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快決屋! 凪 #2 雪女の人探し

作者: アナベル・礼奈

 これは魔界の「怪決屋! 凪」という何でも屋の物語である。

 一、奇なる依頼

 晴天に気持ちのいい空。

凪は所長の椅子で酒を飲んで空を眺めていた。

「いい日だが。まだねみぃな。昨日はしこたま飲んだからな。」

倭漢の店で盛り上がって、前のミカからの依頼の金は洗ってからミカとファルコンに渡すように言ってある。カラスからもらった1万金は敏腕秘書の杏南が返済に回して、倭漢の店のツケも清算し借金はなくなったが、相変わらずの生活。杏南のキャバクラの稼ぎと余った2000金でやりくりしている。1金は人間界での約1$と考えれば日本円にして20万程度。自転車操業じゃなくなったものの、取り立てが無くなっただけでマシになった。

 所長室がノックされた。「なんだよ。」と凪が言うと、杏南が疲れた顔で何枚か書類を持って入ってきた。確かに早朝キャバクラから帰ってきて昼前まで寝てた。酒を飲んでいる凪を見て杏南の片目がぴくついた。

「所長。まさかとは思いますが、お客さん来ましたか? それとも、そうやってふんぞり返って酒飲んでたんですか?」

 杏南は怒ってテーブルに書類を並べた。キャバクラで聞いた依頼になりそうな話と本物の依頼もあった。凪は驚いた。ミカの時に似ている。また人探しだ。

「あぁクソくだらねぇ依頼人は何人か来た。それ以外はある奴を殺してほしいってな。5000金のまぁまぁの仕事だ一応受けた。あの時のミカとファルコンの話から妙に俺が逃がし屋で殺し屋だと思われたみてぇだな。」

杏南はきょとんとしていた。凪は首をかしげて酒を飲んだ。

「今日は雪でも降るのかしら。所長がちゃんとお仕事するなんて。」

「テメェ俺をなんだと思ってやがる。ラングレンや連妖に関係して殺しまでしたんだ。おかしかねぇだろ。特に、連妖の縄張りで他国の奴ぶっ殺したなんてな。それで、お前は?」

凪は酒を飲んだ。書類を見たが浮気調査の希望だの用心棒の依頼だのだが気になった。

「なんだこれ? また人探しかよ。」

「あぁ。それはですね、同じキャバクラで働いてる雪女が、アタシがここの秘書をやってるのは知ってて、弟を探してるんだとか。それでお互い今夜はシフトないし、夜会いたいという事です。」

「雪女? 魔界でも随分な遠隔地だが。こんな所まで1人で来たってのかよ。」

 雪女。人間界では氷女とも呼ばれ、氷鬼に分類される男女の妖怪。魔界の奥深く。相当な寒冷地にひっそりと暮らす種族。あまりの寒さ故に近づく者はほとんどいない氷の国。多種族との交わりもほぼない。そんな所からどうしてこんな温暖な歓楽街に。

「相当なやんちゃな女みてぇだな。弟って事は雪男か氷鬼ってとこか?」

「えぇ。50年位前に冒険に出るんだって。両親や、その女の子はミレイユっていうんですけどね、全員の反対を押し切って氷の国を飛び出したんだとか。名前はジャミルって氷の鬼だそうです。」

「へぇー。田舎暮らしに飽きた冒険者気取りか。俺からすりゃ氷の国に侵略しようなんて酔狂な野郎はラングレンみたいなイカれた奴くれぇだ。黙って暮らしてる方が安全だろうにな。」

凪は酒を飲んで立った。凪の殺しの依頼は依頼書を締結しておいたから杏南に見せた。杏南はぎょっとした顔をした。

「なんだ? 報酬が不満か? カラスよりは懐はあったかくねぇみたいだが悪かねぇだろ。」

「いえ、その。この子」

杏南は数秒黙ってじっと依頼書を見ている。逃げられたら困るから写真付きで、杏南はその写真を見ている様だ。凪が酒を飲んで不思議そうに聞く。

「なんだ? 知り合いか? 狐じゃねぇ完全な人間型の妖怪だったが?」

「いや、なんていうか。よく見て違うとは思ったんですけどあまりにも似てて。」

「誰とだよ。」

「ミレイちゃんです! あぁ、お店ではミレイユちゃんの源氏名がミレイで。でもよく見ると、こんな猟犬みたいな鋭い目じゃないし、目元のほくろとか、髪の色とか型はこういうショートじゃないんですけど。顔つきはまるで姉妹かと思うくらい似てます。」

「ふーん。そうか。他人の空似じゃねぇのか? 聞いたら雪女とは言ってなかったし、氷の妖気も感じなかったけどな。」

「えぇ。そうですね。しかし、所長。どうしてこの依頼を受けたんですか? 煩わしいからって殺しもほとんど受けないのに。珍しいです。あ!」

凪が座った。

「そうだ。ドグマが標的だからだ。詳しい事は言わなかったが、まだガキの頃家族が襲われて、そのミリアムって女がまだガキだったのにかどわかされたんだってよ。何とか逃げて、成長してからこの街にいるって聞いて殺してやるって心に決めたそうだ。」

 魔界で有名なかどわかし集団というか、落ちこぼれや能力自慢の集まりで結成した「無限の怪」ってブローカーをやってる構成員の1人がドグマという黒鬼で、杏南も知っていた。「無限の怪」は手段を択ばず攻撃的で、金になりそうな妖怪をかどわかして裏の奴隷市場で売りさばく集団の1つ。盗賊もすれば殺しもするタチの悪さで有名だ。

「絶対に許せねぇんだとさ。弟と妹がいて、両親を殺されて、勝てないからドグマに交換条件で自分1人だけでという事で何とかしたらしい。北の出身だろうな。標準語はしゃべるんだが、感情的になると訛りがあった。出身は言わない事で契約すると言って譲らねぇ女だ。」

凪が煙草に火を点けて、杏南は依頼書を置いて凪を見て目が合った。

「ミレイユには弟だけなのか? 両親は?」

「やはり所長もそう思いますか。ミレイちゃんは弟が出て行ったあと、弟を探すために両親を残して氷の国を出てきたそうです。姉がいるとは聞いてません。」

「第六感で同じ予想はしてるんだろうが、決めるにゃお互い早すぎるみてぇだな。話に食い違いがあり過ぎる。まぁ、こんな所に依頼に来る奴が全てを正直に答えるとは思わねぇが。だが蛇の道は蛇。鬼の道は鬼さ。小賢しいドグマは確かに弱くはねぇ。下手に手を出して無限の怪を敵に回したらもっと上が出てくる。それに、その目が気に入った。」

杏南が写真の鋭い目を見る。

「戦士の目ですね。」

「あぁ。何処に売られたかは知らねぇが、好き放題されて、無限の怪から追われてるだろうに本気で鍛錬したんだろう。だが、泣きついてきたって形はそうだが、絶対にぶっ殺すって意志の強さ。写真だけじゃわからねぇだろうが、会って話してみると感じた。なんかほっとけなくなってな。」

「ふふ。所長にも少しは良心の欠片が残ってたんですね。」

「うるせぇ。ドグマ達は最近荒稼ぎして風俗街に繰り出してお祭り騒ぎらしい。だが、派手に無限の怪が毎日の様に来ると連妖だってほっとかねぇと踏んだのか、ひと月に一回にしてるらしい。こざかしいクソどもだ。それが来週だって聞いた。そこに踏み込むつもりだ。」

「私は必要ですか?」

「今のところいらねぇ。束になって掛かってきても殺す自信はある。むしろお前を守りながら戦う方が厄介だ。」

凪が灰皿に煙草を押し付けて立った。

「どこに?」

「どうせ今日は暇だ。24h飲ませてくれるわっさんのとこに行ってくる。」

「来週まで働かないなんて言わないでくださいよ。所長。それと、できればミレイちゃんにも会ってほしいんですが。」

「どっちもわーってるよ。お前こそ、朝帰りで昼前に出てって仕事じゃだめだぞ。体がもたねぇぞ。その雪女と会うまで。」


 二、ミリアムとの打ち合わせ

凪は店を出て酒を飲んで店に向かった。倭漢の店じゃない。依頼人から会いたいというLINEが来たからだ。歓楽街を出た大人しい喫茶店だった。

 「すぷーん。ここだよな。酒は出んのかな。」

凪が入ると猫耳でかわいい巨乳のメイド姿の店員が出てきた「いらっしゃいませ~♡」と笑顔で迎えてきて凪は「待ち合わせだ。あぁ。あの、奥の席のギターケースの女。この店酒は出る?」「あ、はい。お酒もございますよ。ごあんないいたしますねぇ。」凪はついて行った。入店してからもうわかったから目が合った。溢れ出る禍々しい妖気。凪を見てコーヒーカップに口をつけていた。凪が案内されて「一番強い酒を5人分。」「か、かしこまりましたぁ。」店員が去って行った。ミリアムは冷たく鋭い目で凪を見ていた。

「確認ってどういうこと? 依頼は受けてくれたんじゃ? 5000じゃ足りないっての?」

「いや、そんなわけじゃねぇ。単刀直入に言おうか。腕試しをしてぇ。」 凪は酒を飲んでミリアムは眉をひそめた。

「自分でヤレれば頼みはしないわ。ただ、無限の怪だけでも厄介なのに裏がいる事がわかったから、ヘルプが欲しいのよ。噂に聞いた。地獄の獄門界のコキュートスに安全だったはずの弟がいるって聞いた。」

 獄門界は霊界で悪の裁きを受けたものが堕とされる地獄。コキュートスは死ぬ寸前まで冷却して、ッ今度は違う部署で獄炎の中に放り込まれ冷熱の間をさまよい続ける地獄。ミリアムの弟が、そんな目に合ってるのか、執行役になってるのか。氷鬼なら適役だ。無限の怪が獄門界とつながりが欲しくてかどわかしたっておかしくない。凪はなんとなくだが予測がついた。

「午前中聞いた話じゃ、弟と妹は安全って事でナシつけたんじゃなかったのか? 無限の怪の野郎ども地獄の奴ら、獄門界でその弟は何を?」

「ドツいた元執行人の鬼を半殺しにしたらほざいた。やたら若造がコキュートスに入ってきたって。出生は絶対に言わなかったそうだけど、氷の術にすごく強い氷鬼だって。名前を聞いて弟だと分かった。ドグマのクソ野郎ども、平気で嘘つきやがった!」

ミリアムが机を叩いた。凪の中では杏南との第六感はほぼ当たったと思った。

「質問だ。弟の名前は? 俺だって鬼が支配する地獄にそれなりの顔が利く。昔働いてた事もあったからな。それと、そのギターケースは?」

「おまたせしましたぁ~♡」大量の酒が運ばれてきて凪好みの強い酒だ。「お前も飲むか?」「戦いの前に酒は飲まね。」凪は栓を空けてラッパ飲みした。

「弟の名前はガラハド。末っ子だ。あのクソどもがまたアタシの故郷にかどわかしに来たならぶっころすたりね。それとこんなかはギターなんかでね。ライフルだ。」

凪はこの北方の訛りに確信がどんどん強くなっていた。

「遠距離戦が得意か。近距離戦は?」

「体術は我流で学んだ。短剣とレイピアが得意だ。」

ミリアムがギターケースを担いで立った。伝票を掴もうとしたミリアムの手首を凪が掴んだ。

「気がはえぇな。俺はもうちょっと飲んでから店を出る。それまで準備でも地形の下見でもしてろ。いつでも狙ってこい。それで俺が死ねば他を当たってくれ。」

ミリアムは腕を払い「ふん。随分な自信ね。」そう言って出て行った。

 凪は1本飲み切って2本目を開けた。店員を呼んで伝票の金を払って「飲み切るか、状況が変わるまで飲ませてくれ。余ったら持ち帰りに来るから。」

 ミリアムが出て行ったあと、凪は考えながら防御結界を体表30㎝の全方位張った。どう出てくるか。ミリアムの実力によっては、恨み募る無限の怪への襲撃に同行も頼みたいと思った。それだけ恨みつのるまさに鬼の心。できれば自分の手で殺したいだろう。しかし、無限の怪や、獄門界の連中だって仕事と律されてはいるが、賄賂で動く外道もいる。

 時計を見た。30分。一流のスナイパーは入念な地形や角度選びをする。歓楽街よりも難易度は低いと思って凪はあの提案をした。逃げ道まで考えるなら時間も必要だが、最も懸念する事は標的を逃がす事。店を出た瞬間を狙うのが定石だが、あの禍々しい妖気と殺意に満ちた目。そんな立派な教育は受けていないであろう。スマホで杏南に送った。

「こっちの依頼人はガラハドだ。もしもミレイユ」

その瞬間。窓ガラスの割れる音と、凪の酒が1本とスマホが撃ち抜かれた。

店内は悲鳴に溢れた。凪は2発目を片手で受け止めた。結界で弱まってもこの威力。かなりの魔力を込めた魔弾。指や手のひらもしびれる程。凪は着弾の方向からミリアムがどこにいるか大体わかった。

「なかなかやってくれるじゃねぇか。気に入ったぜ。」

凪は残ったうちの1本と自前の酒を持って立った。「親父! 修理費とここのお代は「快決屋」につけてくれ。きっちり払う!」そう言って凪は店を出た。案の定第3弾を風きり音で判断し。手で受け止めた。さっき判断した場所と違う。スナイパーとしての訓練も受けているのか。

 凪は走力を上げる魔術で太刀を抜いて妖力を強めに発動して走っていく。感じた発射点はおそらく100~150m。スマホの画面も見えたんだろう。ミレイユとうった瞬間の1射目だった。嫌な予感もするが、どうしたものかと思う凪。まあぁ、近距離戦の腕を見てからだ。またスナイピングポイントを変えたんだろう。目指した方向と違う方向から魔弾が襲ってきた。だが、あの禍々しい妖気はよく臭う。場所はわかってもう近いと感じた。

 ミリアムは舌打ちして新たに装填した。しかし、スコープに映っていた凪の姿が闇に隠れ次の瞬間消えていた。「ちきしょう!」スナイピングポイントを更に変えた。その時、足が止まった。目の前に太刀を抜いたバンダナを巻いた太刀を持った凪がいた。

「いいセンスだ。我流なようで基本は抑えている。ただの妖怪程度じゃ1発目で死んでる。」

ミリアムはライフルを捨てて、短剣とレイピアを抜いた。長い事生きてきたが、見た事のない構え。これも我流だろう。だが理にかなっている。サバイバルナイフのような短剣は防御に徹し体に寄せ、レイピアは細いとはいえ長剣で軌道を読みずらい。攻撃と防御に優れた重量のある太刀同士のぶつかり合いじゃない。スピードのある完全な技巧派だし、体術も使うのであれば、レイピアを折られ短距離戦になっても短剣と体術でカバーするだろう。ただの道場生相手だったらこんな相手はごめんだろう。

 ミリアムが攻める。剣先が蛇の様に左右しながら凪の急所を襲ってくる。最初は避けていた。「成程な。強烈な筋力を必要としないレイピアで攻め、仕留められなければ短距離をか。」

「さしねじゃ!」

凪は感情的になったミリアムのレイピアを急所を外して受けて、体が貫かれた。驚いているのはミリアムだった。それも一瞬で、短剣で首を狙い、同時にみぞおちを膝で攻めてきた。凪は短剣も膝蹴りも静かな顔で受け止め、ミリアムは驚いて動けなかった。

「さしねじゃ か。北の言葉だな。気づいていたが、驚きはこの剣術と体術だ。そこらの妖怪やドグマ程度なら殺せるだろう。遠距離でも近距離でも。だが同時に悩ましい。お前に殺させるのはできそうだが、単体で動くバカはいないだろう。」

凪は手でレイピアを抜いて、ミリアムは距離を取った。

「さっすが悪鬼羅刹の伝説の鬼。オラなんてあいてになんえか。」

凪は悩んだ。露払いで済ませるか。それも、ミレイユやガラハドの話も必要になる。ガラハドがミレイユの弟だと確信できない以上、まずい。凪は思い切って聞いた。

「ここまでわかったんだ。全部話せ。契約違反なら金は要らねぇ。」

ミリアムはレイピアも短剣もしまって、少しして口を開いた。

「おさっすの通り、オラは氷の国の生まれ。雪女だぁ。両親と双子のミレイユと弟のガラハドの5人暮らしだったぁ。そしたらあんの腐れ外道どもが襲ってきやがった。おめさまになべったことはホントだ。おっかさんも親父も殺されて、オラを犠牲にミレイユとガラハドを助けろ言った。そのばで済んだと思ったらあのクソども。」

「氷の国を出たガラハドをしったってのか?」

「体も心もうりゃんせ。でも憎しみと、2人だけぶっじならいい思ってただぁ。でんも。」

「ガラハドが氷の国を出てお前を探しに出たってっ知ったのか。」

「あの馬鹿垂れ! まんまとあのクソどもに連れられて地獄に売られたぁ。その後、双子のミレイユまで。オラはおやっじやかかぁに合わせる顔もね! 地獄でガラハドに会えたら皆殺しにして魔界に戻らせたかったぁ。ほしたら」

「ミレイユまでって事か。成程な。」

少し考えて泣き崩れるミリアムに凪は言った。

「安心しろ。ミレイユは俺の秘書が守る。テメェにゃドグマをやらせてやる。露払いは任せろ。それから、ガラハドを獄門界から足抜けさせてやる。」

「んったら事! できるわけなかんべ! 無限の怪だけならまだしも獄門界に喧嘩売ったりしたら、オメさんとんでもねぇことに」

凪が虎柄のバンダナを脱いで、封を解いた。周りの森が樹木ごと抜けて空を舞うほどの強烈な妖力。ミリアムが腰を抜かした。自分が1なら凪は1000を超えると思った。

「俺を誰だと思ってる。悪鬼羅刹の伝説の鬼。どの世界でもやりたい放題の腐れ鬼だぜ。連妖だって本当はいて欲しくないだろうが、俺の勝手で済ませてもらってる。ずっと昔の職場にお礼参りがてら1匹の氷鬼かっさらってかかってくるなら、かかって来いってくれぇだ。」

凪は角に封呪をしてバンダナをし、太刀をおさめた。ミリアムは泣きながら微笑んだ。

「んったらつえぇ鬼っこはずめてみたで。よろしくおねげぇしますだ。」

「まぁ、細かい事は今晩まで待て。ミレイユとうちの秘書が会うし同席する事になる。双子ならツーカーだろ? 20時だ。それまでうちにいろ。」

ミリアムは頷いて、土下座して凪は鼻で笑った。

「勘違いすんな。俺は神じゃねぇ。頭上げてライフル片付けろ。一緒にうちまでいくぞ。」

「アツカムイ様みてねな。ごそんざいだぁ!」

 しばらくして、ミリアムは立って、ライフルを解体してギターケースに泣きじゃくりながら片付けていた。アツカムイは人間界のアイヌ族の最高神で妖怪にも天界にも名は知れている。

 夕方。凪とミリアムは快決屋まで戻って客間に通してミリアムを通して施錠魔術をした。

「ふん。快決屋ねぇ。迷惑屋の間違いじゃないかしら。」連妖は水鏡を見て独り言を見て言った。


 三、双子の再会と凪の恐喝

 「しかしやってくれたな。一番使ってたスマホぶっ壊しやがって。」

18時。凪が2つ目のスマホを持って杏南にLINEを送った。持ち帰った酒は冷蔵庫に入れて、いつもの酒を飲んでTVを観ていた。事務室の隣の扉からノックが聞こえた。

「どうした。便所か?」

「いえ、あと少しでミレイに会えると思うと緊張しちゃって。話すてもらえませんか。」

凪はTVを消して施錠魔術を解いた。酒を持って、入ると、正座してミリアムは土下座していた。

「遊女や風俗の経験もあんだろうが、俺にはやめてくれ。で、話ってのは? 泣き言か? きっちりした秘書だから現地集合って言っておいたが。その前に会いたいってか?」

「いえ。泣き言じゃありません。お願いはお願いですが。ここが破裂しそうなくらい緊張して。」

「まぁ。そんなもんかもな。俺は不幸中の幸いか、親も兄弟も知らねぇ孤児からの叩き上げだ。参考にならねぇと思うが。」

ミリアムは不思議そうに見た。ミリアムは落ち着いたのか標準語になっていた。

「凪様はそんな辛い過去を?」

「物心ついたころから、戦争孤児で心なんて初めからねぇ。冷静に冷徹に何人殺すか。それがアガリになる。だから励んだ。それでも師匠がいた。倭漢って俺と同じ鬼だ。詳しい事は教えてくれねぇが、俺と同じで傭兵から足洗って今は飲み屋やってる。俺の行きつけで、これから行くとこだ。はっきり言っておめぇの家族愛なんてわかんねぇから、目の前にする度に驚かされる。」

「凪様。私の様な事が今までも?」

凪は煙草に火を点けた。一息ついてどの話をするか考えた。

「何か月前だったかな。お前ぐらい貪欲な情報収集してたら知ってるかもしれねぇが、ミカっていうラングレンの実験体のガキが父親探しにここに来た。」

ミリアムは驚いていた。ラングレンの実験体で脱走?」

「あぁ。そん時ファルコンってよりにもよってラングレンの片腕がミカを逃がして、殿で逃がしたんだ。実施じゃねぇ。ミカは合成魔人だった。」

「なぜ? 父親じゃないじゃないですか。」

「俺もそう思ったよ。第一にファルコンが何でそんな暴挙に出たのか。詳しい話は端折るが、ラングレンの実験で基本的にはミカは魔人の部分はファルコンのものだったらしい。ラングレンは理屈の塊だからいらなくなったらゴミ箱か試金石。それが耐えられなくなったのか自責の念か。そうなった。血は繋がってないのに父親だってミカは言ってた。」

ミリアムは黙って顔を伏せた。煙草を吹かせて酒を飲んで口を開いた。

「親子や家族って何なんだろうな。血は繋がってなくても。男女が交配しなくても父親だと思い、ファルコンも娘だと思ってた。今どうしてるか知らねぇけどな。」

「凪様が魔王相手に喧嘩売ったっていうのは」

「口が悪ぃな。結果論としてはそうなるけどな。」

 凪が煙草を吹かし、酒を飲んで凪もミリアムも黙った。

「血がつながってれば許してくれて、元に戻れるんでしょうか。」

 数秒して、凪は鼻で笑って灰皿を取って捻り潰し、酒を飲んだ。

「バカじゃねぇのかテメェ。」

ミリアムが顔を上げた。不安に満ちた表情だった。

「血が直接つながってりゃ100%。つながってなくても何とかなる。そういう気持ちなら一気に興が醒めたぜ。ンなクソくだらない愚痴を聞いてほしかったのか?」

「いえ、心配で。心配で。」

凪は胡坐のまま酒を飲んだ。

「500年近くになるか。生きてきたが、世の中に100%はありえねぇ。今これから双子の妹に逢おうってときにテメェがビビってるなんざ興醒めも当然だろ。ことわりゃしねぇが、あの時の目が殺人鬼じゃねぇ。なんか俺がわからねぇつえぇ意思を感じた。だから受けたんだぜ。」

 凪は敢えて黙った。そうして少しして、ミリアムが凪の酒を奪ってかなり飲んだ。「ぷはぁー!」と言って依頼を受けた時の目になった。凪は顔には出さず、内心微笑んだ。

「すみませんでした! 凪様! オラも雪女の端くれ! 一応、双子でも姉のオラがミレイに情けねぇ事するなんて恥の中の恥じゃ!」

胸元から財布を放り投げてミリアムはまた凪の酒を飲んで言った。

「今日子の金ぜんぶつっかってくりゃんせ!」

凪はもうどこの方言かわからんぐらいだ。いろんな地域で仕込まれたからだろうが。

活き帰ったミリアムの顔に納得して、胸元に財布を入れて酒を取り戻して、立った。

「19時に出よう。ナシつけとくそれまでに妹の好きそうなもん考えて乱れ打ちして注文しろ。」

部屋を出て、凪は施錠魔術をかけてLINEを確認した。

「所長。少し早めに行きましょうか? ミレイちゃんも心の準備が。」

凪は鼻で笑い所長室の椅子に座って酒を飲んだ。

「心配すんな向こうから釘を刺されに来た。20時に来てくれりゃいい。」

凪がLINEで電話した。何回もコールがつながりバミンダが出た。

「なに? 今から宣戦布告?」

「ばーか。わっさんにお願いしてくれ。雪女の郷土料理。知ってるだけ用意しといてくれって。20時予約を杏南が入れてるはずだけど。」

「うん。アンちゃんからは聞いてる。わっさんに言っとくね。何人分。3人で言い俺にはいつもの酒の1升で。杏南に払わせるけどちゃんと今回も金は入るから。」

「わっさんに怒られたじゃん。3%は漢気見せて見直してくれたみたいだけど、アンちゃんのヒモ卒業しなきゃアタシは嫌いだからね!」

「頑張ってんだぜ。とりあえず、お願いね。あと。暖房も高めにしといたほうがいいかも。」

「はぁ!? まぁいいよ。アンちゃんからは雪女が連れだって聞いてるから。」

「よろしくね。」

 凪がスマホを切って、時計を見た。

「もうそんな時間か。今のうちション便いっとくか。」


 20時5分前。凪とミリアムが店の前に立った。

「少し後に来る。泣き言すんじゃねぇぞ。」

「えぇ。」

ミリアムと凪が入った。「らっしゃーい! あぁ、凪か。お嬢さん。あちらの奥のの個室にどうぞ。ご案内しますね。」

2人が奥に進んだ時バミンダが凪の着物の首を後ろから掴んだ。

「わっさんにお礼いいな。あと女泣かしたら許さないから。」

「前科者は警戒が怖いな。今日は大丈夫だよ。十中八九、泣くのは確実だろうが、俺が手を出したわけじゃねぇ。杏南にも確認してもいいよ。パワハラはしてねぇ。」

「パワハラじゃなくてクズだよ。」

 バミンダがミリアムを案内して、凪は倭漢に向かった。

「わっさん。わがまま言ってごめん。」

凪は頭を下げた。倭漢は調理を続けていた。

「言いたい事はバミンダに言っといた。おいたが過ぎたら俺が出る事だけだ。行きな。」。

奥のいつもの予約席。上座に凪が座る。十中八九双子の再会だ。動きやすい所がいいだろうという配慮だった。時間が迫り、5分前だったバミンダの声が「お待ち合わせでーす!」と聞こえた。ミリアムが腕を振るわせていた。もう酒を飲んでいる凪は言った。

「さっきの心構えはどうした。びびってんじゃねぇ。」

「・・・はい。」

足音とミリアムの心拍数は同じ様に上がっていく。凪の酒を一口もらって、ミリアムは座っていた。襖がノックされる「失礼いたします。お連れ様です。」

襖があいて杏南が「ミレイちゃん。」と言って、氷の国の雪女の衣装で入ってきて、ミリアムが立ち上がった。バミンダはすっと襖を閉めた。

「ミ、ミリアちゃん」

「おねぇちゃん!」

2人は泣きながら抱き合った。雪女の妖力制御が切れる程の感動だったんだろう部屋の気温が一気に下がった。凪は杏南に自分の対面に座る様にあごで支持し、杏南は正座して座った。

 双子の雪女は何度お互いの名を呼んだことか。

「元気だった? 心配してたのよ。ガラハドだけじゃなくてアンタまであの国を出るなんて。」

「でも! おねぇちゃんもガラハドも心配で心配で眠れない毎日だったんだよ!」

「んなごというでね。オメたづ残して死んでなるもんけ!」

「だども! だども!」

膝を崩して雪女が泣き続けた。ミリアムは依頼書の顔や凪との戦闘中と打って変わって、ミレイユそっくりの穏やかな目つきに変わっていた。

 凪が目元を押さえる杏南に自分の酒を注いで、アンナは飲んだ。

 しばらく、双子の姉妹が地元の言葉で話していた。凪も杏南もわからない言葉も多かった。次々持ってこられる料理や酒。凪も杏南もわからなかったが、2人は「んなとこでこんだばもんあるがいの?」「メワの汁に焼きもんどっちらけぜぇめんじゃ。」と言って喜んでいた。

 北に詳しくない2人は鮭の汁や白身としかわからないがミレイユとミリアムは焼き物や珍味らしき小鉢にに色めきだっていた。凪は流石わっさんと思って酒を飲んだ。酒も2人ともだいぶ進んで、北と南の妖怪は酒など水のように飲むと聞くがその通りだった。

 凪も杏南も水を差したくなくて、大人しくなるまで静かにのんで、つまんでいた。

 女の話は昔話も入るから、切るのが難しく、凪がスマホで杏南に「どうにかして本題に移せ」と送ったが「私も2人が何言ってるかわかりません。何処にどう入ればいいかと」LINEのメッセージで困っていた。もう仕方ない。凪は2人が疲れて休むか、酒もガンガン飲んでいるからどっちかが席を外すのを待つ事にした。確認の為杏南にLINEを送ったら「良策です」と帰ってきた。


 どのくらい経ったろう。雪女2人が3升目を頼んだ時、凪は酒を飲んで、どうしたもんか。これが戦闘だったら切り込んで壊滅させる。そんな表情を見たのか杏南から「所長。目が怖いです。落ち着いてください」と着て凪は酒を飲んだ。

「あぁ~じけぇなんばもおちつかん」

快決屋の2人でも何となくわかる言葉にミリアムが「こけっこけ」と言ってミレイユが席を立って礼儀正しくお辞儀して襖から出た。凪も杏南もやっと機会が来たと思った。かれこれ開始から2時間だ。ミリアムが北の酒を飲む。

「ミリアムさん。申し訳ございませんが、ガラハド様の事もございます。私も、所長からガラハド様の事を聞いて事態は理解しております。そろそろ。」

ミリアムは、猪口を置いて頭を下げた。

「すまねがす。ついつい。氷の国じゃ村社会なんでつい、お外の事は気にせず。もすわげながねばす。本題。必要ですよね。」

 水のように酒を飲んだ後とは思えない程冷静な顔になって一杯飲んだ。凪は一服して杏南に聞いた。杏南は軽い酒でもしっかりして答えた。

「ミレイユちゃんには、所長からのの情報、全部。だから、再開した瞬間あぁだったんでしょう。」ミリアムは恥ずかしそうにしていた。

「無粋なこと言うな。まぁ。ミレイユも一から十まで知ってるってことだな。」

「ガラハドさんの話や獄門界の話も。職業柄、すぐ起きちゃうから早めに落ち合ったんですが、驚いてました。」

「成程な。半分以上訳わかんねぇ話だったが、こっからは進みが早いって事か。」

凪がスマホを取って、電話した。3コールで出た。

「兄貴。異世界電話は警備も厳しいし、俺仕事中なんすけど。」

青鬼のコキュートスにいる知り合いだった。名をバンダムという。

「るせぇよ。LINEで送ったガラハドの件。何とかなりそうか?」

「兄貴がここに戻ってくるだけで獄長が大変でっせ。」

「心配すんな。吹っ飛ばしてやるよ。わっさんや姉御に比べりゃ屁みてぇなもんだ。デス様にキレられたら大変だけどよ。また連絡する。こっちにも都合があってな。」

凪が電話を切り、あっけにとられるミリアムと、呆れ顔の杏南。

 しばらくして凪が酒を飲んでいた時に襖が開いた。ミレイユが馬の空気を察して、キャバ嬢成程の笑顔をした。

「んながね? ねがすぎ」

「ねぇちゃん。まぁまぁ待ったつもりだ。杏南が俺をどう説明したが知らねぇが。少なくともこの4人に共通理解はできた。隅の隅からまでじゃねぇかもしれねぇけどな。」

 ミレイユが正座して視線を落とした。

「全部杏南から聞いたし、ミリアムからも聞いた。無限の怪、中でもドグマ。獄門界とガラハド。全部何とかしてやる。」

酒を飲んだ凪が言い」、双子の姉妹は凪を見た。

「報酬をもっとはずめとは言わねぇ。そろばんは杏南に相談しろ。だが気になる。今日、俺がお前のねぇちゃんの腕試しした時、我流にしてはかなり頭のきれるやり方だ。基本はどこで学んだか知らねぇが。それに比べて、第六感だが、お前もおそらくガラハドもアブソリュート0ぐらいの魔術しか使えねぇ。身を守るには十分かもしれねぇがカチコミには不十分。はっきり言ってな。」

「じゃあ。凪様が?」

「いいや? 半分たりねぇ。」

凪が煙草に火を点け、酒を飲んだ。じっとミレイユを見ている。杏南っもミリアムも黙った。

「お姉ちゃんが絶対ドグマは殺すって。私は口ではやめた方がいい。獄門界相手にしてガラハドに何かあったらって。」

「口で言ったら、か・・・。」

凪は煙を吹かしてミレイユの目を見ていた。数秒して、目を閉じ、凪は煙草を灰皿に押し付けた。

 すっと凪は酒を飲んで立ちあがった。

「目は口以上にものをいうってな。気に入ったぜ。2人の依頼受ける。そろばんはこの女狐に相談してくれ。ただ、条件がある。」

「条件って、なんですか?」 ミレイユの表情は真面目で、ミリアムが膝に拳を作った。

「俺からのお願いだ。ドグマの首。ミリアムに飛ばすことを許してくれ。アンタと一緒は少し危険が伴う。それに、アンタを殺しに手を染めたくねぇんだろ。俺とこの女が背負う。他の喧嘩売ってくる野郎は俺がぶっ殺す。本気でな。無法の魔界のいいところだ。」

凪は襖を開けて出て行った。雪女の双子の鳴き声を背後に凪は考えた。

「来週か。十分すぎるな。」

暖簾から出てきた凪にバミンダが気付いて言った。

「踏み倒しの凪! 今日もアンちゃんに!?」

「勘違いすんな。踏み倒しじゃねぇ。ツケだし。今日。これで足りなかったら杏南に言ってくれ。」凪は5000金をバミンダに渡して、ミリアムと一緒に行った時の喫茶店で残った酒を持って帰った。「わっさん! 今日はちょっとあっちの方で出来高払いだけど。」「ふん。気にしねぇよ。アンちゃんの返済とその金で余りが来るけど、調子に乗んなよ?」凪は店を去った。

 川沿いの歓楽街。土手に座って、風の店も水の店も乱立する中、凪は煙草を吸いながらスマホで電話をかけた。待ってる間、カフェで飼った酒を開栓して飲んだ。

「こんばんわ。何の御用でございましょうか?」

「おめぇらが来週くるってな。俺もたまには禁欲も晴らしてぇんだ。顔の広いテメェらだ一緒に乱痴気騒ぎしねぇか?狂ったぐれぇが魔界の流儀だろ。」

「いや、しかし。」

「無論ただ酒にありつこうなんて思ってねぇ。連妖も引きずり出した悶着起こしたのは事実だが、用心棒ぐらいはやってやるぜ。悪鬼羅刹の名は今でも伊達じゃねぇ。」

少し氏時間が過ぎて凪が酒を飲んだ。

「凪、なのか?」

声が変わった。ミロク。堕ちた神仏だ。無限の怪のNo.2。小賢しい連中らしいやり方だ。

「あぁ。この前で赤字はけりつけたらしいが、簡単に癖ってのは抜けねぇからな。部下から聞いたろ。俺も混ぜてくれよ。」

「まぁ。赤字になってもいいなら。しかも用心棒にもなってくれるなら頼みたいくらいですよ。」

「うちの女狐のガミガミは慣れたもんだ。まじで。飲んだ勢いもあるが犯りてぇしやりたい放題も我慢があるってもんさ。」

ミロクはしばらく黙り、凪は酒を飲んで黙っていた。

「なげぇな。入れてくれんのか?だめか?」

しびれを切らしたように言った凪。聞こえるように酒が喉を通る音を聞かせて息を吐いた賭けだった。慎重になるのもならず者の無限の怪にしては妙。やはり、バックの獄門か。何せ、縦割り上は冥界のデスの領域にもかかるからな。

「わかりました。来週の火曜18時からの予定です。旦那は現地で。先に女買っててもいいですし。」凪は心にもないことをつらつらという。

「お願いできたらだけどよぉ? 乱交パーティーしてぇな。1対1はなんだが飽きた。」

「承知しましたよ。うちは大体そんなもんですから予定の時間に。」

「あいよ。」

凪がスマホをきって酒を飲んで川を見ていた。

「くそったれの集まりに乱入か。1対1のやり取りもいつ以来か熱くなるが。今回はあの小娘に・・・ん? ミリアムって何歳だったか。まぁどうでもいい。」

 凪は杏南にLINEでメッセージを送って無限の怪が来る日時を送った。


 四、襲撃の日

 当日まで雪女の姉妹と事務所で話合った。妹のミレイユがどうしてもドグマを殺したいと。その為に周りにばれない様に杏南に重厚な結界を張ってもらい力試しをした。

結果、ミリアムも視線を避ける程、凪の半分も力を出していない状態で相手にすらならない。

「お前の呪氷結界。相手を凍り付かせ妖力まで奪う。それは認めてやる。だが、他に攻撃手段と言えば氷の粒、妖気はこもっていたが数回氷の国に攻め入った無限の怪に対抗できるとでも?あのブリザードの中を侵攻してくるやつらに?」

ミレイユは苦悶の表情をした。

「はっきり言って邪魔だ。お前の姉の遠距離攻撃や我流とはいえ、いや、我流だからこそ考えられたレイピアと短剣、体術の技の方がドグマを殺せる。姉に任せろ。仇討ちは姉に任せろ。」

「嫌です!私の両親を殺して弟を地獄送りにした」

「感情論は結構だ。でも現実がともわねぇ事を俺達は犬死という。テメェは犬か?」

ミレイユは悔し身に顔を歪めた。凪は一応考えた。

「所長。提案があります。」 杏南の言葉に3人が振り向いた。

「所長はミレイちゃんの呪氷結界に評価なさいました。それだけで混乱する要素となりえます。距離を取る必要になりますが、私がミレイちゃんを守って実行できませんでしょうか。」

凪は目をつむり、片目で時計を見た指定自国の30分前に女買っとく余裕を見せる演技。まだ余裕があるが、ここでの論議にそこまで余裕はない。腕を組んで考えた。

「ミレイユ。テメェはねぇちゃんに任せたくなくて一緒にドグマ殺してぇのか?それはなにがなんでもゆずれねぇか?」

ミレイユは力不足を冷静に判断して悔し気にしている。凪はその目を見て少し考えて言った。

「テメェはどうしてもドグマを自分の手で殺してぇか。でも、ドグマ以外は俺が全員ぶっ殺すが、とどめにミリアムは信頼に足るがお前じゃ心配だ。」

「姉と一緒に殺したいです!」

ミリアムが近寄った時、凪が言った。

「わかった。サービスしてやる。テメェの呪氷結界で弱ったドグマを殺す時に納得いく殺し方をしろ。姉妹でな。いざと言う時まで杏南の魔法防御に守られろ。最後の最後で姉妹で殺せ。さっきも言った通り、獄門界だろうが無限の怪だろうが、露払いは俺がやる。もう時間がねぇ。準備でも儀式でもしろ。」凪は酒を飲んで、雪女の双子が妖力をおさめたのを確認してから杏南は結界を解いた。客間を開けた状態で、ミリアムとミレイユは独特の言葉で近いの恐ろしいほど寒い妖気を発した。凪が「寒みぃ。」と言って「所長。生まれが違うんですから」とちゃっかりコートの中に張りまくった杏南が微笑んだ。「おめぇらとは育った時代がちげぇんだよ。」


 四、ドグマへの決着 

 4人が快決屋をでた。

前衛は凪、後ろに杏南後ろに双子が並んだ。近くに来た時、凪にも杏南にも無限の怪や獄門界の下っ端の鬼が見えた。100mは離れているが凪も杏南も2人と止めた。

「ミリアム。あれだけの腕前だ。俺が興じている間狙撃して、暴れ始めたら来い。それが合図でミレイユが呪氷結界を張る。杏南は俺からの受信と守りだな。確認いいな?」

「「「はい」」」

3人が頷いて歓楽街の中でも高価な遊郭に入っていく凪。

 電話の相手。ミロクの手下が出てきた。

「旦那。早いですね。たまってんですかい?あんな美女はべらせてるのに。」

「杏南の事か?そういうんじゃねぇんだよ。で?いい女と乱痴気はできんのか?」

「えぇ。1対1は序の口。薬の入ったいい女ぞろいっすよ。」

格式高い遊郭だ。こんなところでヤク漬けの乱痴気騒ぎとは。妙な感じだな。

「お腰のものを」 現代には珍しい風習に凪は戸惑ったが、負ける気はしなかった。太刀と銃を渡して中に入って、連れられた部屋は3階で回りより狙いやすい。襖を開けるといい女がかしこまっていた。美形で狼の尾の女だった。

「お足をお運びありがたく。蓮華と申します。」 「あぁ。そうか。」

どっかりと凪は座って蓮華が酒を注いだ。一気飲みして、吐き捨てて、自前の酒を飲んだ。

「お口に合いませんでしたか?」

「いいや。慣れた酒の方が調子が出る。百薬の長だからよ。それより、ツレまで一発犯りてぇが、いつになったら来るんだ?」

「えぇ。お待ち合わせの方はその・・・」

言いずらそうな遊女が視線をそらした。その瞬間、感じた妖気を感じた。轟音。聞こえた方向は高さは同じ。だが、くねり曲がった廊下の先の大広間の方だった。凪は遊女を腹に一発入れて気絶させた後、その方向に歩いた。轟音と悲鳴が聞こえる。ミリアムの狙撃だろう。視界の端にミリアムの魔弾が見えた瞬間、場所を特定した。この遊郭で一番デカいところだ。

 呪氷結界が張られた。クソ寒いし妖力も吸われるが、封印は解かずにいたが、バンダナを外した凪にとっては何でもない。蚊に血を吸われるくらいのもんだった。武器も持たず、廊下に出てきた荒くれ者がでてきて轟音が無くなった。

「なんだテメェ!」「仲間か!」

雑魚なんてどうでもいい。轟音が無くなったのも含めて裸の妖怪の酒池肉林にため息をついて、無限の怪の幹部、無論ドグマもいるし、獄門界の下っ端もいた。凪は肉体を強化して部屋に入った。雑魚は人殴りで頭ごと消し飛び、ずんずん進んだ。

「ほぉ。俺は太刀も銃も預けられたがお前らはO.Kか。」

拳を鳴らして凪は妖気を強めた。相手の武器は銃や斧、様々だ。

「や!やれぇ!」

叫んだのは赤い虎。獄門界の下っ端で記憶がある。名前など忘れたが。それと無限の怪は勢ぞろいだ。赤虎は随分出世したようだ。

 手下どもの武器を手で掴み、凪は嫌味たっぷりにその妖怪の持つ武器で真っ二つ。三節昆なら体中へこませて捨てた。妖術にはもっと強い同種の妖術で圧倒して殺した。衣服すら傷つかない凪に退き下がる連中無限の怪の幹部面倒は嫌いだし、お膳立ては早めの方がいいと思い、リーダー格の蛇の妖怪の首を掴んで引きちぎった。その光景に驚いた間に逃げる豹の魔獣の前に回り、デコピンで脳を弾き飛ばし、羽を生やした魔獣の両羽を掴んで引きちぎり、叫び声を「うるせぇ」と言って握りつぶし、絶命した。残るは雑魚とドグマと獄門界の下っ端の鬼だ。

「あ、あんた。伝説の」

「テメェに自己紹介する筋合いはねぇな。黙って見てろ。終わって「消えろ」ってったら生かしておいてやる。俺が用があるのはこっちでな。」

凪が筋骨隆々で妖気を出してドグマに迫る。

「いけ! なんでもいいから殺せ!!!」

ドグマも他も武器を持って襲ってきた。ドグマはとりあえず半殺しだ。腹に一発入れたら紫の血を吐いた。その後、ミリアムに見せた最後の封印ではない、バンダナで押さえている妖力の魔炎で消し去った。中には魔炎対策ができる利巧もいる様で「ほぉ」といい、凄まじい出力の電気で焼失させた。ドグマも退きながら言った。

「俺、アンタに喧嘩なんて」

「まぁな。俺も若い頃お前よりあくどい事やってた。今更禊じゃねぇよ。」

「じゃあ!」

 呪氷結界が強くなるにつれ、ドグマの視線が移った瞬間、凪が背後に気配を感じ、両手で、ドグマ以外の獄門界の下っ端の鬼も焼き殺した。ドグマは恐怖に表情が引きつっていた。そこには雪女の双子と杏南がいた。

「アンタがアタシらの両親殺したの死んでも忘れるか。」

ミリアムが担当を手に妖力をけた外れに上げた。怒りに任せたのか、呪氷結界だけじゃなく氷の槍を空気中に作り出すミレイユもいた。

「あ、あの売ったガキ!?」

「忘れたのかい。アタシは一生忘れないよ。母ちゃんっも父ちゃんも殺して、テメェのきたねぇ薄ら笑いからの地獄の生活! テメェだけはアタシが死ぬ前にぶっ殺す!!」

「アタシだってそうよ!でてったガラハドまで攫って!殺さなきゃ気が済まない!

杏南が凍える寒さに、凪も防御結界無しじゃ凍死する寒さだろう。目の前のドグマが凍り付き始めて凍えている。

「凍って簡単に死ねると思うなよ!!」

ミリアムが担当でドグマの胸に短剣を突き立て、ドグマは血を吐いた。それが出た瞬間凍るほどの絶対零度に近い温度でミレイユがとどめを刺した。

 2人が死を確信して術を解いたが、杏南が守った遊女以外は彫刻の様に凍り付いた。凪は手で殴り、ドグマ以外を、解凍で再生する事ないように全員殴り壊した。凪は振り向く。

「どうする。俺がやるのは不満だろ?」

凪は襖にいって、杏南は防御魔法で遊女を連れて出て行かせた。雪女の2人が力を共鳴させ、仰向けに醜く固まったドグマを、ミリアムのライフルで近距離で絶対零度の弾を何発も打ち込んで粉々にした。2人でドグマの頭を踏みつぶして終わった。

 遊郭は大混乱。凪は武器を回収して3人を見た。

「行くぞ。警察に捕まると厄介だ。」

4人は去って、快決屋に屋根越しに向かった。


 五、凪が獄門界に

 「杏南。こいつらしっかり守れよ。」

朝、凪は酒を飲んで振り返った。

「お任せください! ミリアムさんとミレイユちゃんを守ります!」


 凪は酒を飲んで歓楽街を出た。外れの森の入り口に倭漢が岩に腰かけていた。凪は酒を飲んで、倭漢の前で腰に酒を吊るした。

 「テメェが地獄に戻るなんてな。あんとき、こんな所絶対戻らないって啖呵きってでたのにな。」倭漢も酒を飲んで正対している。凪は膝をついた。

「わっさん。申し訳ねぇ。嘘つく格好になった。だけど、獄門界にゃ、わっさん並みの鬼もいる。地獄の中でも冥界の絶対王のデスの管轄だ。」

「デスを殺そうなんて夢物語じゃねぇ。ガラハドって氷鬼をこっちに拉致してぇんだ。」

「きいたよ。ま、俺だってデスにゃかてねぇ。」

「わっさんは悪鬼羅刹の鬼の中でも最凶最悪の中でも最強。弱気な事言わねぇでくだせぇよ。」

倭漢は酒を飲んで、陶器の瓶を放り投げた。凪はバンダナを解いて、酒を飲んだ。鬼の常識。何も隠す事なく、契りを交わす儀式だ。凪は数歩進んで、倭漢に酒を膝をついて渡した。

「その前に試してぇ。あいつら殺してみろ。」

凪がビンビンに感じていた妖気。ドグマを殺されて四天王の残り3体と部下たちがたくさんだ。

「わっさん。俺がそろばんで裏切るとでも?」

「あんときのテメェならな。」

 凪は進み、二角の封を解いて恐ろしい妖気を出した。


「所長。」ミリアムもミレイユも感じた。自分達じゃ絶対敵わない恐ろしい妖気。杏南は心配そうに妖気の方角を見ていた。


 「ドグマを殺してくれた様だな。助っ人まで頼んで俺達に殺されに来たか?」

無限の怪のリーダー。カイレンがにやにやしていた。凪は妖力を強くして鼻で笑った。

「わっさんは見届け人だ。おめえらなんて俺1人で十分だ。」

封を解いた妖気で獄炎を呼び出し、片手に魔力を込めた雷撃をまとった。カイエンも他3人、部下達も恐れた。桁が違う。ファルコンとミカの時に使った獄炎とまた桁が違う上に、雷撃も凄まじい妖気を込めている。

「ふん。全盛期より衰えたか。遊び過ぎだ。凪坊。」

倭漢が煙草を吹かして岩に座って酒を飲んだ。

「誰でもいい。とっととかかってこい。腰抜けの貴様らだろう。獄門界に金払ってボディガードでも雇ったか?」

「へへ。地獄の沙汰も金次第ってな! 源内の兄貴!!」

カイエンが呼ぶと、偃月刀を持ったバカでかい黒鬼。体長と同じぐらいの偃月刀にとんでもない妖気を込めて酒を飲みながら、自分より小さい凪を見て鼻で笑った。

「んだぁ? お前見覚えがあんなぁ。あの時のガキか。何百年ぶりか。それに。倭漢までとは」

次の瞬間、黒鬼が偃月刀で防御すると同時に、偃月刀の刃は飛び、黒鬼の首が飛んで、無限の怪の真ん中に凪は太刀を抜いた状態で立っていた。倭漢以外全員が驚いた。

「ま、まさか。獄門長の源内さんを、一刀で!?」

カイエンも他3人の四天王も驚いた。

「随分衰えたようだな。俺も人の事は言えねぇが。ガキの頃わっさんが逃がしてくれなかったら死んでたあの源内がこのていたらくじゃな。さぁ。来いよ。皆殺しにして俺は地獄に行く。安心しろここでわっさんの力借りる様なら切腹してやるよ。」

「く、クソォ!! かかれぇ! 絶対殺せ!!」

それぞれの妖怪が全力で襲い掛かる。倭漢は黙って岩に座って酒を飲んでいた。

 妖狐の能力の1つ。妖気から状況を映像化する能力をミリアムもミレイユも見て唖然とした。

「これが・・・悪鬼羅刹の凪。」

「昨日まで杏南に穏やかだったのに。しかも素手で。」

3人が見ている凪の戦い方はまさに鬼。太刀をしまい、炎と雷撃を四肢にまとわせて100人近い高レベルの妖怪の全力を受け止め、容赦なく頭を吹き飛ばしたり、体を両断し、息があると判断すれば魔族の心臓と頭を踏みつぶす。種族によっては頭や心臓以外に無限の命を持つ為に核を持つ者もいるせいか、獄炎で影以外残さず焼き尽くす。逃げ出す部下は魔雷の結界で囲み、魔雷の手を握ると凝縮して全員の妖怪を焼き焦がした。とどめに轟雷を落として、まさに鬼の目。武器を使わず無限の怪の残党と3人を睨んだ。倭漢は酒を飲んで鼻で笑ったが、他全員は恐怖におびえていた。

「い、いいのか? このボタン押せばガラハドは

カイエンの言葉の瞬間スイッチとカイエンの腕が吹き飛んだ。凪が魔雷を発し壊した。

「いいたい事はそれだけか? 確かにガキの頃は源内は怖くてわっさんに助けてもらった。ここ何十年も怠けてこの体たらくだが、源内はマジだったが、テメェらなんてクソゴミだな。」

「何言ってんだ。なまりすぎだぜ。凪。」倭漢が酒を飲んだ。

「クソ! 今日は勘弁してやる! 次は」

グレン。四天王の1人の頭を大きくした掌で凪が掴んで持ち上げた。他全員が退いた。

「次? わっさんの前で恥ずかしい限りだが。おめぇに次はねぇよ。」

獄炎でグレンの頭を握りつぶし、体を燃やした。視界の範囲の妖怪全てに獄炎や魔雷を飛ばして殺した凪。源内も殺し、大量の妖怪を殺しても有り余る恐ろしい妖力に、カイエンとパイバズが部下を先行させたが、みんな小便を漏らして武器も震えて持てなかった。

「さぁ。道は2つだ。テメェらが全員死ぬ。そしてわっさんに力を借りて、獄門界からガラハドを買い取る。あとは単純にテメェらが死ぬ。ここでな」

獄炎の嵐と魔雷をミックスした凪が誰1人逃げられない様に結界を張った。

「それって俺達に

「選択肢なんてある訳ねぇだろ。」

立ち上がる雷炎。阿鼻驚嘆の叫び声がやんだ後、凪は妖力を解いた。凪以外、死体すら何もなかった。


 その様子を見ていた雪女の双子は腰を抜かした。

「と、とでもなお人いや、鬼に願っちまっただ。」

「ねぇちゃん? だ、大丈夫だよ。オラも漏れそうなくらいふまだらおっけねぇ。」

杏南は画像を消した。2人を恐喝するつもりじゃないし、封印を解いた凪の本気を見た杏南も背筋が凍るほど怖かった。「ミレイちゃんトイレはこっち。お茶淹れるからミリアムさんは座って。」

 ミリアムは震えながらソファに座った。

「倭漢さんは所長の師匠。多分、所長は地獄の果ての絶対王デスを用心したから。」

ミリアムは震えながら座った。自分と戦った時凪はどれだけ手を抜いていたんだ。

「所長。」杏南は台所に行って茶を淹れた。

 

 無限の怪を殲滅した凪が封印して、バンダナをして倭漢の前に跪いた。

「なんだそりゃ。」

「聞こえてましたよ。師匠。長い事鍛錬しなかった。恥ずかしいです。」

倭漢は岩から立って酒を飲んだ。

「クソくだらねぇこと言ってんじゃねぇ。金で買われる程落ちぶれた獄門界。いい意味じゃガラハドも金で買える。だが元獄長としてはふんどし締めなおさせねぇとな。あれ持ってこい。」

凪は一礼して、源内の首と偃月刀の切れ端を持ってきた。その間に、倭漢は獄門界のゲートを開き2人で入った。


 デスが魔鏡を見て肘をついていた。

「いかがなさいますか。デス様。」

冥界の絶対王デスに紫の長髪の男、名はファイスが聞いた。デスの秘書で倭漢の同期でもある。

「ふん。怠惰な源内の所は腐りきっていた。賄賂でまかり通る。裁きを持って罪人を送ってくる閻魔にも言い訳に面倒な所だった。すっきりした半分、面倒だな。だが。」

 椅子から巨体を立ち上げたデス。普通の人間と変わらないファイスは跪いた。

「面倒はこれ以上増やしたくない。ガラハドとかいうのは確か?」

「ただのコキュートスの氷鬼の執行人です。特筆する成果はない。他は利きます。」

「ふん。そうか。だったらただの従業員だ。倭漢の好きにさせろ。」

「かしこまりました。連れの凪は?」

「脱走兵に興味などない。くだらない事を言うな。ただ。お前が行け。」

「かしこまりました。」ファイスがデスの部屋を出た。

「鬼の目にも涙か。2匹もそろって。」 デスが呟いた。


 倭漢が冥界に凪を連れて転送した。

凪にとっては獄門界は脱走兵。倭館はそれを助けた元獄長。凪は緊張して冷や汗をかいて倭漢が「いくぞ。」というまで体が動かなかった。やっと動いて、倭漢の後ろについて行き、いくつもの地獄の道の真ん中で倭漢は立ち止まった。

「たのもう!!!!」

倭漢は堂々としていた。凪は心を落ち着けて立って凛とした表情だった。他の、獄門界よりも厳しい見張りの鬼も出てきたが、「やめよ!」と声がした。凪も倭漢も聞き覚えのある声。集まってきた鬼は立ち止まった。獄門界の大門から、一角の紫髪の鬼が1人で出てきた。

「ファイス。久しぶりだな。」

「ふ。お互い様だ悪鬼羅刹の鬼殺しとまで言われた貴様が脱走兵を連れて。おい。」

凪は身構えたが低俗の守備兵2人が鬼を連れてきた。氷鬼、写真からガラハドだと分かった。

「デス様が面倒でどうでもいい仕事は1つでも片づけたいとな。「やります」という割には嫌々仕事をするから買ってやったがいらなくなったとの事だ。地獄の沙汰も金次第という。

 ほれ。このいらないのをこの金で引き取れ。源内の阿呆が集めたものだ。3万金。あとは他に使え。凪。よくもここに顔を出せたものだ。倭漢無しならもう少し弾んだがな。」

ファイスはそれ以上何も言わず、ガラハドと3万金を置いて獄門界に戻った。

「へそ曲がりのクソ野郎が。まぁいい。長居は無用だ帰ろうぜ。」

倭漢が金を抱えて、凪はガラハドを抱えて歩き、「おもさげながんす。」「礼ならねぇちゃん達に言いな。」ガラハドは泣いて、倭漢の開いたゲートに入って魔界に戻った。


 六、再開

 快決屋に戻った倭漢と凪、ガラハド。ミリアムとミレイユはガラハドに抱き着いて3姉弟は泣いて抱き着いた。アイヌ語かもわからない言葉で3人は抱きしめあって泣き続けた。杏南ももらい泣きし、凪も落ち着いてみていた。

「良かったな。デス様の温情で。普通なら地獄からの足抜けなんて死罪だぜ。」

「えぇ。わっさんのおかげですよ。俺だけじゃ通りませんよ。十中八九。」

「これだけツケにしといてやる。」

倭漢が1000金とって快決屋を出た。

「倭漢様!ありがとうございました!」

杏南が頭を下げ、凪も頭を下げた。

「おもさげながんす!!」「オラたちのてぇにまっことかたじけね!」「カムイさまよりえりゃあ!」扉を開けた倭漢が耳をほじった。

「北の方でもいろいろ混じってわかんねぇな。何言ってんだ。標準語勉強したらマイスターに来い。1杯はサービスしてやる。」そう言って倭漢は店を出た。180度正座を返して3人が凪と杏南に土下座した。相変わらずわからない方言だった。

「いいよ。まさかのミリアムさんの4倍ちょっとの報酬があったし。5000金は3人で使いなよ。」

杏南もそれにはにっこりしていた。金額じゃない単純な感動だった。

「カムイ様の権化じゃ! 一生ぬきませんべ!」

ミリアムの言う事は正確にはわからなかったが、凪と杏南はにっこり笑って、何度も何度も頭を下げて快決屋を出て行った。


 笑顔で3人を見送った2人は事務室に戻った。

「何言ってるかわかったか?」

「いいえ。でも、あの顔見せられたら言いたい事がわからない方が無粋ですよ。」

「ふふ。そうだな。わっさんもあんなはした金で。全部で3万金もあったのに。」

「これでキャバのシフトも減らせるし、念願のアシスタントも雇えるかも。」

「俺の眼鏡にかなわなかったら雇わねぇぞ。」

「所長! 私だってこの前のミカちゃんやファルコン、あの3人と同じ命ですよ! 妖狐差別ですか!? セクハラパワハラですか!? もういい加減訴えますよ!」

「ハラスメントじゃねぇよ。俺の流儀だよ。」

「そういえば丸く収まると思ったら大間違いですよ!!」

ピシャリと襖を閉めて秘書室にずかずかと向かう杏南。

「流儀を曲げたら、俺がわっさんに殺されかねねぇぜ。」

凪が煙草に火を点けて窓から空を見た。

「今日も晴天だな。」

                                                                                 #2おしまい

1話目は魔王の1人が引き金となった事件を、凪と杏南が怪決した事件だった。

魔界には最下層絶対王が存在するが、階層や領域によって魔王。人間の世界で言えば国王に当たる勢力が乱立している。無法、弱肉強食が規則の魔界において、快決屋は任務をこなした。

 血と血が交わり合う事が親子ではない。

お互いを親子と認め、欲する事が魔界でも成り立つ。

なぜか?

 無法の人間的感傷でもある。

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