第17話 宴の裏で蠢く陰謀
領主館の大広間では、煌びやかな宴が続いていた。
煌々と輝くシャンデリア、溢れんばかりの料理と酒、舞う音楽。
俺は隅っこの席に座り、パンをちぎっては口に放り込みながらひたすら「空気」になろうと努めていた。
(俺はただの脇役。光の当たらないところで、そっと呼吸だけしていればいい……!)
そう心の中で念仏のように唱えていると、隣から声がした。
「――どうしたの、英雄様? 随分と隅っこがお好きね」
皮肉めいた笑みを浮かべているのはミリアだった。彼女は酒杯を傾けつつ、俺の顔色を探るようにじっと見つめる。
「いや……俺は宴とか眩しすぎて肌に悪いんだよ」
「それにしたって、目立つの嫌ならもっと堂々とすればいいのに。逆に怪しいわよ」
「理不尽だ!」
俺の抗議もむなしく、周囲の視線は依然として熱い。英雄様だの救世主だの、勝手に盛り上がっている。
だが、その熱気の裏側で。
廊下の奥、控え室ではまったく別の空気が漂っていた。
ルーク公子は酒杯を持ちながら、影のような存在――執事アルベルトと対峙していた。
「なるほど……あの男が“英雄”か」
「ええ。表向きは偶然での勝利。しかし偶然が重なりすぎれば、それはもはや必然に近い」
アルベルトの低い声が囁く。
「彼を利用するか、排除するか――その選択が、貴方の領の未来を決めるでしょう」
「ふむ……利用、か。面白い。ならば試してみるとしよう」
二人の会話は、それ以上誰にも届くことなく夜に溶けていった。
一方の俺は――
「うぅ……なんか胃が痛ぇ」
妙な悪寒に襲われ、グラスの水をがぶ飲みしていた。
根拠はない。ただ、嫌な予感がする。
俺の予感が外れたことなんて、ほとんどない。
……いや正確には、的中するたびに“厄介事”を呼び寄せてるんだけど。
「悠真さん、大丈夫ですか?」
心配そうに声をかけてきたのはリサだった。彼女は袖を引きながら、耳打ちする。
「さっきから、隣領の騎士の何人か……妙にこちらを睨んでます」
「ほらな! もうこれ絶対フラグだろ!」
その少し後。
クリスティア嬢とセレナ、ミリア、リサの四人は小さな円卓に集まっていた。
「やっぱり悠真さん、狙われてますよね」リサが不安げに言う。
「ふん、本人は気付いてないフリしてるけど、あの顔は完全に自覚してるわね」ミリアが肩をすくめる。
「放っておけません。もし彼がいなくなれば、この領も……」セレナは硬い表情で唇を噛む。
その時、クリスティア嬢が力強く言い放った。
「ならば私たちで守るのです。彼は“英雄”なんかじゃなく……脇役として人を守ろうとしているのですから」
四人の目が、固く結ばれる。
宴もたけなわ。
楽師が笛を吹き、踊り子が舞うその中で、俺は再び奇妙な視線を感じた。
振り返ると、窓の外に影がよぎった――。
(おいおいおい、今度は何だよ!? 暗殺者とか出てくる流れか!?)
額から嫌な汗がにじむ。
次の瞬間、背後でグラスが割れる音が響いた。
「――ッ!」
鋭い殺気。
俺は咄嗟にしゃがみ込んだ。
すぐ頭上を、毒針のような矢が掠めて飛んでいく。
「やっぱり暗殺者ぁぁぁ!」
広間は騒然となった。
騎士たちが剣を抜き、使節団もざわめく。
「悠真殿を狙ったのか!?」
「英雄に刃を向けるとは無礼千万!」
「いやいや! 俺は狙われたくないから隅っこにいたのに!」
だが誰も聞いちゃいない。
俺は矢が刺さった柱を見て、頭を抱えるしかなかった。
(……やっぱりフラグだった。俺の直感ってほんと迷惑すぎる)
混乱の宴の裏で、密かにほくそ笑む影があった。
それはアルベルトか、ルーク公子か、それとも別の誰かなのか――。
ただ一つ確かなのは。
またしても俺の「脇役人生」が、勝手に大きな舞台へと引きずり出されているってことだ。
(ほんと頼むから、誰か主役交代してくれ……!)




