第32話 別れの儀式
盗賊団騒動もひとまず収まり、村もようやく落ち着きを取り戻しつつあった。
そんな中、俺――佐藤悠真は、村の広場で仲間たちと向き合っていた。
「……じゃあ、俺は王都へ行く」
自分でも驚くくらいに真面目な声が出た。
普段なら「いや俺は脇役だから」と逃げ腰なのに、今日は妙に格好つけたくなったのだ。
リサが目を丸くした。
「本当に行っちゃうんですか? 悠真さん」
「お、おう……。まあ、いつまでもここにいるわけにもいかないしな」
俺の返答に、リサは唇を噛みしめた。
くりっとした瞳がうるうるしていて、正直見るのがつらい。
「絶対に……生きて戻ってきてくださいね!」
「お、おう……」
そんなフラグっぽいこと言うのやめてくれ。俺、死亡確定イベントに突入するNPCみたいじゃないか。
次にセレナが一歩前へ。
腰に手を当てて、いつもの冷静な笑顔を浮かべていた。
「あなたは村を救った英雄。王都に行けば、さらに大きな役割を担うはずよ。……だから、もっと立派な人になって、次に会うとき見せてちょうだい」
「いやいや! 俺は立派とかそういうの目指してないから!」
「ふふっ。言ってるそばから逃げ腰ね」
セレナの目が「期待してるわよ」と言っていて、胃のあたりがキリキリする。
そして、ミリア。
腕を組み、ため息をひとつ。
「どうせ道に迷うんだから、早めに戻れよ」
「いやいや! せめて信じろよ俺の方向感覚!」
「ふーん……自分で言っちゃうあたり、余計に信用できない」
くっ、図星すぎて反論できない。
そもそも俺、こっちの世界に来てから街から村に帰るだけで三回迷子になったんだった。
最後にクリスティア嬢。
両手を胸の前で組み、輝くような笑みを浮かべている。
「……またお会いできますわよね。王都で」
「ま、まあ……たぶん」
「たぶん、ではなく――約束、ですわ」
その青い瞳にまっすぐ見つめられて、俺は思わず背筋を伸ばした。
約束とか言われると逃げにくいんだよな……!
「……任せろ」
「ふふっ、頼もしいですわ」
――言っちゃった。
俺は任せられるような立場じゃない、ただの脇役なのに。
でも四人があまりに真剣に俺を見つめてくるから、気づけば格好つけてしまっていた。
村人たちも集まってきて、口々に声を上げる。
「行ってこい英雄!」
「王都でも頑張れ守護者!」
「帰ってきたら祝宴だぞ!」
「やめろぉぉ! 俺はただの脇役だってば!」
必死に否定したが、誰も聞いてくれない。
もうこれ、完全に主人公の出立イベントだよな。
俺は物陰から物語を眺める存在でありたいのに……!
それでも、四人の視線と村人たちの笑顔を受けて、俺は一歩を踏み出した。
「……よし、行ってくる」
背中でリサの「必ず帰ってきて!」という声が聞こえた。
セレナの「無茶しないで!」も。
ミリアの「本当に迷うなよ!」も。
そしてクリスティアの「王都で待ってますわ」という甘い囁きも。
――やれやれ。
俺は脇役のはずなのに、まるで物語の主役みたいじゃないか。
そう思いながら、王都へ向かって歩き出した。




