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4. 生き残り

 サボーイ村から王都までは、一本道で行けるはずだ。途中、町を五つくらい通過することになる。順調に歩むことができれば、一ヶ月位で王都に着くだろう。

 だが、以前に通った時には猛獣や魔物に襲われた者の話を聞いた。戦う準備と警戒を怠るわけにはいかない。それに、手持ちの食糧は五日分位しか無いので、獲物が出たら狩って食糧の足しにしたい。

 天気は良いし、野に咲く花は美しい。あまりに平和な情景が続くので、つい昨日、人類が滅びかけたことを忘れてしまいそうだ。


 サボーイ村を出て三日目のお昼頃のことだった。やや大きな川で、道が途切れていた。以前は橋がかかっていたが、人がやったのか妖精がやったのか、破壊されて土台しか残っていない。この辺りは土地が痩せているのか、背の低い雑草が茂っていて、寝っころがると気持ち良い。

 少し休んでから浅瀬を探したが、見つからない。渡河に使えそうな舟や木材も、もちろん無さそうだ。祈祷で空気の泡を作って、川底を歩いて行くことも考えたが、流れが速いので遥か遠くまで流されてしまいそうだ。祈祷による転移は、教会から別な教会への移動にしか使えない。ルーロ村はもちろんサボーイ村の教会も、跡形も無く破壊されていて使えなかった。

 川の水をすくってみると、それほど冷たくは無い。これなら、川を泳いで渡れるかもしれない。俺の祈祷では俺自身を飛行させることはできないが、荷物くらいなら川を越えて飛ばせる。

 そこで、装備品や衣類もバックパックに突っ込んで、魔法陣を空中に描いて祈った。

「ブレストウイング。」

バックパックが浮かび上がった。それを指で対岸に誘導し、着地させた。何度もやったことではあるが、物を浮遊させて飛びまわらせるのは楽しい。

 今度は俺自身の渡河だ。俺は泳ぐのは得意だが、この流れでこの水温の川を渡るのは、少し気合いが必要だった。どうせ死なない身体だから、溺死することは無いだろうが。

 川の中を歩き始めて間もなく、立っていられないほどの深さになった。流れに逆らわず、泳ぐ。泳ぐ。そして、対岸にたどり着いた。泳いだ時間は僅か数分だったろうか?だが、意外に下流に流されてしまった。


 裸のまま荷物を着地させた所まで歩くのに数分かかり、ようやく服を着た頃には寒さで身体が震えた。枯れ草を集めて火を点ける。

「ファイヤーボール。」

これは、昔ミリアから教わった、初級の火炎魔法だ。

 少しずつ身体が温かくなってきたが、今度はお腹が空いてきた。こんな時は、釣りでもしようか?荷物から釣り道具を取り出して、川面に糸を垂れることにした。

 餌の調達が容易にできないため、ルアーだ。本来は、釣ろうとする魚の種類によってルアーを選ぶべきだが、ここで何が釣れるのか判らないから、勘で選ぶしかない。水面に落ちた虫を模擬したような形のルアー、それが俺の選択だった。

 選んだルアーが良かったのか、場所が良かったのか。三十分経たない内に二匹かかった。以前にも見たことがある種類の魚だ。多分、毒は無いはずだ。まあ、毒入りでも俺は死なないだろうから問題は無いと思うが…やはり苦しいだろうから、毒が無いことを祈ろう。

 その辺りに落ちていた枝を剣で削って串状にして釣った魚を刺すと、塩を振って焼き始めた。じわじわと魚の表面に焦げ目が入り、香ばしい匂いがしてきた。もう我慢できない。一匹目の魚にかぶりついた。美味い。毒も無いようだ。


 もう一匹目にかぶりつこうとしたその時、突然背後の茂みから物音がした。きっと獲物だ。これからの旅で必要な食糧になるかも知れない。いや、危険な猛獣や魔獣の可能性だってある。慌てて弓を取って、矢をつがえた。人も妖精もほとんどいなくなったこの時に、何が出てくるのか?ドキドキしながら狙いを定めようとした。

 茂みから飛び出して来た何かは、とても素速い。だが、妖精王とも戦った俺の動態視力で、捉えられないはずは無い。ついに狙いが定まり、矢を放とうとした俺に見えたのは、魔獣だけど弱いアクセルウサギだ。

 アクセルウサギは加速魔法が使えるため、逃げ出す時などは超高速に走る。だけど、スキルはそれだけ。強さは獣のウサギと同じくらいで、もの凄く弱い。かわいそうだと心の片隅で思いながらも、矢を放った。冒険者生活の長い俺は、もちろん一発で仕留めた。


 仕留めたアクセルウサギに近づこうとすると、また茂みからガサッと音がした。後ろから強い猛獣や魔獣に追いかけられて、アクセルウサギのような弱い魔獣が茂みから飛び出てくるのは、よくあることだ。すると、今度はもっと強い猛獣か魔獣が出てくるのだろうか?

 少し緊張して、再び矢をつがえる。すると、アクセルウサギよりはずっと大きい何かが現れた。だが、それよりもずっと速く、矢が飛んで来た。

 とっさに、二本指で空中に円を描いて、無詠唱の防御結界を張る。すると、その円を中心とした光の壁ができて、目の前で矢が落ちた。祈祷術から派生した結界術の一つで、物理攻撃と魔力攻撃のどちらに対しても有効な、「ディストーションフィールド」だ。

 今度はお返しだ。だが、矢を放とうとして狙った先をよく見ると、何とそこにいたのは人族の男の子だった。驚いて手を止めると、

「ごめんなさいっ!ウサギを射っても、なかなか当たらなくて…。それなのに、しまいには矢を放った先にお兄さんがいて…。」


 ルーロ村以外に、人族の生き残りがいるなんて。それも、まだ子供だ。年の頃は十代前半位に見えるが、二十歳の俺を「お兄さん」と呼ぶ位だ。年齢不相応に賢そうだし、胆力もありそうだ。

 ここは王都から離れた田舎だ。平和な時でも他の人と遭遇することは滅多に無い。こんな田舎で、王族か貴族のような身なりをしている。彼は一体何者なのだろう?


 子供とは言え、俺を矢で射ってきた奴だ。油断は出来ないが、少し話をしてみたくなった。

「お前は、何故こんな所にいるんだ?王都や近隣の町や村は妖精族に滅ぼされて、人族はほとんど生き残っていないはずだが?」

 俺としては率直に質問しただけのつもりだったが、それを聞いた男の子の表情は一変した。

「王都が滅ぼされただと?冗談でも、私の前でそんなことを口にするな!」

思いもよらなかった彼の反応に、少し驚かされたが、事実は変えようが無い。俺が静かに首を振ると、男の子は両手で顔を隠してうなだれた。


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