第五十八話 VS風の精霊 その②
「はいよー!」
『メエェェ』
「あいさぁ!」
『メエェェ』
「……ねぇ、彼は何をしているの?」
「……さぁ、羊飼いならでわの遊びか何かじゃないか?」
どうして彼は、急に召喚獣である羊にロデオし、右往左往に走り回っているのだろうか。
しばらく経つと、白君は羊に乗ったまま僕たちの方へトコトコと移動してきた。
「ふぅ、待たせて悪かったですね。ウォーミングアップは終わりましたよ」
ウォーミングアップだったんかい!
おもわずそんな言葉が口からこぼれそうになるが、なんとか飲み込む。相手がどんな人物か分からない以上、下手に刺激するのは得策じゃない。
「では、少々卑怯かも知れませんが、攻撃を開始させていただきます」
そう言うと10メートルほど下がり、そして羊に跨ったまま猛スピードで突進してきた。
「なっ、ぎゃっ!」
「ん、なっ!」
は、はやい! 早すぎる!
僕は右に、冬至は左に飛びなんとか回避したが、大きく体制を崩してしまった。
「あいつ、風の魔法でスピードを増してやがる。いったい何キロでてるんだ、ったく!」
今の突進はなんとか避けられたけど、そう何度もうまく避けられるとは思えない……!それほどのスピードだ……!
「ふっ、高等部のランキング1位なんて、大した事ないですね」
その姿は、まるで『サン・ベルナール峠のナポレオン』のナポレオンを思わせるほど美しく、そして輝いて見えた。
『メェエエエ』
乗っている動物が羊でなければの話だけど。
「はいやー!」
『メエェェー』
さっきの突進よりも速いスピードで僕目掛けて突っ込んでくるロデオ羊。
なぬっ……! でも、なんとか避けられ……。
「なっ! あぶな!」
そう思った瞬間、長細い何かが僕の顔をかすめた。
真横を通過した白君と羊の方向に振り返ると、彼は手に黒い何を持っていた。
「警棒です。我が愛しきシルフに血生臭い事は似合いませんからね」
『メェエエ』
あの猛スピードで警棒を振り回しているなんて……。
もし命中すれば、軽症じゃ済まない……!
「くそっ、召喚獣ではなく自身で攻撃してくるとは、なんて卑怯な野郎なんだ……!」
「よしてくれよ冬至、僕にもブーメランが返ってくるじゃないか」
僕たちはその卑怯な手を意図度となく使用している。ほんのついさっきも。
「妖精女王がいない以上、私とシルフの敵はいません。悪いですが、この前押し切らせてもらいます。……会長のためにも」
……会長のためにも?
「もしかして、白君も佐野君と同じように生徒会長の新妻さんの事が好きなの?」
ただの興味本位で僕がそう聞くと、白君は眉一つ動かすことなく、淡々と返事をした。
「私が会長のことを? 何を馬鹿なことを言っている。そんなわけないでしょう」




