第24話 王都からの使者と新たな陰謀
盗賊団襲撃事件から、もう一週間ほどが過ぎていた。
村は相変わらず復興の真っ最中だが、その空気は奇妙な高揚感に満ちていた。
「悠真さん、やっぱりすごいんですよ!」
朝から顔を合わせたリサが、キラキラした目で俺を見上げる。
「え? な、なにが?」
「村の人たち、みんな言ってるんです。悠真さんは英雄だって!」
「………………」
あの夜、俺は本当にただ偶然助かっただけだ。
必死で剣を振り回した結果、盗賊団の頭領が勝手に転んで自爆した――それだけだ。
なのに、村人たちの口から出てくるのは「悠真様が一撃で倒した」とか「光に包まれた勇姿を見た」とかいう話ばかり。
「うぅ……胃が痛い」
「あなたは村の希望なのよ」
セレナが、半ば呆れたように、けれど真剣な目で言う。
「いや、希望とかやめてくれ。俺はただのモブで……」
「……また偶然で済ませるつもり?」
ミリアが冷たい声で切り捨てる。
怖い。マジでその通りすぎて反論できない。
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そんな日々の中、さらに追い打ちをかける出来事があった。
――ドンッ。
重厚なノック音とともに、村長が俺の小屋に現れたのだ。
手には分厚い封筒。蝋で厳重に封がされている。
「さ、佐藤殿。王都よりの使者がまもなく到着されるとのこと」
「……へ?」
封を開くと、そこには達筆な文字が並んでいた。
『英雄・悠真殿に謁見を求む』
……待て。英雄って誰のことだよ。俺じゃねえよ。
「う、うそだろ……完全にフラグ立ってるじゃん」
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そして数日後。
領主館の前に、王都からの使者がやってきた。
豪奢な馬車に乗り、武装した騎士を従え、見るからに高貴な身なりの一団だ。
領主ガルド卿が出迎え、俺も半ば強制的に列に並ばされる。
「彼が……例の《蒼紋剣の勇者》か」
使者の一人が俺をまじまじと見て、深々と頷いた。
「い、いやいやいや! 俺そんな大層なもんじゃないですから!」
必死の否定も空しく、使者は満足げに言葉を続ける。
「王都は喜んでおります。辺境の村に、かくも力ある英雄が現れたことを」
「ちょっ……やめてくださいマジで……!」
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さらに事態を悪化させたのは、例の錆びた剣――。
村の倉庫から借りただけの古ぼけた剣を、使者が凝視したのだ。
「やはり……《蒼紋剣》。伝承の通り……勇者を選びし聖なる剣……!」
「いや、ただの錆びついた鉄くずです!」
声を張り上げる俺だが、周囲の騎士や侍女はすでにざわめいている。
英雄だ、伝説だ、選ばれし者だ――と。
おい、聞けよ。俺の声を。俺の言葉を。
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そして追い打ち。
「まあっ……!」
澄んだ声が広間に響き、現れたのは領主の娘――クリスティア嬢だった。
絵に描いたようなお嬢様で、金の髪を揺らし、青い瞳をきらめかせて俺を見る。
「あなたが……私の命の恩人なのですね!」
「……え? は?」
どうやら以前、彼女の乗る馬車が盗賊に襲われたらしい。
そして「盗賊を退けた謎の英雄」がいた――と。
……はい、もちろん俺にすり替わってます。
「ちょ、ちょっと待って! それ俺じゃないですから!」
必死に否定するも、クリスティア嬢は頬を赤らめ、うっとりと囁いた。
「やはり……これは運命なのですわ」
「いやいやいや! 違うから!」
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その場をさらに混沌とさせたのは領主ガルド卿だった。
「――よし。そなたを、娘の婚約者候補と認めよう!」
「やめろぉぉぉぉ!」
俺の絶叫が広間に響く。
だが時すでに遅し。
リサとセレナは愕然とした顔で固まり、ミリアは呆れ顔。
そしてクリスティア嬢は、頬を赤らめ幸せそうに両手を胸に当てていた。
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その夜。
俺は豪奢な部屋に押し込まれ、ふかふかのベッドに沈みながら天井を見つめていた。
「……なんでこうなるんだよ……」
脇役でいたいだけなのに。
どうして俺は、気づけば物語の中心に祭り上げられているんだ?
窓の外の月は、まるで俺を嘲笑うかのように静かに輝いていた。




