第三十八話 苦悩
自然教室当日の朝、学校のグラウンドで、自然教室に向かうため、観光バスをまっていた。
「……なぜこいつがいるんだ?」
「親切な方が誘ってくれました」
「(プイッ)」
「……おい、なぜ目を逸らすんだ、こっちを見ろ親切なバカ」
すごい表情で睨みつけてくるので、目を逸らす僕。
僕、冬至、好実の三人に加え、もう一人、神崎さんが上級生枠として参加することになった。
僕としても、好実の件でお礼がしたかったし、人数が多いい方が楽しめると思って誘ったんだけど……。
「冬至、どうしても、私と自然教室は嫌ですか?」
神崎さんは、上目遣いで、そして少し子供っぽい、わがまま味溢れる表情を冬至に向ける。
……なんというか、普段、清楚なお嬢様が、特定の相手にだけ見せる、この甘えた表情は、男心にグッサリと刺さる。これに響かない男はいないだろう。
「嫌だ」
こいつ以外は。
「……いいですか、冬至、日本にはこんな諺がありますわ、『いやよいやよもすきのうち』」
いったい、初めて出会った頃の、可憐で清楚な神崎さんはどこに行ってしまったのだろう。
……それにしても、神崎さんは冬至に対してつよい、興味ないものに関しては、とことん関わらない冬至が、神崎さんを相手にすると折れる。もしかしたら、冬至と神崎さんは、相性がいいのかもしれない。
「だめ! あなたはお兄ちゃんに近寄らないで!」
突然現れた少女は、身長140センチ程、透き通った綺麗な黒髪を、腰あたりまでのばしていて、文学少女を思わせる装いをしていた。
その少女は、小さい体を、密着していた冬至と神崎さんの間に、ぐいっ、とねじ込み、神崎さんの前に立った。
「日本にはね、こんなことわざがあるの、『冬至お兄ちゃん、妹と結婚しないと死んじゃうぞ』」
こっちの諺は初めて聞いた。
「……佳奈、もうそろそろお兄ちゃん離れをしないと、大変な思いをしますよ?」
「いいの! お兄ちゃんは私と生涯を共にするんだから! っていうか、あたかもお姉ちゃん風な言葉遣いをしないで! 私は認めないんだから!」
グググ、と冬至から遠ざけるように神崎さんを推す佳奈ちゃん。
すると、今度は、ヒヨコに跨った、冬至の召喚獣、妖精女王のアリスが、ヒヨコの背から飛び、シュタっと着地した。
『ちがうわ、とうじはわたしのおむこさんになるのよ! ね、かいぜる』
『ピヨ!』
慕ってくれている三人に囲まれる冬至、なんとも羨ましい限りだ。
「お兄ちゃんは、実の妹と結婚して、社会的に制裁してもらうの! そして、心の拠り所を私だけにするの!」
「残念ですが、今の彼の彼女は私ですわ、……大丈夫、冬至も幸せになるはずです。……最終的には」
『だめ! とうじは、わたしといっしょになって、しょうらいてきにはようせいにするの!』
でも、なぜだろうか、誰を選んでも冬至は幸せにはなれない気がする。
「「『さぁ、えらんで!』」」
三人が振り向いた先には、いるはずの人物は消えていた。
『おーい、君たち、早く乗ってくれ』
バスの運転手さんが、こちらに手を振っている。
すでに観光バスは到着しており、乗車していないのは、僕たちだけになっていた。




