第九十話 ヒヨコ
「そうだ勇気、一つ話しておくことがある」
帰り道の途中、少し前を歩いていた冬至が僕の方に振り向き、どうでもよさそうな雰囲気を醸し出しながらそう言った。
「ん、なに?」
「明日攻める神崎家が使役している召喚獣を調べていたんだらが」
……なるほど、神崎家は好美や翔介さんの皇家、中等部の白君の武家に並ぶ召喚士の名家だ。少し調べれば代々使役していた召喚獣等の情報は得られるだろう。
「他にも気になる召喚獣がいたから、それについても調べたんだ。ババァの手を借りてな」
「へー、確かに学園長ならどんな召喚獣でも知ってそうだね。仮にも召喚師育成学科上のトップだし」
「あぁ、俺もそう考えて聞いたんだ」
そういうと、冬至はゆっくりと、僕の足元を見た。
「ヒヨコ。そんな召喚獣、今の今まで一度も召喚された記録がないんだ」
『ピヨ?』
僕の足元にいたヒヨコに向けてそう言った。
「今の今まで一度もない?」
「俺の召喚獣も召喚を記録されたのとはないらしいが、近しい召喚獣の存在、そしてその召喚獣からの発言から、存在している事自体はわかっていたんだ。だがお前のヒヨコに関しては何も情報が残ってない」
一切記録がない。そんなことあり得るのだろうか。千年以上前から存在が確認されている召喚獣。この千年に召喚の記録がないなんてこと。
「つまり何が言いたいのかというとだな」
「僕が特別な存在で特別な召喚師だということ?」
「いつまで中二病引きずっているんだ。 なぁ、……お前の召喚獣は本当にヒヨコなのか?」
本当にヒヨコのか、か。
ふと足元でトカゲに追い回されている我がヒヨコを見ている。
見た目は完全にヒヨコだ。そしてトカゲに追い回されるほど弱い。
好きな食べ物は穀物全般、たまに虫とかも食べる。そしてたまに虫に負ける。
………。
「これヒヨコじゃないの?」
こんな貧弱な存在、ヒヨコ以外考えられるのだろうか。
「……確かにな、すまん。考えすぎた」
追い回されているヒヨコに憐れみの目を向けながらそう呟た。




