表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

スター・エルフ

作者: asterism

宇宙は広大で、我々人間の寿命は余りにも短い

 西暦2150年、エルフの航宙探査艦エルフェンティアは、忘れさられた星の軌道上に浮かんでいた。青と緑の美しい球体。かつて人類が住んでいたとされる星、太陽系第三惑星『地球』。


「艦長、以前と大気の組成は変化していますが、生命維持に問題はありません。遠距離空間放射線中和は成功したようです」


 副長のパスカルが端正な顔に冷静な瞳をたたえ、コンソールに指を滑らせながら報告する。


「生命スキャンは?」


 レンデル艦長はスクリーンを見つめながら問うた。彼は長身のエルフで、深い緑の瞳を持っていた。


「……予想通りです。人工構造物はほぼ崩壊、都市の遺跡は緑に覆われています。文明活動の痕跡は過去100年ありません。やはり残念でしたね。人類は完全に滅びています」


 沈黙がブリッジを満たした。望遠スクリーンには、崩れた都市の廃墟が広がっている。高層ビルは朽ち果て、かつての象徴的な白い電波塔は風に削られ、墓標のように佇んでいた。


「着陸は転送で?」


「いや、艦を降ろそう。足で感じてこそ分かるものもある」


 レンデルの声は静かだったが、その響きには深い思索がにじんでいた。エルフェンティアが静かに着陸すると、クルーたちはかつて大都市だった遺跡へと降り立った。


「自然の墓標か」


 レンデルは崩れた高層ビルの残骸を見上げながら呟いた。


「慣れませんね。滅びというのは、恐ろしいものです」


 パスカルが静かに言った。


 探索を進める中で、古いモニュメントが発見された。そこにはデータバンクがあり、人類の様々な記録とメッセージが残されていた。


『これを見ている未来の者へ。人類は、自らの愚かさによって滅びる。我々は見て見ぬふりをし続けた』


『問題に対し、無関係だと行動しなかった。政治が混乱し、資源が枯渇し、気候変動が進行しても、誰も本気で止めようとしなかった。他人がやるだろう、いつか誰かが解決するだろうと』


『気づいた時には、もう遅かった。社会は崩壊し、争いが起こり、文明は音を立てて崩れ去った。これが、人類の結末だ』


 パスカルは小さく息をついた。


「……誰もが、自分には関係ないと思っていた、ということですか」


 レンデルはデータを解析しながら、ある光景を思い出していた。


 2025年── 125年前の東京。


 若き日のレンデルは、正体を隠し当時の地球を極秘裏に訪れていた。まだ人類が健在だった時代、2025年の東京へ。様々な交通機関を使い旅をしていたが、その時翻訳機が故障、言葉が理解できなくなってしまった。困っていた彼を助けたのは、名も知らぬ人間だった。


「大丈夫ですか?」


 親切に声をかけられ、レンデルは驚いた。その人は彼の言葉を理解しないはずだったが、身振り手振りで道案内をしてくれた。駅の行き方を教え、切符の買い方を示し、最後には笑顔で「良い旅を」と言った。


 レンデルは今でも、あの時の温かい声を覚えている。


「彼らは……本当に、愚かだったのだろうか?」


 彼は呟いた。


「少なくとも、あの時の彼は、自分には関係のない異邦人を助けてくれた」


「ええ。皆がそうであれば」


「だが我々エルフもまた、滅びの危機を抱えている」


 レンデルは静かに言った。


「エルフは長命だが、子孫が生まれる数は極めて少ない。だからこそ、私たちは個人ではなく、全体を見る社会を作った」


「だからこそ、効率的に未来を見通せました」


「そうだ。エルフは、個よりも種族全体の存続を考える。それは我々の本能だ。だが、人類は違った。彼らは個人の自由を尊び、 個々の能力を活かした」


「でも滅びた」


 パスカルの言葉に、レンデルは微笑んだ。


「そうだな。彼らは、速く生き、速く燃え尽きた。しかし、その短い生の中で、情熱を持ち、想像力を爆発させた。だからこそ、彼らは我々エルフの存在を言い当て、空想の中で描いたのだ」


 モニュメントの碑文には、こう記されていた。


『我々を忘れないで』


 レンデルは手を伸ばし、その文字を撫でた。


「我々は長寿の種族だ。だからこそ、彼らの短い歴史を記憶し、未来へと伝えることができる。彼らの生きた証は、宇宙と共にある」


 エルフェンティアは静かに地球を離れた。クルーたちは沈黙の中、視界から遠ざかる青き星を見つめていた。


「彼らが目指した宇宙へ、我々はまだ旅を続ける。彼らが到達できなかった場所へ、我々は今後も進み続ける」


 レンデルの言葉に、パスカルは静かにうなずいた。


「そして、彼らの夢を、その存在を、私たちが語り継ぐのですね」


「そうだ」


 宇宙は広大で、時間は悠久だ。だが、ある種族がかつてここに生き、短い時間の中で燃え尽きたことを、彼らは決して忘れない。


「エントロピッカーアクティブ、ネゲントロピー・フィールド形成完了。重力ワープ、スタンバイ」


「発進」


 エルフェンティアはワープフィールドを展開し、星の海へと消えていった。エルフの旅は続く。青い星に輝いた命の記憶を乗せて。

エルフの冷静な感情というか感情を薄く表現したかったので、なるべく平坦な起伏で書いてみました。勝手なイメージですが、エルフは歌うようにリズム良く話してて欲しい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ