魔王を滅ぼした勇者パーティーから別れを告げられたけどどうやらわたし一人でも楽勝です〜最初は復讐してやろう!と意気込んでいましたが平和な世界を見てたらどうでもよくなったのでのんびり過ごします〜
魔王討伐の翌日。
「おい、シルフ」
「はい、勇者様」
「魔王は既にこの世界には居ない」
「えぇ、そうです。みんなで頑張って討伐しましたからね」
「でだ、シルフ」
「はい、勇者様」
「今日、本日。この時間をもってお前をこのパーティーから追放する。理由は……まぁ、聞いてくれるな」
聞いてくれるな。
って、勇者様。
言わないでもわかります。
今の貴方の両手。そこに、ぼんっきゅっぼんの女子たちがいらっしゃること。それが、このわたしを追放する理由であることぐらいわかります。
「シルフ。俺も男だ」
「はい」
「シルフの魔法。それにはよく助けられた。魔王との最終決戦。そこでお前の加護のおかげで魔王を瞬殺できたこと。それには感謝してもしきれない。だが」
「……」
「俺も男だ。平和になった世界ではぼんっきゅっぼんっの可愛い女子にちやほやされたい。勿論、シルフもちっちゃくて可愛い。しかし、俺も男だ。ちっちゃくて可愛いシルフより、ぼんっきゅっぼんっの美人なお姉さんさんにちやほやされたい。シルフ、俺も男だ。(以下略)」
「わかりました、勇者様。勇者様も男の子ですものね」
「わかってくれたか、シルフ」
笑顔になる、勇者。
「充分、理解できました。では、わたしはこれで失礼。メリルと約束がありますので」
「あぁ、待ってくれシルフ」
「はい?」
「これは今までの礼だ。好きに使ってくれ」
金貨のたっぷり入った袋。
それを懐から出し、シルフへと手渡す勇者。
「これだけあれば一生、遊んで暮らせる。今まで頑張ってきた分、のんびり生きてくれ」
「はぁ」
「じゃあな、シルフ。また困ったことがあったらなんでも言ってくれ。しばらく俺はこの街に居座るつもりだからな」
「はい」
こうしてシルフは勇者から別れを告げられ、のんびり余生を過ごすことになったのであった。
〜〜〜
「ってなわけで、勇者に復讐したい所存」
「はぁ」
酒場。
そこのカウンター席でオレンジジュースをひっかけ、シルフはドンッとテーブルにジョッキを置く。
「あの時はどうとも思わなかった。だけど、よくよく考えたら」
「見た目だけで人を判断する勇者。それをわたしは許さない。イライラする次第」
「店主。いや、剣聖。どう思う?」
「どう思う? って言われてもな。見ろよ、シルフ」
指さす、クリス。
白髪のクリス。
その朗らかな笑顔と声。
それに、シルフは後ろを振り返る。
そこには、楽しそうな人々の姿。
「平和になった世界。それを見てたら、復讐なんつうドロドロしたモン。どうでもよくならないか?」
勇者と共に世界を救い、酒場の店主となったクリス。
その声。
それにシルフは、「どうでもよくなった次第」と、ちいさく頷くのであった。
〜〜〜
「ってなわけで。のんびり過ごすことに決めた所存」
「なに宣言なの? それ」
「復讐なんつうドロドロしたモン。どうでもよくなった。って思った次第」
「そっか、そっか。えらいねー、シルフ」
「ってなわけでのんびり過ごそう」
「賛成、賛成」
雲の流れる青空。
それを見つめ、大の字に寝転がる二人の少女。
銀髪魔法使い【シルフ】と、金髪治癒士【メリル】。
「温かい」
「そだね」
「眠い」
「寝よっか?」
「うん」
手のひらを握り合い、お昼寝に突入する、二人。
その二人に降り注ぐ、日の光。
それは暖かく、二人の決意を祝福しているようであった。
しかしその二人の頬には、一筋の涙がつたう。
「幸せだ。夢みたい」
「うん。幸せ。あったかくて、幸せで。夢みたいだね」
〜〜〜
「シルフ、メリル、クリス。聞こえるか?」
足元の三つの墓標。
それを見下ろし、男は問いかけた。
降り注ぐ雨。
それに髪を濡らしーー
「今日で三年か。魔王を倒し、世界が平和になって」
男の名は、アレン。
かつて世界を覆った闇を祓い、勇者と呼ばれた者。
しかし、生き残ったのはアレン一人。
剣聖クリス。
魔法使いシルフ。
治癒士メリル。
その三人の仲間たちは、魔王との戦いで命を落とした。
"「世界を救ったら、そうだな。店を開きたい。酒場。酒場の店主にでもなって、賑やかな場所で余生を過ごしたいものだ」"
"「わたしは、のんびり過ごす。平和な世界。そこで、広い広い草原で、お昼寝したい」"
"「わたしも。シルフと一緒にお昼寝したい。温かい日の光。それをお布団がわりにして」"
三人の生前の言葉。
それを思い出し、涙ぐむアレン。
そしてその涙を拭い、感傷に浸ろうとした瞬間。
「うーん。むにゃむにゃ……はっ!? どこ、ここ? こ、こから出たい所存!!」
「うーん……うん? 暗い、狭い。どうしてわたしはこんなところに!? 出して!! 出して!!」
「落ち着けッ、二人共!! くッ、狭い!! ここはどこだ!? かくなる上は我が剣技でッ、剣が抜けない!! もたおしまいだァ!!」
呼応し、晴れる空。
墓標の下の棺桶。
そこから響く騒がしい声。
それに目を点にし、アレンは呆気に取られる。
そのアレンの気配。
それを地の下から感知するは、シルフ。
「ん? そ、そこにいらっしゃるのは、アレン? た、助かった次第。貴方に追放され、お昼寝する気持ちのいい夢。それを見てたら、こんなところに。はやく出してください。お願いします」
「アレン? ふぅ、ぎりぎりセーフ。目覚めたタイミングが良かった。ってなわけで、出して」
「アレン殿? 拙者も長きに渡り酒場の店主になる夢を見てたところ、このようなところに。この剣聖、一生の不覚」
「お、お前ら。生きていたのか?」
「ん? はい。魔王の甚大な一撃。それを受ける寸前に、このシルフの不労不死不腐の加護。それを皆に付与した次第。その代わり、三年は死体のようになり夢を見ながら時を待たねばならぬのが唯一の欠点」
「勇者様にも付与しようとしたんだよね、シルフ」
「えぇ、そうです。ですが、貴方は一人猛進。そこは流石、勇者様。魔王の一撃をモロともせず、たったの一人で魔王を葬った次第。今思い出しても、圧巻です」
「その結果。我ら三人のみ、この有様」
次々と響く、三人の声。
それにアレンは吹き出してしまう。
「あ、あははは。そ、そうだったのか。てっきり俺は」
三年もの間。
悲しみに打ちひしがれていた、勇者。
それが全部勘違いだと知り、勇者は安堵した。
そして、急ぎ三人を掘り返しーー
「ふぅ。助かったぁ……ありがとう、アレン」
ぽんぽんとアレンの労を労う、シルフ。
服は砂だらけ。そして、それは他の二人も同じだった。
「流石、勇者様。こんなときに丁度、墓参りなんてできるものじゃないよ」
「うむ。流石、勇者殿」
服の砂。
それを払い、アレンの両脇に立つ二人。
「よし。街に向かおう」
「今日は俺の奢りだ。三年ぶりにぱーっとしよう」
「肉。ジュース。ケーキ。たらふく食べたい気分」
「やったー。それが終わったら宿屋でのんびりしたいな、わたし」
「のんびり? メリルはまだのんびりしたいのですか? 夢の中であんなにのんびりお昼寝したと言うのに」
「あれは、あれ。これは、これ」
「目にゴミが入ったとかなんとか言って、涙が出ていましたね。まぁ、わたしもそうでしたが」
「ふむ。やはり、現実が一番ですな。これからもよろしくお願いしますぞ、勇者殿」
響く、四人の笑い声。
その幸せは夢ではなく、現実の幸せそのものだった。