沖田とデート
──芹沢鴨が大阪へ出発する前日の夜。
僕、沖田総司は屯所の近藤さんの部屋の前でぼんやり月を眺めていた。
ここが一番好き。僕にとって、ここで見る月は格別なのだ。
京都に来てから寝る前は、よくここへ来るようになった。
「……やはり、ここですか。沖田くん」
すると、そこに優しい声の男性がやって来る。誰であろう? と振り返らずともその声の持ち主を僕は、よく知っている。
「山南さんですか。どうしました? こんな夜遅くに……」
「いえ、少し眠れず歩いていた所にたまたま君が起きていたから。……美容に良くありませんよ? 夜更かしは」
「びっ、美容!? 山南さん、僕……男、男ですからね!?」
「ははは、男性でも美容は大事ですよ。見た目の良い人の方が好かれますから」
「……」
びっくりしたじゃないか。僕の正体が、山南さんにバレてしまったのではないかと。
そんな事は、絶対にあってはならない。今の浪士組は、土方さんの作った武家諸法度のせいで、女子禁制。もしも僕が女の子だとバレたら……近藤さんの側に居られなくなる。
あの人を側で守れない自分なんて……そんなの恩返しも出来ずに夜逃げした鶴も同然。
近藤さんの為にも……。だからこそ、あの芹沢という男が邪魔だ。
何とかして、あの男と例の遺書とやらを引き離さないと……。それができれば芹沢を切り刻む事ができる。だから──。
「例の件、芹沢さんには伝えましたか?」
山南さんは、ニッコリ微笑んだままコクコクと首を縦に振って返事をした。
「えぇ。予定通り明日、芹沢さんの大阪行きが決まりました」
「それは良かった。あのお猿さん達は?」
「お留守番ですよ」
「それは良かった。これで、桃太郎だけの鬼退治になったわけですね」
「上手いことを言いますね。沖田くん。しかし、どうしたのですか? あなたが、私に相談など……。何やら、お出かけ中の間に芹沢さんの遺書について探って欲しいなどと言ってましたが……」
「大した事はないんです。ただ、よろしくお願いします」
留守番中のお猿さん達は、山南さんに任せるとして。後は……。
「明日の準備をしますかね」
すると、星光の夜の下で山南さんの口元がほんの少し吊り上がり、怪しさが滲み出ているようだった。
「えぇ、そうしましょうか……」
山南さんの表情に背筋がゾクっとしたのを僕は、忘れない。
その日、俺=芹沢鴨は朝一番に起きた。普段なら八木家の人達が早くに起きて朝食の支度を始めるのだが、俺はそれよりも早く起きた。
「静かだなぁ」
鳥の囀りさえも聞こえてこない中、俺は支度をした。やがて、少し経ってから八木家の人達が起きてきて俺に朝食を作ってくれた。
「……芹沢さん、少し寂しくなりますね」
「え……?」
「平山さんや新見さんも昨日は、やけ酒していらっしゃいましたよ」
八木さんは、いつものにこやかな調子でそう語りながら、朝食のおにぎりとみそ汁を用意してくれた。
平山や新見は、ともかくとして……八木家の方にそう言われるのは少し意外だった。芹沢の事をこの人達はきっと気に入らないと思っていただろうなと少し思っていたのだ。
「……御馳走様。それでは、俺はこれで」
八木家を出て急いで走る。あの道の先に山南さんが言っていた待ち合わせ場所がある。
山南さんが言うには、凄腕の剣士を1人護衛につけてくれるらしく、その人が常にピッタリ密着でついててくれるとの事。
──誰だろう? 凄腕の剣士というと新撰組には候補が多い。
──できれば、永倉とか原田あたりが一番気楽なのだが……。
と、待っていると──。
「あ、せっりざわさぁ〜ん!」
後方から声がする。それは、何処か女性的で……ん? 女性? いや待て。あの声は……よく知っている。なんと言っても一夜を共にしたわけだし……。
まさか、山南さんが言っていた凄腕の剣士って……。
振り返った刹那──。
桜色の着物を見に纏い、頭にかんざしを刺した美しい町娘の姿で彩られた沖田総司の姿がそこにはあった。
「……えへへ。待った?」
「いや……え? お前……どうしてそんな格好してるんだァァァァァァァ!?」




