第五十三話 VS炎の精霊 その①
「紹介しよう、これが俺の召喚獣」
「………」
「犬だ」
「………」
「どうしたんだ、急に黙って」
「……いや、どう見ても人にしか見えなかったから……。 っていうか、こいつが高橋勇気じゃないのか?」
四つん這いになり、リードを首につけた僕をゴミを見る目で見つめながら、中学生はそう呟いた。
くそっ、こんなはずじゃなかったんだ……! ジャンケンにさえ勝っていれば……!
だけど、召喚獣がいないことがバレたら不戦敗になってしまう。
恥を捨てろ僕、今の僕は犬だ! そう思い込め!
「ウー ワンワン、ワン!」
「ほら、犬の鳴き声だろ?」
「……お前達は本当に友達なのか?」
それは僕が一番知りたい。
「……まぁどうだっていい。高橋勇気をぶちのめせるならな! こい、サラマンダー!」
中学生がそう言うと、彼の周り半径1メートルほどが、ドーム状の炎に包まれた。
しばらくすると、その炎はおさまり召喚獣は姿を現した。
「なるほど、名前の通り『炎の精霊』か」
中学生の周りを、小さな炎がふらふらと飛んでいる。
炎の精霊、つまり、冬至の召喚獣アリスと同じ系統の召喚獣ってことになる。
「俺の名前は、佐野炎児、中等部生徒会の会計を担当している」
っていうか、どうして彼が面識のない僕に、これほどの敵対心をもっているんだろう?
「……高橋勇気、お前、妙に新妻会長と仲がいいよな、出会って間もないはずなのに……!」
佐野くんは、拳を血が滲んできそうなほど強く握りしめる。
「会長は、召喚士育成学校中等部のアイドルであり憧れだ。美しさと可愛さ、そして健気さ、その全てが最高の会長を、お前みたいな召喚士を代表するバカに渡すわけにはいかない!」
佐野くんの周りの茂みが、炎に焼かれていく。
ま、まずい! こんなのと戦ったら、僕の肉体は焼肉になってしまう……!
「と、冬至、どうしよう! このままじゃ丸焼きにされちゃうよ!」
「安心しろ、俺は平気だ」
「僕は平気じゃないんだよ!」
くそ! 自分が安全地帯にいるからって適当な事いってやがる……!
「サランマンダー、焼き払え!」
炎の精霊から、火の玉が噴射された。
「犬! かみつくだ!」
「無理に決まってるだろ! っていうかどこに噛み付かせようとしてるんだよ!」
まさか、あの火の玉に噛みつけってこと⁉︎ そんなことしたらお口の中がとんでもないことになってしまう!
「ど、りゃぁぁああ」
横っ飛びでなんとか回避する。元いた場所には小さなクレーターができていた。
こ、これ、一発でも喰らったら、本当にお陀仏なんじゃ……。
「次だ、サラマンダー!」
佐野くんがそう指示すると、サラマンダーに炎がどんどん集まり始めた。
「ま、まって佐野くん!」
「……なんだ?」
「い、いや、その……」
とにかく、今はなんとか時間を稼ぐしかない!
考えろ、考えるんだ僕! 少しでも佐野くんの興味をひける話を……!
「佐野くんは、新妻さんの事がすきなの?」
咄嗟のことで、こんなありきたりな話しか思いつかなかった。
「………」
身体が、頭のてっぺんから足の指先まで、ピタっと止まった。
そして、小刻みにブルブルと震え出した。
ま、まさか、震えるほどに怒らせちゃったのか……!
ビクビクしながら佐野くんの顔を覗くと、彼は頬を赤に染めていた。
「べ、べつに、好きじゃねーよ」
(き、効いてる!)




