第八十五話 思い出
『冬至様! 今日はこの本を一緒に読みましょう!』
その少女は、いつもと同じ笑顔を俺に向ける。
『……それ、つい最近読んだばかりだろ』
『本というものは3回読んで初めて作者の意図を知ることができると父様が言っていました。この本はまだ2回しか読んでいません!』
『おれは頭の出来がいいから一回で理解できる。1人で読め』
『いやです! 一緒に読みます!』
そう言うと、俺のすぐ横に駆け寄り絵本を開く。
『近寄るな、暑苦しい!』
『えへへ〜』
よく見る夢。むかしから見る夢。
だけど、いつもは鮮明に見える顔が、黒く塗りつぶされていた。
目が覚めると、見慣れた天井が視界に入った。
違和感を感じ隣を見ると、妹の佳奈がすやすやと寝ていた。
「暑苦しい原因はこいつか……」
起こさないようそっとベットから降り、一階へと続く階段へ向かう。
廊下を歩きリビングに到着すると、深夜だというのに灯りがついていた。
この時間まで起きているのは、俺が知る限り1人だけだ。
リビングに続くドアをあけ、その人物に言い放つ。
「ババァ、聞きたいことがある」
「冬至か、体調は大丈夫かい?」
「体は大丈夫だが、頭がいまいち冴えないな」
「頭大丈夫かい?」
「ババァに比べたら大したことないから大丈夫だ」
テーブル越しにババァの正面の椅子に座る。
「俺の頭の中を見てくれ」
「わかった。台所から包丁をもってきておくれ」
「そういう意味じゃねぇ! 皇の時みたいに記憶が改竄されてていないかどうか確認してくれって意味だ!」
相変わらず大事な感性が欠けている。これにどれだけ苦労をかけられたことか。
「なんじゃそう言うことか」
そう言うと、自身の右手をそっと俺の頭に乗せた。
「ふむふむ、なるほど」
「どうだった?」
ババァは俺に向き直り、はっきりと告げた。
「されとるの、思いっきり」




