表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

6. 妖精族の王女

 これがリアンか。妖精とはいえ、相手はまだ子供だ。傷付けたくはないが、本気で攻撃されると厄介だ。手のひらを彼女に向けて、祈りを唱えた。

「ブレストバブル。」

 見た目は何も変わらないが、リアンを空気のバブルに捕えて、ゆっくり地面に降ろした。騒がれても厄介なのでブイネも、別のバブルに捕えて、二人を並べた。

 バブルに捕えたブイネとリアンの前で、俺は厳かに言った。

「二人とも、俺を殺そうとした。だから、モルドレッド王の法では、俺はお前たちに仕返しができる。だが、そうすればお前たちはきっと死んでしまうだろう。モルドレッド王の法では、こんな時にもう一つの選択肢がある。それは何だ?」

ブイネが、ためらいながら応えた。

「それは、仕返しする権利を持つ者に隷属することです。」

「そうだ。だから、選ばせてやる。」

俺が隷属の呪文、

「スレーブイニシエーション。」

を唱えると、二人の首に黒い文様が現れた。

「お前たちが、隷属を選ぶなら承認を、死を選ぶなら承認しなければ良い。」

 スレイブイニシエーションで生じる文様が、少しずつ二人の首を締めていく。やがて、可愛い顔を少し歪めて、リアンが叫んだ。

「ブイネ様、私は貴方になら隷属しても構いませんが、こんな人には…。」

ブイネも苦しそうだが、リアンに大きな声で答えた。

「君が来る前に少し話しをしたけど、この人は悪い人じゃないよ。ちゃんと謝って、隷属しようよ?」

「ブイネ様がそうおっしゃるなら、…従います。」

 その直後、二人の首の文様は定着した。二人とも、俺への隷属を承認したのだ。これで、二人は俺に危害を加えられなくなった。

 もし、危害を加えようとすると、激痛が走り何も言えず何も出来なくなる。それに、俺の指示に従わなかったり嘘をついても同様だ。


 俺としては、不死になったとはいえ、不意打ちされたくなかっただけだった。でも、こんな子供たちを奴隷にした俺は、周りから変態の烙印を押されるかもしれない。もっとも、俺とこの二人の子供以外の人族や妖精族と、出くわすことがあればの話だが。


 ようやく闖入者達への対応も終わり、焚き火を三人で囲むと、アクセルウサギは中まで火が通って食べ頃のようだ。香ばしい匂いがたまらない。

 妖精の女の子リアンは、無意識にヨダレを垂らし、それを見たブイネは何故か恥ずかしそうにこちらを見る。子供二人の生活は、やはり大変だったのだろう。

 俺もまだお腹が空いていたし、早速切り分けた。三人とも、しばらく無言で一心に食べた。ブイネとリアンは食糧に乏しい生活を送っていたようだが、俺だって今日はまだ何も食べてなかったのだ。

 しかし食べ終わると、ブイネもリアンも、さっきとはまるで違う笑顔を見せてくれた。これが、「餌付け」というものだろうか?「隷属」の呪文より、「餌付け」の方がずっと効果がありそうだ。それに、恐怖に引き攣る顔より、笑顔を見るのは気持ちが良い。


 笑顔になったリアンに尋ねた。


「君がブイネから聞いたリアンかな?」

今さらながら、名前の確認だ。

 しかし、リアンはちょっと困ったような表情で、ブイネの顔を見た。ブイネは苦笑いしながら、

「リアン、お兄さんの質問に答えて。でも、えっと、お兄さんの名前は、まだ僕も教えてもらって無いんだけど。」

と、俺の顔を覗きこんだ。

 そうだ、俺もまだ自分の名前も教えて無かったのだ。軽く咳払いをしてから、自己紹介をした。

「俺はクリスと言う。二十歳の若僧神官だけど、冒険者もやったことあるし、勇者のパーティにも二回加わったことがあるんだぞ。」

 勇者パーティーへの参加は、二回とも親しかった勇者エイミーに誘ってもらえたから、加われたのだが。我が隷属者たちの前では強がって、そこは言わなかった。

 すると、リアンも少し緊張しながら、自己紹介してくれた。

「クリス様、私はリアン。十歳です。私の父は妖精族の王ブランで、母はメイブです。」

 あのブランの娘だったのか!俺はあまり驚いて、卒倒しそうになったが、平静を装った。それでは、ブイネとリアンは仇敵同士ではないか?それに、俺は彼女の父親ブランの仇だ。


 それなら、リアンがどう思っているのか、気になることが三つある。


 一つ目は、

「リアンはブイネのことを、どれくらい知っているの?」

ということだ。これに対して、リアンは、

「親同士は敵対しましたが、私が生きているのはブイネ様のおかけです。それに、ブイネ様は優しくて…。」

と言いながら顔が赤くなっていき、最後の方は声も小さくなって聞こえなくなってしまった。


 二つ目は、リアンの目には、俺がどう見えているのかだ。リアンは、

「クリス様は人族の男性ですよね?羽も生えて無いし…。」

と訝しんで答えた。ブイネと同じように、リアンにも「禁呪」の影響は無いようだ。


 三つ目。これが一番難しい質問だったが、リアンは人族の勇者という存在をどう思っているのか、と言う問いだ。これについてリアンは、

「人族だけでなく、妖精族にも勇者はいて、普段は魔獣などから人々を守ってくれています。人族の勇者が妖精族と敵対したり、妖精族の勇者が人族と敵対するのは、戦争しているからでしょう?それなら、本当に悪いのは、妖精族と人族の王だと、私は思います。」

 俺は頭を殴られた心地がした。これではリアンは、「童女」と言うより「聖女」では無いか?それに、彼女に一目惚れしたブイネの眼力にも、恐れ入った。


 俺は、自分が隷属させた二人の子供たちを、密かに尊敬した。二人がこの世界を生き抜いて行けるように、手助けしてあげたいと思い始めたのは、今思えばこの時だったのだ。


 だが、この時点では俺には余裕は無かった。だから、考えていたことは目先のこと二つだけだった。一つ目は、住む場所と道具について、一応目処が着いたこと。もう一つ目は、隷属した者に食事を与えることは主人の義務であり、三人分の食糧調達を考えなければならなくなったことだ。

 そこで、まずは二人に釣りを教えることにした。釣竿はあと二本あり、全員分ある。ルアーは同じ物は他に無いので、ブイネとリアンに良さそうな物を選んでやった。

 こうして三人で釣り大会をすると、あっというまに二十匹が釣れた。今日は昼にアクセルウサギ、夕食に焼き魚を食べ、腹を満たすことが出来た。


 腹が満ちると、明るいうちにブイネとリアンが住む離宮に着けるように、三人で歩き始めた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ