第三十一話 本当の名前
「……まだよ」
ぐったりと倒れているグリフォンを見つめながら、そう呟いた。
「私は、みんなの記憶を書き換えた、もう取り返しがつかないの、もう引き返すことはできない、勇気を倒すしか、道はないの……!」
「もう、無理をしなくていいよ」
「無理なんてしてない、これは私の」
「もう大丈夫だよ。好」
僕はそう優しく言った。
「………」
好は、ポロポロと涙を溢した。
可井日向(可井日向)の正体は、幼馴染の相川好。
「ごめんね、いままで気づけなくて、好はずっとヒントを出していたのに」
ここ最近、学校は欠席続き、模擬戦もほとんど出場していない。
そして、好の記憶を僕以外の人間から消した理由。それは、僕に気づいて欲しかった、ただそれだけだったんだ。
「………」
可井日向の、すべての変装が解ける。
身長は縮み、髪はポニーテールに。
服装は、男性用制服から、女性用制服に。
幻影の魔法だ。見た目を女子から男子にかえ、見る者を錯覚させる。
こんな芸当ができる召喚獣の心当たりは、一つしかない。
「君が、記憶を操作していたんだね」
好の蛇の召喚獣、ベロニカが、彼女の首に巻きついていた。
近づき、頭をツン、と突くと、細長い舌で指を舐めてくれた。
「私、ずっと嘘をついてた、最初から、ずっと、なにもかも……、私の心配をしてくれていた勇気や冬至にも……!」
「うん」
「だから、私は許されちゃいけないの、わたしは……!」
大粒の涙をポロポロと落としながら、彼女はそう伝えてくる。
自暴自棄になっている、けど、好を責めることなんて誰にもできない。しちゃいけないんだ、好自身も。
だって……。
「好は、お母さんの思いを叶えたかっただけなんだ、僕だって同じ状況だったら、同じことをしていたと思う。だから、気にしなくていいんだ」
そう言うと、彼女は顔をあげ、訴えかけるように話しだす。
「そんなこと出来ない! 私は、私は……⁉︎」
僕は、両手を好の頬を覆うようにふれ、涙を拭った。
「さぁ、僕が勝ったんだ、約束通り、名前を教えてほしいな」
僕は笑顔で、そう聞いた。
好は、少し沈黙したあと、ゴシゴシと右手で顔を拭い、涙を流しながら、笑顔を見せながら、ゆっくりと話し出す。
「私の、名前は……」
相川好の召喚獣、ベロニカは、第1話のみに登場しています。知らなかった人はぜひ1話をご覧ください。




