第41話 事件も恋愛も呼び寄せる男
「さて、次の村に向かうぞ!」
勇者カイルが大剣を担ぎ、颯爽と歩き出す。
その背中を見つめながら、俺――悠真はげんなりしていた。
(……いやいや、俺は一人旅でのんびりするはずだったんだけど?)
昨日から勇者パーティに“監視”される形で同行中。
表向きは「一緒に旅をする仲間」だが、実態は「常に疑われている観察対象」。
……脇役ライフどこ行った。
「悠真さん」
隣に並んできたのは聖女セリーナ。金髪を揺らし、微笑みを浮かべている。
「は、はい!?」
「そ、そんなに驚かなくても……」
セリーナは小さく笑った。
「昨日からずっと一緒にいますけど……思ったより優しい方なんですね」
「え? いや、俺そんなことしてないけど」
「だって、火事の時も子どもを助けようと一歩踏み出してましたよね?」
「……見られてた!?」
実際は勇者たちが先に飛び込んでいったから、俺は出番ゼロだった。
でも“踏み出しかけた”だけで「優しい」と評価されるなんて……。
(やばい……これ、俺がヒロインとフラグ立ててるパターンじゃん!? いやいや、脇役だから! 俺はモブ!)
「おいおい、セリーナばっかりズルいぞー!」
反対側から元気いっぱいの声が飛んでくる。リンだ。
「ズルいって何が!?」
「お兄さんと仲良く話してるの! ねぇ、私も混ぜろって!」
ぐいっと腕を掴まれ、思い切り引き寄せられる。
「うわっ!? ちょ、近い!」
「へへっ、監視なら密着してた方がバッチリでしょ?」
「監視目的かよ!」
笑顔で距離ゼロのリンに引きずられ、俺は心臓バクバク。
……くそ、主人公補正の香りがしてきてるんだが!?
「ふむ……」
そんな俺たちを、フェリスが本から顔を上げてじっと見ていた。
「……恋愛沙汰で油断させる作戦ですか?」
「違うから!」
「やはり怪しい」
「疑い強まってるぅぅ!?」
その夜。
野営地で焚き火を囲みながら食事をしていると、弓使いシャロがぽつりと言った。
「……悠真さん」
「ん?」
「あなた、事件を呼ぶのかもしれない。でも……一緒にいると退屈しない」
「えっ、それ褒められてる? 貶されてる?」
無表情に近いシャロの声色は、どこかほんのり柔らかくて。
思わず心臓がドキリと跳ねる。
(やめろ! 俺はモブ! 脇役なんだってば! フラグ建築やめろぉぉ!)
その頃、勇者カイルは焚き火を見つめながらひとり思案していた。
(……やはり悠真、ただの通行人ではないな。だが――)
ちらりとこちらを見るカイルの瞳には、わずかな興味と、別の色が混じっているように見えた。
(……え、今の視線って……気のせい、だよな?)
こうして俺の「脇役一人旅」は完全に消え去り、勇者パーティとの監視生活が始まったのだった。




