第四十四話 ボール遊び
『これはあくまで水辺学習、勉強の一環です。あまりはしゃぎすぎないように……』
少々老けた教員が、水着を着た中学生たちに、堅苦しい説明をしている。
今から始まるのは水辺学習、つまるところ川遊びだ。
川遊び、と聞くと危険なイメージが湧いてくるかもしれないけど、川はそこまで深くなく、周りを召喚士の教員たちが監視しているから、大きな事故は起きたことがないらしい。
『それでは、水辺学習開始』
『『よっしゃぁ!』』
教員が開始の合図をすると、中学生たちは一斉に解散した。
ある者は泳ぎ、ある者は生物観察を、そしてある者はほとりで談笑を。
そして、僕らはというと。
「勝負だ、冬至!」
「かかってこい、お前のシュートなんぞ片手で止めてやる!」
サッカーをしていた。
ゴールの幅(木と木の間)約2メートル、直線距離およそ5メートル……!
キーパーの手と足のリーチは長い、だけど、僕の必殺技が炸裂すれば……!
「いくぞ! エ○―ナル ブリザーード!」
決まる……! 僕の、エター○ルブリザードが……!
「先輩方は何をやっているのですか?」
ピンクのお団子を二つ頭につけた。可愛らしい少女が哀れみの目を向けながらそう聞いてきた。
「……サッカーだよ」
目を逸らしながらぼそっと呟く僕。
「いえ、その、私の知っているサッカーは、蹴る瞬間に技名みたいなことは言わないのですし、そんなにくるくる回ったりもしませんけど……」
困った表情をする新妻さん。
まさか、厨二病発症中を見られるなんて…… これじゃ先輩のメンツ丸潰れだ……!
「いや、でも、二つも上の先輩が、こんな幼稚園生みたいなことをするなんてありえないし、これは召喚士の訓練? 蹴っていたボールも召喚獣のヒヨコですし……」
ボソボソと呟きながら、考えに耽る新妻さん。
これは……、もしかしたら、騙し通せるかもしれない……!
「ふふん、気付いたようだね、これは川で行う召喚士の訓練の一つなん……」
「ただの厨二病だぞ」
なぜこいつは、いつも僕の不利益になることしか言わないのだろうか。
「い、いつもはこんなこともちろん言わないよ? ただ、今はテンションがあがっちゃって不本意に……」
「ボール蹴る度に必殺技を叫んでるじゃないか」
「冬至、君は話を合わせることができない呪いにでもかかっているのかい?」
すると、新妻さんは、ふふっ、と笑った。
「やっぱり、先輩は面白いです」
……笑ってもらえるのは嬉しいけど、その理由が僕の厨二病を目撃したからっていうのは少し恥ずかしい。
「あ、あの、私もやってみていいですか?」
「では、いきます! エンターナル ブリザドーー!」
くるくると回る新妻さん。
ゴールの幅約2メートル、直線距離約5メートル。
この距離でエタ○ナルブリザードなんて打たれると、ゴールを守ることなんてできるわけがない……!
出すしかない、じいちゃんのノートに載っている。あの技を……!
「ゴッ○ハンド!」
じいちゃん! 僕に力を分けてくれ!
「……あんたたち何してんの?」
「……なにをしてらっしゃいますの?」
「「………」」
新妻さんは顔を真っ赤にしてうずくまってしまった。
「なんでも、ないれす」
もちろん僕も。




