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第七十五話 冬至の相談


『………』

『………』


 わたくしをこの場所に呼び寄せてから、もう何分たったのしょうか。

 鹿おどしの音だけが、この空間に流れている。

 昔から言葉数は少なかったけれど、最近になって口数がずいぶんと減ってしまった。

 ……この家の当主になってからこの人は変わってしまった。


『……わかっているのだろうから、口うるさく言うつもりはない』

『………』

『だが、遅い。 ……もう3年になるか、役割を与えてから』

『………』

『どんな手を使ってでもあいつを手に入れろ。手段は問わない、お前の体も好きに使って良い。……それがお前のためにもなる』

『………』

『では行け、私を失望させるなよ。……碧』

『承知しました。お父様』


 私は端的な返事をし、部屋を出た。




「……相談がある」

 ある日の放課後、真剣な顔をした悪友、斎藤冬至さいとうとうじが机の前に木製の椅子を持ってきてそう言った。


「あら、どうしたの? いつにもなく真剣な顔なんかして」


 近くで雑誌をパラパラとめくっていた皇好実すめらぎこのみが冬至の顔を見るなり駆け寄ってきた。


「あぁ、真剣な相談だ。だから、真剣に聞いてほしい。 ……特にそこのバカ」

「ははっ、そんなに僕のことが信用ならないのかい?」

「お前に信用できる要素なんか微塵もない」 


 ずいぶん嫌われたものだ。

 まぁ、僕も冬至に対して、同じような評価をしているけど。


「……これを見てくれ」


 冬至は通学バックの中から、それを取り出し、机の上に置いた。

 オレンジ色、青色、ピンク色、様々な色の長方形の封筒の蓋の部分がハート型のシールで止めてある。

 テレビやドラマでよく見るアレに似ている。


 ……こいつに関して、それだけはありえない。僕だって一度も貰ったことが無いんだ。

 ブサイクで喧嘩っ早くてロリコンでブサイクな冬至がもらうはずがない。


「ラブレターだ」


 恐れていた一言を、迷うことなく口に出した。


「……少し驚いけど、冷静に考えれば当たり前ね。長身で顔も良くて、神格の召喚獣も使役していんだから」

「………まぁ、そういうことだ」


 恥ずかしかったのか、少し俯いてぼそっと返事をした。


「ざっと見ただけで20通はあるわね……。で、斎藤はどうするつもりなの?」

「どうすれば良いのかわからないから相談してるんだ」

「うーん、まぁ斎藤のことだから彼女なんて作る気ないんでしょ? 断るしかないんじゃないかしら」

「……どう断れば良いのか分からない」

「……ふふっ、いつもはそっけなく好意を交わすくせに、相手を傷つけるんじゃないかって心配してるんだ。可愛いところあるじゃない」

「………」

「私、実は恋愛に疎遠だったかアドバイスはできないかも……」

「心に決めた人がいるからな」

「………⁉︎ そ、そんなバカいないわよ! 何言ってんの!」

「お、おい、首元を掴んで揺らすんじゃない」


 頬を膨らませながら、冬至の首襟を掴みぐわんぐわん揺らす好実。


「……まぁ、そういうことだから、私は力になれそうにないわね。勇気……はあるわけないわね」

「好実、それはどういう意味だい?」

「あるの?」

「ないとも言い切れ…… すみません! 見栄を張っただけです! どうか凶器をおろしてください」

「そう、ならいいのよ」


 手に持った凶器コンパスを筆箱の中に戻す好実。いったい彼女は何をしようとしていたんだろう。


「で、何か案はないか?」


 改めて冬至が聞いてくる。


「もちろんあるよ」

「……どうせろくでもない案だろうが、一様聞いといてやろう」

「ボコボコにさらて粉微塵になれ」


 そう言うと、冬至は拳を握り僕に向けて突き出しっ……あぶな! 僕じゃなかったら回避できなかったぞ!


「でもま、そう言うことね。付き合う気がないのなら断るしかないんじゃない? 俺は誰とも付き合う気はない。って」

「……そうなんだが。……クソッ、どうすれば」


 珍しく悪戦苦闘しているようだ。普段は相談なんかしないくせに僕たちに意見を求めてくるほどに。


 ……しかたない。たまには恩を売っておこうかな。


「冬至、耳をかして」

 


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