第六十三話 新妻桃
「私は、召喚士の名門の家に、長女として生を受けました。すごく厳格な家庭で、小学生までは遊ぶ相手ですら、お父様に決められていました」
……そういえば聞いた事がある。皇家や神崎家程ではないが、日本の懐刀と呼ばれ、召喚士達に一目置かれている一族がいると。
もしかして、新妻さんは……。
「でも、決して嫌だったわけではありません。お父様の指導のおかげで召喚士育成学校に入学できましたし、ワイバーンと友達なることもできました」
どこから現れたのか、ヒュッと当然カラスほどの大きさのワイバーンが姿を現し、新妻さんの肩に乗った。
「中学生になってからは、お父様の紹介で知り合った殿方とお付き合いをした事もあります。その方は優しく、逞しく、……そして頭も良かったです。完璧な殿方、お父様が気に入っている理由も分かりました。……でも、私は満足できなかったのです。心にすっぽりと穴が空いている。そんな感覚がずっと残っていました」
記憶を思い返しているのか、目を瞑っている新妻さん。
言葉に段々と感情がこもって来ているのが分かる。
「恋愛ドラマを見ました、アニメを見ました、その、えっちな動画も見ました! ……でも、心の穴は、埋まるどころか、徐々に広がっていきました」
「え、えっちな動画見たんだ……」
なんというか、見た目によらず意外とスケベなんだなぁ。
「そんなある日です。私はある名家で、召喚獣の訓練を受けていました」
……ある名家の屋敷?
そう言えば、僕も最近行ったような……。
「訓練中、突然玄関口の方から爆発音のような大きな音がしました。急いで駆けつけると、そこのには、いかにも侵入者みたいな格好の1人の学生がいました。日本の召喚士を多く輩出している、何百人単位の召喚士が常駐している名家に、そのまぬけ顔の学生は勝ち込みに来たのです」
……なぜだろうか、ものすごく身に覚えがある。
「その時なぜか、心に空いた大きな穴が少しずつ埋まっていくような、そんな感覚に襲われました。私が心から欲しかった感覚でした。その時分かったのです。私が望んでいたもの、それは……」
新妻さんは、少し興奮した様子で、僕の事を見つめながら、こう言った。
「バカなのです」




