとんどなく、ただ冷たい風が吹き抜けていた。
「……出そうね」(ミリア)
「怖い……」(リサ)
リサの手が俺の袖をぎゅっと掴む。
それを見たセレナが複雑な表情を浮かべ――。
「(ああもう……なんで俺の周りはこういう空気になるんだ……!)」
不意に、低い唸り声が響いた。
――グルルルルル。
木陰から現れたのは、巨大な狼。
いや、一匹だけではない。次から次へと群れが姿を現し、俺たちを囲んでいく。
「で、出たぁぁ!」(リサ)
「悠真さん、下がって!」(セレナ)
「……やっぱりこうなるのね」(ミリア)
剣を構えるミリア、杖を握りしめるセレナ。
俺はというと――。
「無理無理無理無理! 俺に戦わせるなぁぁ!」
狼の一匹が飛びかかってきた。
俺は思わず後ろに下がり、地面の石につまずいて転倒。
――ガシャン!
その拍子に俺の背負っていた荷物が爆発的に散乱。
中に入っていた干し肉が四方に飛び散り、狼たちは一斉にそれに飛びついた。
「えっ……?」
「まさか……食料で気を引いたの……!?」(セレナ)
「計算づく……?」(ミリア)
「さすが悠真さん!」(リサ)
いや違う、ただ転んだだけだ!
群れの中でもひときわ大きなボス狼が姿を現した。
漆黒の毛並みに、赤く光る瞳。
その存在感だけで全身が凍りつく。
「ひ、ひぃぃぃ!」
俺は慌てて木剣を振り回した。
すると――。
――バキッ!
木の枝を折ってしまい、その枝が真上の巨大な巣を直撃。
中から怒った大量の蜂が飛び出し、ボス狼に群がる。
「グギャアアアアア!」
狼は蜂に追われて森の奥へと逃げていった。
残された群れも慌てて散り散りに――。
「……勝った?」
「悠真さん、すごい……!」(リサ)
「偶然のはずがない……」(ミリア)
「やっぱり“選ばれし者”なんですね」(セレナ)
違う違う違う!
危機は去った。
俺たちは息をつきながら森を抜け、草原に出た。
「悠真さんがいてくれて、本当に良かった……」(リサ)
「あなたがいなかったら、私たちは危なかったわね」(セレナ)
「……結局、助けられたのは事実」(ミリア)
三人の言葉に俺は頭を抱えた。
「……だから俺は何もしてないって……」
しかし、すでに彼女たちの中で俺の評価は高まり続けていた。
夕暮れ。
領主館に戻る道すがら、俺はため息をついた。
「……どうしてこうも“脇役”でいられないんだ」
英雄扱いされるたびに、俺は必死で否定する。
だが、否定すればするほど運命は皮肉にも俺を中心に押し上げていく。
それはもう「補正」と呼ぶしかなかった。
そして、俺は気づかぬうちに――さらに深い物語の渦に巻き込まれていくのだった。




