第3話 村祭りは恋の火種
季節は収穫祭。
村人総出で畑の実りを祝う大切な祭りの日だ。
俺――佐藤悠真は、例によって「できるだけ目立たず、隅っこで食べて帰る」つもりだった。
だが、世の中はそう簡単にいかない。
「悠真くん、一緒に回ろう?」
そう声をかけてきたのはリサ。
「ちょっと、悠真は私と先に行く約束してたの!」
割って入るのはセレナ。
「……約束なんてしてないぞ?」
「「えっ?」」
二人同時にこちらを睨む。
……いや、こっちが驚きたいんだが?
(なぜ俺はこうも誤解される!? 俺はただ静かに串焼き食べて帰りたいだけなのに!)
心の中で嘆きつつ、結局二人に腕を掴まれ、祭りの広場へと連行されることになった。
村の広場は賑やかだった。
屋台の煙、笑い声、楽器の音。子どもたちが走り回り、大人たちは酒を酌み交わしている。
俺はせめてもの抵抗として、串焼きを片手に大人しく食べていた。
そのとき――。
「……あら? あなたが悠真ね?」
艶やかな声が耳に届く。
振り向くと、鮮やかな青のドレスを纏った女性が立っていた。
村の村長の娘――ミリア。
普段は屋敷に籠もっているが、祭りの日だけは姿を現すという噂の人だ。
「えっ、村長様の娘さん……?」(リサ&セレナ)
「ふふ。あなたが“牛を倒し、蛇を追い払った英雄”だって聞いたわ。お会いできて嬉しい」
「……ちょっと待ってくれ。それ全部、誤解で――」
俺の言葉は最後まで聞いてもらえなかった。
ミリアはすっと手を差し出し、貴族らしい仕草で微笑む。
「あなたのような方に、ぜひ屋敷に案内したいの。勇敢で、しかも控えめな人……とても素敵だわ」
(……あ、これ完全に勘違いコースだ)
リサとセレナが同時に顔を真っ赤にして、俺とミリアを交互に見ている。
やめろ。頼むからそこで牽制し合うな。
そのときだった。
祭りの余興として火吹き芸をしていた男が、酒に酔ったのか火を大きく吹きすぎ、周りの屋台に火の粉が飛んだ。
「きゃああっ!」
「火事だ!」
あっという間に人々が騒ぎ始める。
(やめろやめろやめろ! こういうイベントに俺を巻き込むな!)
そう願った矢先、火の粉がリサのスカートに燃え移った。
「きゃっ!」
「リサ!」
俺は反射的に駆け出し、上着を脱いで火を叩き消した。
結果――リサを抱きしめる格好になってしまった。
周囲「おおおおおおっ!」
「ち、ちがう! 誤解だ!」
叫ぶ俺の横で、リサは顔を真っ赤にしながら小さな声で囁いた。
「……悠真くんに抱きしめられるなんて、夢みたい」
「違うって言ってるだろぉぉぉ!」
さらに、セレナとミリアが同時に俺を睨む。
「リサばっかりズルい!」(セレナ)
「……ますます興味が湧いたわね」(ミリア)
(やめてくれ……俺はただ串焼きを食べて帰りたいだけなんだ……!)
夜。
花火が上がる空を眺めながら、俺は頭を抱えていた。
「……またフラグが増えた。ハーレム補正ってやつか? 俺は脇役でいたいんだぞ……」
だが隣には、リサ、セレナ、そしてミリア。
三方向からの熱視線を浴びながら、俺はただ静かに現実逃避するしかなかった。