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17・ワイルドなご対面

「はぁはぁ…最上階への道のりが遠いっ」


 マーカスとの予期せぬ遭遇はあったもののジムノさんのおかげで無事に帰路についた、はずだったけど目の前には何度通っても慣れないソポさんの家までの距離かいだん

 ジムノさんは息を切らす私を楽しそうに見ている。息も汗も流さず、涼しい顔で。


「アリシアちゃんもソポと同じで運動不足なんじゃなーい?」

「そう、かも、しれません、ね」


 最近動き回っていたから体力がついたように思ったけど、まぼろしの筋肉だったらしい。

 もうすこしで最上階、というところでひと呼吸、足を止めた。


「ジムノさん。さっき言いそびれちゃったんですけど、ありがとうございます」

「ん? あぁ、どういたしましてぇ」

「私の代わりに言いたいこと言ってくれたんだと思うんですけど、憎まれ役なんてしなくていいんですよ?」


 マーカスとの婚約解消は立て直し計画の1つの理由でもある。そのため打ち合わせの休憩がてらソポさんとジムノさんには話していた。融資している、前世で言うならスポンサーや大株主みたいな人物だからどこかで顔を合わせることになるとは思っていた。まさかこのタイミングでばったり会うとは考えてもいなかったけど。


「心配してくれているのぉ? ありがとー」


 んふっと息をこぼすジムノさん。

 ・・・なんて良い人なの!? マーカスとは大違い!!

 婚約解消のことがあるとはいえ、なるべく個人的感情を入れないように話したつもりではあったけれど、聞く側があまりいい気分にならないのは当然だし、その当事者同士を見たら気を遣ってしまうよね。反省。


「アリシアちゃんのためってところもあるけどー。今日の彼の行動はボク的に許せなかったところもあったから気にしないでねぇ」


 よしよしとジムノさんに頭を撫でられる。

 ちょっと子供扱いのような気がするけれど…優しい!

 私へのアフターフォローもしてくれて、マーカスとは大違い! 本当に!!


「ありがとうございます…!」

「じゃあ、ソポがお腹を空かせて待っていると思うから、もうちょっと頑張ろー」

「そ、そうでした。運動しよう」

「そうだねぇ」


 なごやかな時間だったのは、この短いひとときだった。。

 部屋に戻れば、鬼…いや悪魔のような形相をしてソポさんが立っていた。


「遅い」

「す、すみません」

「ごめんってばー。いろいろあったんだよぉ」


 テーブルの上に買ってきた食べ物を並べていく。


「ふんっどうせ、またお前があれこれ連れ回したんだろ」

「ひどーい。偏見だよぉ! ボクはアリシアちゃんのために身をていして守る騎士様だったんだよ?」

「騎士様? お前が?」


 ふんと鼻を鳴らすソポさんに向かって、キリッと騎士のように胸に手を当て敬礼ポーズをとるジムノさん。

 この2人のやりとりも見ていると、ある種の喜劇を見ているような気持ちになって、ふふっと声が漏れる。


「そうだよぉ。そうそう、だから薬箱のある場所を教えて?」

「怪我でもしたのか? 慣れないことをするからだ」

「まっさかー。ボクじゃなくてアリシアちゃんだよぉ」


 ジムノさんがそう言葉にした瞬間、ソポさんが勢いよく私の方へ顔を向けると、ズカズカと足音を立て近づいてくる。


「へ」

「どこだ。見せてみろっ」

「そんな大袈裟なものじゃ…」


 ソポさんの表情はよく見えないけれど、なんとも言えない圧を感じて後ろに下がってみる。けれど、ジムノさんがふんわり優しい声で私の逃げ場をなくす。


「左腕だよぉ」

「じ、ジムノさん!?」

「おとなしく治療されようねぇ」


 ジムノさんは楽しそうに私とソポさんを見ている。

 目の前にはなんか黒い霧のようなものが出ているように見えるソポさん。

 

「あ、あのぉ…」

「ちっ。よく見えねぇな」


 そう言って、ソポさんがもっさりとした自分の長い前髪を掻き上げた。


「ひっ」

「指の跡…だれにやられたんだ」


 私が思わず悲鳴を上げたのは、ソポさんがドスの効いた低い声で迫力があったからではない。

 ソポさんのお顔が、前世の芸能人もビックリなワイルド系イケメンだったからだ。


 無精髭ぶしょうひげがあるのにカッコよく見えるってなに!? 前髪をあげたソポさんが美形だなんて聞いていないし。異世界って一般人の美形率高くない!?

 というか、ジムノさんでカッコいい美形に慣れた気がしていたけど、気のせいだった!!

 前世ではたくさんのカッコいい、可愛いを見てきたよ?

 見てきたとは言え! 不意打ちって無理だよ! 道端で芸能人に出会って、すぐ反応できる? 無理だよね? 思考停止するよね?

 そもそも、前世からでも数少ないワイルド系は免疫力が一番ありません!!


「おい、だれにやられたんだ? っておい、どうした!?」


 脳内は大騒ぎの、キャパオーバー。

 私はへたりと床に座り込んでしまった。


「腰が…抜けました…」


 視線はもちろん、床。当分、顔を上げられそうにもありません。

 ソポさんの戸惑っているような雰囲気を感じながらも、右から左へ、いまの私に聞き取る余裕はなかった。


「アリシアちゃんって、面白いよねぇ」

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