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14・一番強いのは

「ふんふん。本当に面白い世界を考えるねぇー」


 あれからジムノさんとの契約を結んで、私がいま考えている企画を話した。

 私の心配は杞憂で、ジムノさんの興味を引けたようで瞳をキラキラとさせながら話を進めている。


「私が考えたのはあくまで原案です。それをソポさんに舞台向けに世界を作っていただいたんです」

「それでもすごいねぇ。あぁワクワクするよー」


 ソポさんが頑張ってくれたおかげで、ほぼ完成品の台本が出来上がった。

 ジムノさんには劇伴と言われる”劇中伴奏音楽”を担当してもらうことになった。そのために、出来立てほやほやの台本を読んでもらった。

 ジムノさんとも打ち合わせを重ねている。いまでは次から次へと色んなアイディアを出してくれていて、企画案の段階ですでに短い曲も作ってきてくれていた。だだしーー


「ここのシーンとか、”ハイヒールのためのツンツン前奏曲”とかいいかも」


 ポロンと持ち運び用の小さなハープを鳴らすジムニさん。

 すごい素敵なメロディだけど、なんだけど。ネーミングセンスが壊滅的にひどい!!

 てん二物にぶつを与えず!!!


「くっ…でも、ぴったりなんです!! 最高です!!」

「えへへー。そう言ってもらえると嬉しいなぁ」


 悔しいけど、どれもこれも素敵な曲だった。思わずグッドボタンみたいなポーズをしちゃうぐらい。


 それにジムノさんは本当に楽しそうに、嬉しそうに笑って披露してくれている。そんな表情を見てしまうと、変えてなんて簡単に口にすることはできない。 

 一生懸命考えた名前を「ネーミングやばいから変えて」なんて言われたショックだろうし、私も言われたらいやだ。


 もちろん、この舞台は起死回生、劇場の立て直しするための計画。遊びではなく本気だから、仲良しこよしでやっているつもりはない。

 曲名は個別で発表する予定もないって言うのもあるけど、世界観を壊すようなタイトルがあればちゃんと話し合って調整させてもらうつもりだ。


「楽団では…ちょっとでも違うことやると、楽団長が魔王みたいに怒るんだよねぇ」

「あーまぁ…」

「楽団長の言うことはわかるけどさー。すっごく怒るんだよー? 見えない角がニョキって伸びた感じで、本当に怖いんだー」


 楽団長に怒られた時のことを思い出したのか、しょんぼりとした表情になるジムノさん。


「でもさぁ。アリシアちゃんは、ちゃんと曲で評価してくれてるよねぇ。頭からそれは違うなんてこと言わないで、ここがいいけど、ここは変えてほしいって」


 ジムノさんはポロロンとハープを鳴らして、顔をあげる。


「そう言う風に言ってくれる人、はじめてだったからすっごく楽しいよー」


 それはたぶん、前世の記憶がある私は様々な音楽を耳にすることがあったから。この世界では奇異だとされるような曲調だとされても受け入れることができるのだ。

 でもそれは私にも言えること、私がいましていることは前世の知識を元にした提案ばかり。みんながみんな面白いと言ってくれているわけじゃない。


「私も、私の世界を受け入れて…楽しんでもらえて嬉しいです」


 ソポさんと顔を合わせて、えへへと笑いあった。


「おい。仲良しなことはイイことだが、アリシアはまだやらなきゃらねぇことがあるんじゃないのか?」


 ソポさんがソファに寝転がりながら鋭い指摘をする。


「そ、そうでした!」

「ソポったら、もっと空気を読んでよねぇ。アリシアちゃんと心が通じ合っていたのにー。ねー?」


 ジムノさんが私の肩を寄せる。

 最初はドキドキしていたジムノさんとの接近だけど、打ち合わせを重ねていまは慣れた。むしろ、いまはジムノさんから香る良い匂いが最近、お気に入りだったりする。前世むかしの時も、カッコいい、可愛い人の近くにいるとみんないい香りがしていた。カッコいい、可愛い人がいい香りするの全世界共通なのかもしれない。


「そう思うなら。お前ら、オレの家で打ち合わせするな」


 ソポさんの家は1フロアの最上階ということもあって、周囲を気にせず楽器も引けるので使わせてもらっていた。

 ただジムノさんと話が盛り上がってしまったこともあり、さすがに今日はうるさかったかもしれない。


「すみません」

「えぇー。台本と音楽の親和性高めるためにもソポも一緒の方がいいって最初言ってたじゃないかぁ。それにソポだって部屋から出たくないでしょー?」

「・・・」

「ほらぁ、ねぇ? ボクがアリシアちゃんと仲良しになったからって、ねちゃダメだよぉ」


 一見するとソポさんが一番怖くて強そうだけど、この部屋で一番強いのはジムノさんである。

 よくわからない冗談を言って、よくソポさんの口を閉じさせている。


「えーっと。ひとまず、みなさん。食事にしませんか?」


 こういう状況になると、大抵みんなお腹をきどきだ。

 腹が減っては戦はできぬ。とは言うけれど、お腹がすくと集中力が切れちゃうのは本当だと思う。

 私は今日、ソポさんの家に来る前に寄ったサリーのパンが詰まった紙袋を机の上に出して広げる。


「ソポさん、今日は何を合わせますか?」


 ソポさんに近づいて、いつものように飲み物を聞く。

 唯一見える口元がへの字になっているソポさんはボソリと声を出した。


「コーヒー」

「わかりました」

「ボクは紅茶、ストレートでよろしくねぇ」


 こてりと首を傾げるジムノさん。

 年上だけど、弟みたいでつい甘やかしてしまう。

 私の前世の年齢を足し算すれば精神年齢は年上になるから感覚としては合っているのかもしれない。


「はい! ちょっと待っててくださいね」


 ただ私はこの時間を結構気に入っている。

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