第八十七話 殴り込み
「どうしたの冬至、そんな切羽詰まった顔をして?」
「だまって俺に殴られろ」
「え、いや、ちょっとまって、なんで朝から殴られぶべぇ!」
まるで虹の軌道に乗っているかのように吹き飛ぶ。
「……目は覚めたか?」
「澄まし顔で何をいってんだ! なんで今殴られたの⁉︎」
やはり失敗か。素のチカラで顔面を殴り飛ばすだけでは醜悪なババァの乳房ほどの衝撃は与えられないか……。
「仕方ない、ありす身体強化魔法をかけてくれ」
『うん』
「ちょ、ちょっとまって! 殴っただけじゃ飽き足らず召喚獣の力を使うの⁉︎ ぼくの顔吹き飛ばない⁉︎」
「最悪吹き飛ぶ」
「じゃぁダメだよ! 目が覚める前に一生目が開けられなくなっちゃうんじゃないの⁉︎」
「大丈夫だ。俺がお前に酷い事をしたことがあるか? 相棒」
「その相棒を今殴り飛ばしたのはお前だ!」
ごたごたと何かを言う勇気を壁に押し付け、右手を頭付近に近づけデコピンをする。
「ぐぎゃ!」
意識を失ったのかガコンと頭から力が抜ける。数秒後、ゆっくりと顔を上げた。
「あれ、僕いったい何を……?」
強い衝撃は与えた、あとは催眠が解けているかどうか。
「勇気、誰と皇家に殴り込みに行ったかおぼえているか?」
「えっと、たしか、冬至と僕と……神崎さん?」
「なるほど、だから僕は神崎さんとの記憶がなくなってたのか」
俺の知っている事をあらかた説明した。
「恐らく、ラブレターの件の数日前からかけられていたんだろうな」
「……ジャンクフードでの神崎さんの様子からすると、彼女が催眠の魔法を使ったわけじゃなさそうだね」
神崎の記憶を無くしている俺たちの様子を見て、驚いていたように見えた。
「ああ、俺も同じ意見だ。そして疑問点がある。この魔法を誰がかけたのかってことだ、なぜ神崎だけがこの催眠をかけられなかったんだ?」
「ふむ、たしかに」
クラスメイト、そして神崎とよくつるんでいた奴に話を聞いたが、誰1人神崎との記憶が『名前は知っているがほとんど話したことがない』程度だった、恐らく学校はおろか、町範囲で魔法を使われている可能性が高い。
「うーん、神崎さん休みらしいよ、家の事情とかなんとかって。話を聞きたかったんだけどね」
「ああ、らしいな」
おそらくあいつは何か情報を握っている。今回の事件の核心を突く何かを。
だったら、やることは一つだ。
「殴り込むぞ、あいつの家に」




