第7話 領主からの無茶ぶり依頼
武闘会から一夜明けた朝。
屋敷の一室で目覚めた俺は、豪華すぎるベッドに沈み込みながら、昨日のことを思い出して頭を抱えた。
「……なんで俺が優勝してんだよ」
寝ぼけ眼で呟いた言葉は、誰に届くこともなく虚しく消える。
俺はただ、転んだり、巻き込まれたり、偶然に助けられてきただけなのに――周囲の人間は「英雄の再来」と信じて疑わない。
昨日の武闘会での歓声が、まだ耳に残っている。
そして同時に、三人のヒロインたちの複雑な視線も。
「……あの空気、絶対に後で揉めるやつだよな」
そんな予感が的中するかのように、朝食後すぐに俺は呼び出された。
向かったのは豪奢な謁見の間。
そこには領主ガルド卿と、その娘クリスティア嬢が待っていた。
「よく来てくれたな、悠真」
「い、いえ、俺なんか……」
俺が恐縮していると、ガルド卿は重々しく言葉を続ける。
「単刀直入に言おう。――そなたに、我が領地を脅かす魔物を討伐してもらいたい」
「……はい?」
魔物討伐? 討伐って……いやいやいや、俺にそんな戦力あるわけないだろ!?
必死で否定する俺。
「む、無理です! 俺、剣の扱いだって素人で!」
だが領主は「謙遜するな」とばかりに頷き、クリスティア嬢はうっとりと俺を見つめている。
「村を救い、武闘会で勝ち抜いた実力……しかも聖剣に選ばれし男。そなた以外に誰がいる」
「いや、あれ全部偶然……」
「慎ましさも英雄の証……!」
「だから違うって言ってんだろぉぉ!」
叫ぶ俺の声は、完全に届いていなかった。
さらに追い打ちをかけるように、ガルド卿は続けた。
「安心せよ。そなた一人で行かせはせん。腕利きの護衛をつけよう」
そう言って呼ばれたのは――。
「またあなたと一緒ね」(ミリア)
「悠真さんを放っておけないから」(セレナ)
「わ、私も……応援したいし!」(リサ)
三人娘だった。
「いやいや! 余計ややこしくなるだろ!」
だが領主は大満足そうに笑う。
完全に俺の意思は無視されていた。
討伐対象は、領地北にある森を根城とする魔物。
目撃情報によれば、巨大な狼のような姿をしており、群れを率いて家畜を襲っているらしい。
「……それ、完全に危険なやつじゃん」
俺は青ざめる。
だが領主は「大丈夫だ、そなたなら」と無根拠な自信を押し付けてきた。
「どうせまた、なんとかしてくれるのよね」(ミリア)
「でも……本当に危ないんじゃ……」(セレナ)
「悠真さんを信じる!」(リサ)
三人三様の反応に、俺の胃は再び痛み出した。
討伐は明日。
屋敷の客間で準備をしていると、次々とヒロインたちが訪れてきた。
「明日、無茶はしないで。……あなたは強いつもりかもしれないけど、私たちは違うから」(ミリア)
「もし怪我したら、私が治すから。だから一人で抱え込まないでね」(セレナ)
「……絶対、帰ってきてね」(リサ)
それぞれの言葉が胸に刺さり、俺は複雑な気持ちで頷くしかなかった。
夜。
窓から差し込む月明かりを見つめながら、俺は深くため息をついた。
「……脇役でいたいだけなのに」
それなのに、また物語の中心に放り込まれてしまった。
明日、森で待つのは魔物か、それとも――新たな誤解か。
不安と共に、俺の瞼はゆっくりと閉じられていった。




