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13・気まぐれマイペースな

「あらためて自己紹介するねぇ。ボクはジムノ・ティサ。宮廷音楽家をやってまーす」


 ソポさんの隣でひらひらと手を振る綺麗なーージムノさん。


「私はアリシア・ユゴーです。街にある劇場、ブランシェの娘です」

「へぇー。劇場ブランシェの娘さんなんだねぇ」

「え、は、はい」


 向かい合ってはいるけど、机が1つ分の空間があるおかげでなんとか目を合わせられる。

 ただ溢れんばかりの気品が後光のように輝いて時折まぶしい。


「アリシア。こいつはいわゆる上級貴族ってやつだが、堅苦しいのは無しで大丈夫だ」


 ソポさんが隣に座るジムノさんを親指で指差す。


「さっきはごめんね。ボクの隠しきれない気品さが出ちゃってたよねー」

「い、いえっ」

「ふふっ。でもボクも堅苦しいのは職場だけで十分だから、ソポの言うとおり、気にしなくて大丈夫だよぉ」

「わ、わかりました。ありがとうございます」


 私がペコリと頭を下げると、ジムノさんはにこりと微笑んだ。


「で、ジムノ。これは現在いま進行している依頼人だ」


 ソポさんは人差し指で私を指差す。

 ジムノさんは瞳をぱちりと瞬かせた。


「依頼人ーーって言うと、最近、ソポがかかりきりになっていたやつだねぇ」

「まぁな。ここから仕事の話になる、ジムノはもう帰れ」


 しっしっと追い払うように手のひらを振るソポさん。


「えぇー!」

「お前の愚痴はまた今度聞いてやる」

「ひどいよー」


 ジムノさんは黙っていれば絶対美青年のイケメンで通じるのに、いまは駄々をこねる子供のようソポさんの腕を掴んで揺らしている。


「すみません。なるべく短くーー」

「は無理だろ?」


 前回の打ち合わせの時、ソポさんとあれこれ話が白熱してしまい、気がつけば半日以上の時間を費やしていた。


「そうですね…」


 とは言え、なにやから話しがあって来たらしいソポさんの友人ーージムノさんに帰ってもらうのも、追い返すようで心苦しい。かと言って、打ち合わせを別日にズラすのも難しいし、別室で待ってもらうにしても情報漏洩の観点で言えばよくないし。

 

「うん、わかった! ボクも仲間に入れれば万事解決だよねー」


 ポンと、手のひらに拳を当てたジムノさんはキラキラと瞳を輝かせた。


「・・・はい?」

「ボク、こう見えて優秀だと思うんだよねぇ」


 にっこりと微笑むジムノさん。


「お前また、気まぐれなことを」

「んふ。それにさーあれでしょー。思い出したよぉ。最近、噂になっているオーディションを公開しながらするって言う、主催の劇場ブランシェのってことだよねー?」


 ころころと話が展開していって、脳内の処理が追いつかない。

 ソポさんに助けを求めるように目線を動かせば、髪で隠れていてよく見えないけどひたいと思わしき場所に手を当てている。

 それって手に負えないとか、頭を悩ませるような状況の時に出る動作だよね?

 え、え、なんか、ジムノさんに流されちゃダメな気がする。


「そうだなー。ボクも興味もあったしぃ、ここは()()()()()でお手伝いしてあげるよぉ!」

「ぜひ、よろしくお願いたします!」


 気づけば、私はジムノさんと熱い握手をしていた。

 そんな私たちを見ていたソポさんはハァと大きなため息をついた。


「水を差すようで悪いが、こいつは名門の音楽一家ティサ家の三男だから、報酬ギャラの額なんて興味のない人間だ」

「ん?」

「うーん。興味がないわけじゃないけどー。ボクは、より心惹かれるもので仕事を選んでいるだけだよー? ソポ、微妙にニュアンスが違ってるー」

「へいへい」


 えっと、つまり、お金持ちで生粋きっすいの芸術家ってことかな?

 それで報酬ギャラは言葉通り、お手頃価格でやってくるってことね! 懐事情おかねが厳しい我が劇場的にはありがたい!


「ジムノが優秀なことは認めるが、宮廷音楽団で”変わり者”って呼ばれている」


 芸術家あるあるよね。みんな変わり者って言うし。

 これでも劇場の娘、いろんな役者さんを見てきたし定番ネタのようなものよね!


「言っとくが、お前さんが考えているような”変わり者”じゃないからな」


 私は明るくうなずいていたけれど、ソポさんは疲れたような声を出した。


「え?」

「ちょっとー。ソポ、ひどいじゃないかぁ。本人を前に言うことぉー」

「自覚があったならよかった。それなら楽団長の胃にも優しくしてやれ」


 胃にも優しく? んん? 音楽団なのに??


「もぅ、ひどいー。アリシアちゃん聞いてよ。普通にみんなで同じように演奏していたらつまらないでしょー? だから、ちょーっとだけ編曲アレンジしたりしてるだけなのにさー」

「それを()()()宮廷の演奏会で披露している」

「えっ!?」

「でもさー。そっちの方が素敵な音色になるし、みんなも楽しんでくれてるから良くなーい? 思いついちゃったんだもん」


 えへへって照れたように笑うジムノさん。

 どこかのんびりマイペースな雰囲気に潜む、気まぐれ要素。公演はある意味、団体行動。

 ソポさんが私の方を近づいて、トンと肩を叩く。


「実力は確かだ。手綱たずなをしっかり握るんだな」


 もしかしたら私は人選を早まったのかもしれない。


「アリシアちゃん。ボクを楽しませねぇ。期待してるよー」

「はひ、がんばります……」


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