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脇役な主人公補正者 ~影から世界を操る男~  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第22話 暗殺者の夜、英雄の誤算

その夜、領主館はどこか落ち着かない空気に包まれていた。

 昼間に宣言された婚約話のせいで、侍女たちの視線はやたら熱っぽい。


「まあ、あの方がクリスティア様の婚約者候補に……」

「英雄様よね……」

「でもちょっと頼りなさそう」


 小声が耳に突き刺さり、俺は自室のベッドに沈んだ。


「……はぁ。脇役って肩書きはどこに行ったんだよ……」


 疲労で目を閉じたはずが、どうにも眠れない。

 胸の奥が妙にざわついていた。


 その頃。

 領主館の屋根の上を、黒い影がすべるように走っていた。


「目標は令嬢。殺害しても構わぬ」

「英雄とやらが邪魔なら……消すまでだ」


 小声が交わされ、暗殺者たちは音もなく館内へ忍び込んでいく。


 不意に目が覚めた俺は、窓の外にかすかな気配を感じた。


「……ん? なんだ今の影」


 寝ぼけ眼で廊下に出ると、月明かりに照らされて走る黒い人影を見つけた。


「おいおい……まさかマジで忍者?」


 完全に不審者だ。

 だが俺は思わず足を止めてしまった。

 ――いや、待て。これは関わっちゃいけないやつだ。脇役の俺が首を突っ込んだら死亡フラグ一直線だろ。


 そう思った瞬間。


「きゃっ!」


 遠くから、クリスティア嬢の短い悲鳴。


「……ぐっ」


 体は勝手に走り出していた。


 俺が飛び込んだ先で見たのは、黒装束の男に腕を掴まれたクリスティア嬢の姿。


「放せぇぇぇ!」


 咄嗟に俺は近くの花瓶を掴んで、暗殺者の頭に叩きつけた。


「……ッ!」

 黒装束は驚いて手を離し、クリスティア嬢は転がるように逃げ出す。


「ゆ、悠真様!」


「いいから下がれ!」


 口が勝手に英雄っぽい台詞を吐いた。

 内心では冷や汗だくだというのに。


 だが次の瞬間。

 暗殺者が抜いた刃が、俺の頬をかすめる。


「ひぃっ!? やべ、これガチだろ!」


 俺は必死に椅子を掴んで盾にし、背後の扉を蹴破って廊下に飛び出した。

 暗殺者が追ってくる。


「――くそ、完全に狙われてる!」


 その時。


「悠真さん!」(リサ)

「下がって!」(セレナ)

「やっぱり厄介事に巻き込まれてるわね」(ミリア)


 三人が廊下に飛び出してきた。

 リサの杖から光の矢が放たれ、セレナの短剣が唸りを上げる。

 ミリアは呪文を唱え、床に氷の壁を生み出した。


「ちっ……!」

 暗殺者は舌打ちして後退し、闇へと消えた。


 静寂が戻ったとき、俺は床にへたり込んでいた。


「……し、死ぬかと思った……」


 クリスティア嬢は泣きじゃくりながら俺に縋りつく。

「助けてくださって……ありがとうございます……!」


「ち、違う! 本当に偶然だから!」


 だが侍女や騎士たちが駆けつけ、状況を見て一斉に叫ぶ。


「英雄様が暗殺者を撃退なさった!」


「やめろぉぉぉ!」


 こうして“英雄”の伝説は、さらに誇張されて広まっていく。

 だがその裏で、黒幕は新たな計画を練り始めていた。


 ――脇役を望む俺の願いは、またも無惨に打ち砕かれたのだった。


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