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親ガチャ失敗の僕は、多重人格の束東さんでガチャをする【リテイク版】  作者: 骨ステイ千羽和
【EPISODE 1】 AKANE STRIKES!
10/12

世界にたった一つだけの花に価値はないらしい

 楽しい夢を見ていた気がする。

 可愛い少女と俺が楽しそうに出かけている夢。


 恋人と呼ぶにはまだ何かが足りなくて、それでも恋人のように振る舞っているおかしな夢だった。


 しかし、目覚めれば何てことはない。

 ああ、夢だったんだなと思えば、どんなに楽しかろうと、変であろうと終わってしまったことに余韻を感じながらも忘れ去ってしまえるのだから。


 そして、ここには何も残らない。


 いつからだったか。

 この部屋に俺がどうして入っているのか理由はさっぱり分からないが、気がつけば狭い部屋の中にいた。


 ここは刑務所の中なのだろうか。

 目の前には鉄格子があって、俺はまるで囚人のように囚われている。

 鉄格子の先は闇が広がっていて何も見えない。


 ここは本当に独房なのか?


 普通の囚人でさえ飯だったり、トイレだったり、毎日ではないのだろうけどシャワーだったりできたりするんだろう?


 俺のいる部屋には何も備え付けられていなかった。

 窓もなく、寝床もなく、トイレもなく、だた鉄格子に仕切られた小部屋。


 見張る必要がないのか、誰もやってくる気配はない。

 水も食料も与えられぬまま、ただ俺は『そこ』に居続けた。


 痩せ細ることもなく、生理現象が起きることもなく、ただ『そこ』にいた。


 時間なんて分からない。

 時計がないのだから。


 そう、だから、ただ無為に過ごした。


 こんなの死んでるのと一緒じゃんと思っても、俺の意思で死ぬことはできないらしい。


 何か不思議な事が起きているなくらいにしか感じなくなって時間は更に過ぎた。


 もしかしたら俺は幻覚を見ているのかもしれない。


 それは最後に見る幻想?


 永遠に覚めない夢に抱かれながら死ぬのだろうか?


 そこに一抹の不安もないが、建物が揺れた事に僕は驚いた。

 部屋の壁が不自然に崩れて穴を作る。

 出ていきたくもないのに穴から声が聴こえた。


『あーあ、何でアンタなんか産んじゃったんだろうね?』


 その答えを俺がもっていると本気で思っているように、彼女は無邪気に聞いてきた。

 そして俺の答えなんて待つつもりもなくて、彼女はずっと喋り続けている。


『ああ、アイツが妊娠した姿の私に興奮するからってだけだったわ! その姿の私を乱暴に扱って中絶するかしないかって、ギャンブル始めちゃってさ! 私、逆張りで生き残るって賭けたら本当にアンタしぶとくってさ!』


 彼女は楽しそうに笑っている。


『大勝ちしたんなら、その分だけ面倒見てやればってなったんだっけ! あははははっ! でも、もうつまんないから辞めたの〜! 家にいるなら、私の代わりに家事はやりなさいよー! それすら出来なかったらアンタ本当に産まれてきた価値無しだからねー! あははははっ! じゃ、アイツとこれから会って楽しい時間を過ごすから邪魔しないでねー!』


『うん、わかった! お母さんの邪魔はしないよ!』


 にこやかに返事をした俺は頬を叩かれた。


『気持ち悪いからその呼び方やめてくれる?』


『ご、ごめんなさい……』


『気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い! 不快だから今日はもうその顔を見せんなよ! 見せたらまたアンタの友達を一人殺すかんね!?』


『ひぃ! それは……やめてよ……』


『だったらさっさと消えろ!』


『いづぁ!』


 蹴り飛ばされて、俺は逃げ出したんだ。


 逃げて、逃げて、逃げ出した果てがここなのか?


 僕は耳を塞いで蹲る。

 ここにいれば怒られないのならば、そうするべきなのだろう。

 だから俺は穴を覗くこともなければ、どうやってここから出ようなんて考えもしない。

 助かろうなんて以ての外だ。


 手を差し伸べてくれた人は皆、死んだ。


 良い人は早死して、悪い人は長生きするのが世の中ならば、世界は悪者ばかりが蔓延っているんだろう。


 誰も俺なんて助けてくれやしない。

 親も俺に死んでほしいと思っているみたいだし、本当に何で産まれてきてしまったんだろう?


 俺に生きる意味ってあったのかな?


 まあ、あるはずないか……。


 そう思った時に再び建物が揺れた。

 先程の穴の空いた壁とは反対の壁に亀裂が走る。


 隙間からは光が漏れている。


 ピシピシと音を立てて亀裂は広がって、爆発音と共に壁が砕け散る。


 まっ白すぎて見えないそこから、手が伸びてきた。


『助けに来たぜ!』


 何故? 誰が? 誰を? どうして? どうやって?


 それを掴んだら俺は助かるのだろうか?


 俺も手を伸ばす。

 指先はもう触れるところまで来ている。

 しかし光に包まれた手は遠ざかっていく。


『まだダメ……』


 顔の見えない女の子が現れて足首を掴み、俺を闇の世界に引き摺り込んでいく。


『まだ助かっちゃダメ……』


 どうしてと思う間もなく俺は漆黒の闇に堕ちていった。

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