「NeArLy≒」
誰かを好きになるのは、決して悪いことじゃない。だけど、それが「過度」になれば、話は別だ。僕は、きっとモノ好きなんだろう。誰かを深く愛しすぎるこの性格が、時々自分を苦しめる。
大学の帰り道、夕焼け色に染まった公園のベンチで、僕は目を閉じた。風に揺れる木々の音と遠くから聞こえる子供たちの笑い声。その中で、君の声がふと聞こえたような気がした。
君と初めて会ったのは、春のことだった。図書館で一冊の本を取ろうとした僕の手が、君の手と重なった。目が合った瞬間、君が照れくさそうに微笑む。その笑顔が僕の胸を撃ち抜いた。
「どうぞ」と君はその本を僕に差し出したけれど、僕は慌てて「君が先にどうぞ」と返した。その一瞬で、僕は君に恋をしたんだ。
君は他の誰とも違った。笑顔が魅力的で、どこか無邪気で、それでいて深い孤独を抱えているような瞳をしていた。君と話すたび、僕の世界が少しずつ色づいていく気がした。
けれど、僕は知っていた。この恋が歪な形をしていることも、それが君を悲しませる可能性があることも。
歪な形だってさ
歪な形なりの均等が取れてるなら
そのままで良かったのに
ある日、君が言った。
「ねえ、私、変わり者かな?」
僕は笑った。「君が変わり者なら、僕も同じだよ。君みたいな人が好きだから。」
君は少し驚いた顔をして、それから静かに笑った。その笑顔が嬉しくて、同時に切なかった。君を笑わせることが僕の使命のように感じられる一方で、僕が君を傷つける存在になる可能性があると思うと、胸が締め付けられた。
「これ以上好きになっちゃいけない」と思ったのは、君と過ごす時間が増えるたびだった。
君が他の誰かを好きになるのを見るのが辛くて、でも君を独り占めするのは間違っていると思った。僕は君を完全に愛する自信がない。中途半端な愛情で君を縛ることは、君の自由を奪うことになる。
だから、僕は決めたんだ。この気持ちを伝える前に、君の前から消えることを。
大好きな君が僕をこれ以上好きにならない方が
きっと幸せな気がしたんだ
綺麗に見せようとして 聞きわけが良い事で
汚れてしまうものが 本当の大切なモノなのにね
会わないようにするのは簡単じゃなかった。何度もスマートフォンを開いて君にメッセージを送りたくなった。君の笑顔を思い出すたび、僕は自分を責めた。
「君を愛してゴメン」と何度も心の中で呟いた。
でも、会わなければキスを求めることもない。君を傷つけることもない。そう信じて、自分を抑えた。
数週間後、君からの連絡が途絶えた。
「元気にしてる?」という短いメッセージが最後だった。僕はそれに答えなかった。それが君を守る最善だと思ったからだ。
そして今日、君が僕の夢に出てきた。夢の中の君は泣いていた。理由はわからない。でも、その涙が僕の心を引き裂いた。
君のために僕ができることは何だろう。君を幸せにするために、僕が消えることは正しいのだろうか。
夕焼け空の下、僕はふと気づく。この歪な形の恋が、どんなに僕にとって大切だったか。僕の心は既に汚れている。綺麗事では君を守れない。
でも、君に嘘をつき続けるのはもう限界だった。
会わないようにしてるのは
きっと僕はキスも拒めないから
君の事上手く愛せないくせに
好きになってゴメンね
僕はスマートフォンを取り出し、震える指で君の名前をタップした。
「ねえ、今夜、少しだけ話せる?」
送信ボタンを押した瞬間、胸の奥で何かが弾けた気がした。
もし君に嫌われたとしても、それでもいい。この気持ちを伝えなければ、僕はきっと後悔するだろう。
「好きだよ。たぶんずっと。」
涙が頬を伝うのを感じながら、僕は初めて、君に本当の気持ちを伝える準備をした。
その時、夕焼けは少しだけ優しく見えた。