15・腹が減っては
「って、ほのぼのしている時間は私にはなかった!」
「急にどうしたのー?」
「なにをいまさら言っているんだ」
目の前には、のほほんとティータイムをしているジムノさん、呆れた声のソポさんと、そして書類の山。
私たちは話し合いを重ねに重ねて、台本はほぼ完成。
しかし、私には主催者としてやらねばいけないことが盛り沢山だった。公開オーディション用に向けた公演プランとスタッフ集め、そして書類選考もしなくてはいけない。応募すれば全員参加なんてこともできるほど時間も予算もない。
「舞台を完成させることに全集中しすぎてて…」
「おかげで音楽も台本も完成したよねぇ」
「オレは寝たい」
くっ…舞台における重要人物である大人たちが自由すぎる。
それぞれの技術面では頼りがあるのに、ほかの面では頼りがない!
「でも、当日の審査員を受けてくれたのは予想外でした」
「オレの名前が入っているんだ。見なくてどうする」
もはや見慣れた光景。ソファの上で毛布にくるまりながら返事をするソポさんだけど、公開オーディションの審査員をしてくれることになった。
「そ、それもそうかも?」
「ボクはねぇ、作り溜めてきた曲を披露できる機会をくれるから、そのお返しだよー」
ぎゅっと肩を寄せるジムノさん。
公開オーディション前のミニステージとして演奏会を担当してくれることになったジムノさんは貴族とは思えないほど、平民の私にも親しく接してくれている。
「そんな…こちらこそオーディション以外に何か催ししようと思っていたので」
「いいの、いいのー。だってぇ、こんなにも面白い世界を見せてくれて、参加させてもらえているんだからぁ」
ふふんとまるで鼻歌でも歌っているかのようにジムノさんは楽しげだ。
なんだかんだ協力してくれている2人のためにも頑張らなくちゃ。
「アリシアちゃん、根をつめるのはよくないよぉ」
「え?」
「ほらほら、なんだっけぇ。えーっと、ハラがヘッテハ戦はデキヌだっけぇ?」
私がつい口にしてしまった前世の言葉が気に入ったらしく、ジムノさんは覚えた。でも言い慣れないからかカタコトな日本語になっている。
ちょっと可愛くて、自然とクスクスと笑い声がでた。
「そうだった」
ジムノさんは顔がすごく綺麗なのに。弟系男子なんだよね。
「笑ったね」
「え?」
「ううん。だからさーソポの真似しないで部屋の外に出てご飯を買いに行こうよー」
くいくいと私の袖を引っ張るジムノさん。
とても惹かれるものがあるけれど、書類の進捗が悪い。朝から全然進んでいない。
「んー。でも公演進行表も途中だし」
「そーいう時こそ、ご飯を食べるんでしょー? 御馳走するよぉ?」
「ご馳走…」
ご馳走という言葉に反応した私のお腹がくぅと鳴く。
一瞬にして顔が熱くなったのがわかった。
「決まりだねぇ」
「はい…降参です」
私はジムノさんの誘いに乗ることにした。
持っていたペンを置いて、外に出る準備をする。
「おい。オレの分も忘れるなよ」
「あっ!」
「忘れてないよねぇー。さぁ、行こー」
ふんと鼻を鳴らすソポさんに見送れて、私はジムノさんに手を引かれ、外に出る。
「ソポさん、い、いってきます」
「あぁ」