主人公に対する皮肉
こういうのよくあるよね
また何かと彼に突っかかって。
君は彼が好きなのか?
誰に対しても思わせぶりな態度を取るのは良くないな。君、結構な尻軽だと思われてるよ。はは、そんなことを今更言ったって「八方美人」の範疇を容易く超えているもの。
誰か一人を選ぶなら誰にする?あの方か、あれか、あいつか。…彼か。
あの方は僕らの神に等しい。到底等しく肩を並べる日など来ないだろう。釣り合いの取れない君などがあの方の横に立とうなんて思い上がりも甚だしい。そして君の存在をあの方が億に一未満の確率で認めたとしても、あの方を汚すのは、あの方を貶めるのは、あの方を堕とすのはお前だ。
あれは逆に君に不釣り合いだ。そう気色だつなよ。まあ、あれが人格者であることは認めよう。だが君には背負って生きるべき家がある。唯一の女児なのだから家と家の橋渡し役を全うする義務がある。君はは自分の家に穢れた血が入ることが、その子供の代以降周囲に自身の生家を汚れた家だと蔑まれることが許容できるのか?
あいつは身分としては君に相応しいと言っておこう。しかし、人格や派閥という観点から見た限り最高の相手ではないことを言っておくよ。まず君もあいつも感情にすぐ振り回される。二人が理性をかなぐり捨てて生き続けるなら君の家はどうなるだろうね。そう、そもそもの問題として君の家は保守派、あいつの家は中立派という絶対的事実がある。駆け落ちでもしない限り君たちの家族は君たちを赦しはしない。君にはそんな昏い感情を受け止める度胸も背負って生きる芯もない。
彼は素晴らしい人だ。勿論お前には勿体無い程に。彼は嫡子であるからその妻は家の女主人として生き、その子は跡継ぎとして生涯を家に、当主に捧げて生きることが必要とされる。君に、子供の将来を彼が生まれる前から決める権利はあると自身を持って言えるのか?彼が決められた道から踏み外さないように矯正し続ける根気があるのか?女主人として、上級貴族として、貴族の上に立ち世を回すことができるのか?僕は君が彼のことを貶めはしないかと心配なんだ。彼はあんなに初心なんだ。今なら女狐に誑かされたと言って誤魔化しがきく。
僕の言いたいことはもう分かったかい?君に、彼を選ぶ資格などない。
お前自身に何があるのかをよく考えて選べばいい。選択肢なんてないに等しいがな。