第11話 宴の夜と告白未遂
試練の洞窟から戻ったその日の夜。
町全体が浮き立つような熱気に包まれていた。
広場には屋台が並び、樽から酒が振る舞われ、楽師たちが笛や太鼓を奏でている。
「悠真さーん! こちらに!」
「試練突破、おめでとうございます!」
……いや俺は別に、試練を突破したくてしたわけじゃないんだけど。
そう心の中で必死に否定するものの、周囲の人々の笑顔と祝福が押し寄せ、逃げ場はなかった。
俺は半ば引きずられるように、広場中央の長テーブルへ座らされる。
「悠真さん、どうぞ! 私が作ったシチューです!」(リサ)
「こっちの料理も召し上がってください。薬草を使って体力回復に効果的です」(セレナ)
「……肉、焼いてきた。食べて」(ミリア)
俺の前に並ぶ料理の山。
次々と差し出される皿に、胃袋が悲鳴を上げる。
「ちょ、ちょっと待って! 俺そんなに食えないから!」
「遠慮なさらず!」(リサ)
「全部召し上がっていただけると嬉しいです」(セレナ)
「……残したら許さない」(ミリア)
――俺は今、胃袋に対する拷問を受けているのかもしれない。
「悠真さん、これ飲んでみてください!」(リサ)
「いやいや、俺酒弱いから……」
リサが差し出したグラスを避けると、すかさずセレナが笑顔で別の杯を置く。
「こちらは甘口のワインです。飲みやすいはずですよ」
「いやだから! 俺ほんとに弱いんだって!」
そこへ無言でミリアが強烈な酒をトンッと置いた。
「……飲め」
「殺す気かぁぁぁ!」
だが三人の期待に満ちた視線に押され、俺は結局、一口ずつ飲む羽目になった。
――胃袋に続き、肝臓も危機的状況。
宴が盛り上がるにつれ、俺の周りはますます騒がしくなる。
町人たちが次々と「英雄殿に乾杯!」と声をあげ、俺の肩を叩いては酒を注ぐ。
そんな喧噪の中、ふと視線を感じた。
振り向くと、領主の側近らしき男がじっとこちらを見ている。
その目は祝福というより……値踏みするような、探るような光。
(……嫌な予感しかしない)
俺はすぐに視線を逸らしたが、胸の奥に小さな不安が芽生えていた。
宴の後半。
人混みを抜けて人気の少ない路地へ逃げ込んだ俺を、リサが追いかけてきた。
「悠真さん!」
「うわっ、リサ? こんなとこまで……」
彼女は顔を赤らめ、胸に手を当てて小さく震えていた。
「わ、私……どうしても伝えたいことがあって……」
(……きた。まさかのイベントフラグ!?)
だが俺は必死で否定する。
だって俺は脇役だ。こんな展開、似合わない。
「リサ、落ち着け。たぶん勘違いしてるぞ。俺なんかじゃ――」
「ち、違います! 私は……私はずっと……!」
その瞬間。
「悠真さん!」(セレナ)
「……何してるの?」(ミリア)
タイミング最悪にも、セレナとミリアが現れた。
「ひぃぃ! 修羅場回避させてください!」
リサの言葉は最後まで聞けず、場はあっという間に混沌へ。
「悠真さん、少し話が――」(セレナ)
「……二人きりで歩きたい」(ミリア)
リサも負けじと叫ぶ。
「だ、だめです! 私が先に……!」
三人の間に立たされ、俺は冷や汗をダラダラ流すしかなかった。
「いや待って! 俺はただの脇役だから! 恋愛イベントとか無理だから!」
叫びも虚しく、三人の視線はギラギラと俺に注がれる。
結果――告白は未遂のまま、宴は夜更けまで続いている。
ようやく自室に戻った俺は、ベッドに倒れ込みながら天井を睨む。
「……なんでこうなるんだよ」
脇役でいたいだけなのに。
傍観者でいたいだけなのに。
それなのに、気づけばいつも物語の中心に引きずり込まれている。
窓の外からはまだ人々の笑い声が響いていた。
俺の心臓は、未遂に終わった告白の余韻で落ち着かないままだった。




