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脇役な主人公補正者 ~影から世界を操る男~  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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33/46

第33話 旅の始まり

村を出てすぐの草原を、俺は一人で歩いていた。

 空は高く澄み、太陽は容赦なく照りつける。

 昨日まで村でのんびりしていた俺の体には、すでに汗が流れていた。


「……王都って、どっちだっけ?」


 出発からわずか三十分でこの疑問。

 いや、俺の頭に地図なんてあるわけがない。

 村人から「街道をまっすぐ行けば王都に着く」と聞いていたはずだが……問題はどっちが“まっすぐ”なのか、ということだ。


 結局、俺は「こっちだろう」と直感で進みはじめた。

 脇役の勘? いいや、ただの自信過剰だ。


 道すがら、牛車を引いている商人風の男に出会った。

 麦わら帽子をかぶり、腰には帳簿をぶら下げている。


「おい、兄ちゃん。どこに行くんだ?」


「王都だ」


 俺が胸を張って答えると、男は一瞬、ぽかんとした顔をした。


「……王都? そっち方向に行くと、砂漠しかねえぞ?」


「砂漠?」


 俺の頭に、炎天下で干からびる自分の姿がよぎった。


「え、でも……たぶん、王都って裏道があるんだろ?」


「裏道? いやいや、王都へは西の街道一本だ。そっちは東、完全に逆方向だぞ」


「……なるほど。だが、俺はあえて裏道を行く」


「はぁ!?」


 商人は心底驚いた顔をしていた。

 けれど俺は気づかなかったふりをして歩き出した。


(俺は脇役だ……! だからきっと、王道ルートじゃなくて脇道ルートで物語が進むんだ……!)


 そう、これは自己暗示。

 俺はただ単に、道を間違えたことを認めたくなかっただけだ。


 昼過ぎ。

 木陰で休憩しながら、俺は村のみんなを思い出していた。


「リサは泣きそうだったな……。セレナは期待しすぎだし。ミリアは信じてくれないし……。クリスティア嬢は、約束とか言うし……」


 あの四人の顔を思い出すだけで、胸がじんわりする。

 脇役の俺に、あんな真剣な眼差しを向けるなんて。

 だからこそ、余計に裏切りたくない。


「……よし、絶対に王都で会うぞ」


 そう呟いて荷物を開けると、中に小さなお守り袋が入っていた。

 見覚えがある。リサが持っていたやつだ。

 たぶん、俺に気づかれないように忍ばせてくれたんだろう。


 中を開けると、小さな薬草と、手書きの紙切れが入っていた。


《絶対に帰ってきてくださいね》


「……ったく」


 俺は思わず笑ってしまった。

 脇役にこんな重たい約束を背負わせるなっての。


 その夜。

 焚き火を囲み、簡素な干し肉をかじりながら空を見上げた。


「……寂しいな」


 今までは誰かが横にいた。

 リサの笑顔、セレナの知恵、ミリアの毒舌、クリスティアの気品。

 それが当たり前になっていたんだな。


「ま、俺には似合わねえよな」


 寂しさを打ち消すように、薪を放り込む。

 パチパチと音を立てる炎が、俺の影を揺らしていた。


「……でもまあ、明日には王都も近づくだろ」


 ――そう信じながら、俺は眠りについた。


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