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僕の召喚獣はヒヨコ  作者: ミドリガメ
召喚士編
3/92

第三話 可井日向(かわいひなた)とグリフォン

 ショッピングモールで2人と別れた後、僕は1人で歩いていた。

 帰って何をしようか考えていると、近くの公園から叫び声にも似た幼い声が聞こえてきた。

 ちらりとその公園を覗くと、低学年の小学生たちが、蛇口にホースを付けて水遊びをしている。

 僕も小さい頃この公園で遊んでたなぁ。

 そんなことを考えたながら眺めていると、小学生達にまじって、一人小学生にしては大きい人がいることに気がついた。

 ……しかも、なんか屈んでいて、小学生達に水をかけられ続けている。

 ま、まさか…… いじめ?

 だとしたら眺めている場合じゃない、小学生をとめないと……!


「こら、なにしてるんだ小学生達」


『げ、おとなだ』

『こらー? なんで?』

『なんか、おとななのにもどみたいなひとだね』


 あまり悪びれる様子もなく、僕の方に駆け寄ってる子供達。

 むっ、これは、悪いことをしていることに気がついてないんだ。

 だとしたら、年上として、ちゃんと教えてあげなくちゃいけない。


「人に水をかけちゃだめでしょ?」


『え? なんで?』

『どうしてどうして?』

『きもちよさそうにしてるよ?』


「気持ちよさそうにしててもダメ、自分がされたらいやでしょ?」


『え? ぼくされたいよ?』

『かけていいよ』

『あついからみずあびたいよ?』


「いや、でも」


『でもじゃない、みずあびたいからみずかけて』

『おにいさん、さっきされたらいやなことするなっていった』

『だったら、されたいことしてほしいな』


 ん、あれ? ぼくもしかして小学生に言い負けてる?

 い、いや、そんなわけない、さすがに一回り小さい子供に論破されるなんてことは……。


「あ、あのね、子供達」


『こどもたちじゃない、ぼくはこうへい』

『おとうさんにいわれたよ、ちゃんとなまえをつかいなさいって』

『おにいさん、おとななのにこどもだね』


 ………。

 ちがう、頬に流れているのは涙じゃない、そんなわけはないんだ。


「もう、水掛け続けてっていったよね……え?」


 屈んで水を浴びせられていた人が起き上がった。

 僕と同じ制服を着ている、おそらく男子生徒。

 見た目では、男か女かわからないけど、男性用制服を着ているから、おそらく男だ。

 茶髪のショートヘアで、肌がきめ細かく、白い。

 アルトボイスで、透き通っている声

 ん? どっかで見たことがあるような……。


「あ、もしかして、可井くん?」


 そうだ、学校でよく見かける、可井日向君だ。召喚獣の模擬戦で、優秀な成績を収めてるって噂の。

 いつも女生徒からちやほやされており、一部の男性から嫉妬の熱を浴びせられてる。本校の代表のような存在。


「え、あ、うん。そうだよ。奇遇だね、高橋さん」

「僕の名前知ってるの?」


 すると、少し慌てながら、目を逸らす可井君。


「ま、まぁ、有名ですから」

「へぇ、そうなんだ……?」


 ここで、違和感を覚えた。


「水掛けられてたけど、大丈夫?」

「う、うん、ボクが掛けてほしいって頼んだんです」

「そうなんだ、なんだ勘違い……か?」


 ん? あれ?


「勇気さんは、どうしてこの公園にいるんですか?」

「うん、えっと、なんでだろうね」

「?」


 正直、全く話が頭に入ってこない。緊急事態に脳がショートしている。

 シャツの隙間から下着が見えていた。


 水色の、ブラジャーが。


「ど、どうしたんですか? 顔真っ青ですよ?」


 青いのは君のブラだ。

 これは指摘したほうがいいんだろうか、でも、おそらく可井君も隠しているに違いない、根拠はないけど。根拠はあるんだ。


「ん? どこかおかしいところあります?」

「ど、どうだろ、おかしいのは世界かもよ?」 

「? 何言っているんですか?」


 く、どうしたらいいんだ!


『み、みずいろだ』

『ママもおなじのつけてる』

『おにーさ、おねーさ、おねーさん?』


「? どうしたの、こうへい君たち? 水色?」


 まずい、このままだと気づく!

(行け! ヒヨコ!)


「ピヨッ!」


 ぱたぱたぱたと、手羽先部分を懸命に動かし、可井君の肩にちょこんとのるヒヨコ。


「…………」


 可井君は、ぎゅっとヒヨコを手でつつみ、頬当たりまで持ち上げた。


「……かわいい」


 そう呟くと、ヒヨコに頬擦りし始めた。

 よ、よかった、普段の印象とは違い、可愛いものがすきっぽい。


『いいなぁー、ぼくもー』

『わたしもー』

『はやくかしてー』


 小学生達も彼の元に集まっていく。ヒヨコが興味を引いてくれたおかげ、ブラジャーの事は頭からなくなっているようだ。


「あ、そろそろ時間…… じゃあね、こうへい君、まりも君、あいなちゃん」


『またねー』

『ばいばいー』

『ばいならー』


「ちょ、ちょっとまって!」

「どうしたんですか?」


 このまま行かせたら、水で透けたブラジャーを見せびらかしながら公道を歩くことになる。それはなんとしても避けなくては!


「あ、その、濡れてるけど大丈夫?」

「はい、あるいてたら乾きますから」

「で、でも、乾かしたほうがいいんじゃない? か、風邪引いちゃうかもだし」

「うーん、分かりました。そこまで言うなら……。おいで、グリフォン」


 物陰から、横幅2メートルはある。巨大な鳥類がゆっくりと姿を現した。


「これが、噂に聞くグリフォンかぁ。」

 その貫禄から発せられる威圧感に一歩さがってしまう。かっこよくて、そして強そう。


「ふふ、可愛いでしょ?」


 頭をごしごしとなでながら頬擦りする可井君。なんとも幸せそうだ。


「じゃぁ、お願いグリちゃん」

「クルァァ」


 グリフォンが声を上げると同時に、ドライヤーの弱ほどの風が彼の体の周りに拭き始めた。


「これ、風魔法?」

「はい、この子が1番得意な魔法です」


 なんとも羨ましい話だ、うちの鳥はまじでなにもできないっていうのに。


「ふぅ、乾いた。 ありがとね」

「クルァァ!」


 今度はグリフォンから可井君に頬擦りをしている。


「もう、くすぐったいってば!」

「クルルル」


 なんとも微笑ましい光景だろう。僕も真似してみよう。

「おいで、ヒヨコ!」

「ピヨ?」

「おいでヒヨコ!」

「ピヨ」

「こいヒヨコ!」

「ピヨッ(プイッ)」

「あはは、もう、ヒヨコったら。 ……焼き鳥にして食べるぞ」

「ピヨー(僕の肩にちょこん)」

「あはは、僕とヒヨコも負けてないね!」

「ピヨピヨ…(食べないでのジェスチャー)」


 食べないさ、言うことを聞いているうちは。

 ……っと、こんな茶番やってる場合じゃない。

 彼のブラジャーは……、うん、もう透けてない、大丈夫だ。


「じゃぁ、可井君、また学校で」

「……はい、また学校で」


 ん、一瞬顔を曇らせたような……?


「どうかしたの?」

「い、いや、なんでもないです! ではまた!」


 彼はグリフォンに乗り、超スピードで空に舞い上がった。


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