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5. ブイネとリアン

 さらに、人族の王モルドレッドが率いた軍が全滅したと告げると、男の子は地面にしゃがみ込んで声を上げて泣きだした。

 だが、やがて立ち上がった彼は、俺の顔を真っ直ぐ見ると、こう言った。

「では、人族の生き残りは僕達だけなのですか?」

「王国の東の果て、ここから五日ほど歩いた所に、ルーロという村がある。人族の反撃で、妖精軍はそこで全滅した。だから、そこには人族の生き残りがいる。それに、妖精軍に滅ぼされた町や村、王都にも、わずかながら生き残りがいるかもしれない。」

「それでは、妖精族には生き残りはいないのですか?」

 彼のこの発言で俺は気づいた。彼は俺を人族だと思っているようだ。この子は、俺にかけられた呪いの影響を受けていないのだろう。「禁呪」は影響する範囲が限定されているのかも知れない。

 それはともかく、妖精族に生き残りはいるのだろうか?妖精族の王を倒し、その軍は全滅させた。だが、途中の町や村、王都には、僅かでも妖精軍の者は残されていないのだろうか?それに、妖精の国にも生き残りがいるかも知れない。

 それを男の子に言うと、

「そうすると、リアンも独りぼっちじゃないかも知れないんだね?」

「ええと、リアンって?」

「えっ、あっ、あのう…実は僕と一緒に暮らしている妖精族の女の子なんですが…。」

 どうも、この子はうっかり「リアン」という妖精族の子供の名前を口から出してしまったようだ。しかも、人族と妖精族の子供が一緒に暮らしているなんていうので、さらに突っ込んで聞いてみた。

「人族と妖精族が殺し合うこの時代に、君達は一緒に暮らしているのか。」

「そうです。リアンはとても可愛い、妖精族の女の子ですよ。」

男の子は頷いた。


 ますます不思議な子供だ。この子は普通の子供じゃない。一体、何者なんだろう?

 そう思った俺は、彼自身について尋ねた。

「それにしても、君は一体何者なんだ?それに、人族はほとんど妖精王に滅ぼされたはずなのに、君は何処にいて助かったんだ?」

すると、ためらいがちに、男の子が答えた。

「僕は、ダヴェド王国の王子ブイネと言います。」

 「ブイネ」だって?その名前は、王都にいた頃に聞いたことがある。確か、モルドレッド王の一人息子で、まだ幼いと言われていた。確か十二歳位だったはずだ。王の留守中、宰相のオズワルドが王都と王国の実権を握っていて、表舞台には現れたことはなかった。


 しかし、この子は本物の「ブイネ」だろうか?


 俺が考えている間にも、「ブイネ」の話は続いた。

「父上が出陣してからは、僕は王都から離れた王族専用の離宮で暮らしていました。ここには私の知らない人は滅多に来ないんですが、一ヶ月と少し前に、見たことの無い馬車が離れに着いたんです。だから、何があったのかメイドや執事に聞こうと思ったんですが…、その時には皆いなくなっていたんです。」

 王都から離れた離宮か。そんな話は聞いたことが無い。しかも、王子一人を残して使用人が一斉に姿を消すなんて、ありえない話だ。だが、それを嘘だと言い切れるほど、俺は王家の事情に詳しくは無い。何か事情があったのだろうか?

 そこで、ブイネの言葉を信じて先を促すと、彼は話を続けた。

「それで、誰か残っていないか離宮中を探して歩き回ると、離れにいたリアンを見つけたんです。リアンは離れの使用人用の部屋に、閉じ込められていました。彼女の美しい横顔、彼女の美しい手足、妖精である彼女の美しい羽。一目惚れでした…。」

 そこで、

「だけど、相手は妖精だろう?怖くなかったのか?」

と尋ねると、ブイネは首を振った。

「むしろ、最初はリアンが僕を怖がったんです。でも、それも当然だと思いました。リアンは手足を鎖で繋がれていたんです。きっと、リアンを馬車で連れてきた人達がそうしたんでしょうから、人族の僕を怖がったのも仕方ありません。」

「それで、君はどうしたの?」

「鍵を探してきて手枷と足枷を外してあげながら、僕自身が見たり聞いたりしたことを話したんです。そうしたら、リアンは何かを考えるように、しばらくキョトンしてました。でもその直ぐ後に、リアンと僕のお腹が同時に空腹で鳴って…二人で笑ってしまいました。」

 そう話すブイネのお腹が鳴った。彼も空腹なのだろうと思い、残っていた焼き魚を与えると、猛烈な勢いで食べ始めた。それを微笑ましく見ながら、アクセルウサギを解体して肉を火にかけ皮をなめしながら、話の先を促した。

「それで、二人で離宮を歩き回って食糧を探して、二人とも気づいたんです。子供二人で生きていくためには、協力しなければならないって。」

「離宮には、食糧だってあったんだろう?」

「そうなんですけど、子供二人で料理、洗濯、掃除などをこなしていくのは大変だったんですよ。」

「そのリアンという妖精の年齢は?」

「僕と同じくらいの歳だと思って聞いてみたら、十歳だと言ってました。」

「それで、君はどうしてこんな所に出てきたの?」

「大人たちがいなくなってしばらくして、食糧が底を尽きかけているんです。だから、僕がこうして狩りに出てきたのですが、結果はこの通り。ウサギも狩れないなんて、情けない限りです。」

 どうやら、ブイネは獣の「ウサギ」と魔獣の「アクセルウサギ」の違いもわからないらしい。これでは、まともに狩りができるはずもない。

 だが、この際だ。相手が王子ならなおさら、俺とブイネの立場をはっきりさせておこうと思った。そこで、ことの発端に話題を戻した。

「それで、俺に矢を射かけたと?」

「本当にごめんなさい。でも、見逃してもらえませんか?僕が獲物を持って帰れないと、リアンが飢えてしまうので。」

 ブイネ王子は調子の良いことを言ってきたが、彼の父親、モルドレッド王は領民に厳しかった。モルドレッド王が存命なら、俺が王子に矢を射かけていれば、即、法に照らして処刑されたことだろう。だから、ブイネ王子を少し睨みつけると、彼は少し怯えた顔になって言い直してきた。

「すみません。僕は矢で射殺されても構いません。…それが父の決めた法ですから。でも、リアンは…妖精の国に連れて行ってもらえないでしょうか?」

 その時だ、空から何本もの氷の矢が降ってきた。妖精族の王ブランがよく使っていた魔法だ。そちらに向けて右手の二本指で円を描きディストーションフィールドを発動すると、氷の矢は空中で止まり、やがて地表にゆっくり落下した。

 氷の矢が飛んで来た方向に、羽の生えた女の子の姿が見えた。女の子が叫んだ。

「ブイネ様、ここは私に任せてお逃げください!」

「この人を攻撃してはいけない。リアンは逃げろ!」


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