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雪の日の思い出

作者: 紅鋼

皆さんの小学生時代を思い出しながらご覧下さい。

『かーえーしーて!』

『やーだね〜〜!』


またいつもの奴に筆箱を取られてしまった。


ある日のことでした。

外はしんしんと雪が降っていて、凍えるほど寒いのに、6年生のとある教室の中では、子供たちが騒がしく休み時間を過ごしていました。


『返してったら!』

『取れるもんなら取ってみろよ〜!』


この女の子、自分よりも背の高い男の子に筆箱をはじめ色々な持ち物を取られては、隠されるなどして、いじめられていました。


お道具箱の中身も半分くらいになってしまって、それでも親には言えませんでした。


『へい!パス!』

『よし!いっけ〜!』


背の高い男の子から、筆箱は宙を舞い、クラスのガキ大将の手に渡りました。


…と思ったら。


『あっっ!やべ』


筆箱はガキ大将の手をすり抜け、あろうことかたまたま空いていた窓から、真っ逆さまに

落ちてしまいました。


『あああ〜…』


たまたま窓際でお喋りをしていた女の子たちがすぐに気づきました。


『あ!幸人(ゆきと)真冬(まふゆ)ちゃんの筆箱投げた!い〜けないんだいけないんだ!せーんせいに言っちゃ〜お!』


『はぁっ!?俺なんもしらねぇし!大将が悪いんだろ!!』

『お前が投げるのヘタクソだから!!』


そこに呼ばれた先生が教室に入ってきて

『こら!人の物を雑に扱うことがいけないんでしょ!2人とも謝りなさい!』


と一括しました。


それでも不貞腐れた幸人と大将、軽蔑の目でこっちを見てくるクラスの女の子たち。


先生だってさ、もうどうでもいいと思ってる

んでしょ。


『真冬ちゃん!?』


ーあの筆箱だけは。

真冬は教室から一目散に走って出ていき、階段を駆け下りました。


校庭に出て、自分の教室の下辺りまで来ました。辺りはもう真っ白。その反対に手先は真っ赤になって寒くて仕方がありませんでした。

それでも、落とされた筆箱を必死に探しました。


真冬がこれほどまで一生懸命探している理由…

『……幸人、忘れちゃったかな』



実は、真冬と幸人は幼なじみで、家が近かったこともあり小さい頃から兄弟のように遊んでいました。



『まふゆ、これ、やるよ』

2人が7歳くらいの頃。

幸人は真冬にあるものをプレゼントしました。


『なあに?』

『ぱわー…なんとか、だって。かあちゃんがいってた』

『パワーストーン?』

『そう、それそれ』


真冬の手の平には、宇宙がそのまま小さくなったような群青色の小さな石が乗っていました。ため息が出るほど美しいそれを見た真冬の目はキラキラ輝いていました。


『きれい…!』

『あの、ゆーじょー、が、えいえんにつづくんだって、これもってると』


幸人は恥ずかしそうに赤ら顔で呟きました。


『ほんとう?じゃあ、ゆきととわたしはずーっといちばんのおともだちだね!』

『おう、おとなになってもオレらともだちでいような!』

『うん!ゆきと、ありがとう!

これ、ちいさいけどぜったいなくしたくないから、ふでばこにいれておくね!』



―銀世界の中、投げ落とされた筆箱を探しました。教室の窓から真っ逆さまに落ちたはずなのに、その辺りに来ても見つかりません。深さを増す雪に、真冬の宝物は埋もれてしまったのでしょうか。


『幸人…どうして…どうして……』

5年前、そう、ちょうどあのパワーストーンをもらった頃の幸人は、いつも優しくて活発な男の子でした。

内気だった真冬のことを気遣って、たくさん一緒に遊んでくれました。それが、いつからかお互い別の友達が出来て、さらに歳を重ねていくうちに、2人は一緒に遊ぶどころか、言葉も交わさないほど心の距離が遠くなってしまいました。

6年生で同じクラスになった2人は、初めは気まずそうにしていましたが、そのうち幸人は、真冬をターゲットにして悪友と共にいじめました。

真冬は悲しくて仕方がありませんでした。物を取られて隠されたり、身長の低さをバカにされたり、その他色々悪口を言われることももちろん辛かったけど、『幼なじみが変わってしまった』という事実が、真冬の心を一番傷つけました。

たった5年しか経っていないのに、人はこんなに変わってしまう…

そのことを12歳の真冬が理解するには、あまりにも難しすぎました。


気づいたら真冬の頬は濡れていました。木枯らしが吹いてその涙も凍らせてしまいそうなくらい冷え込んできました。

いくら泣いたって、私の宝物を隠してしまったこの雪を溶かすことはできない。

『うぁぁぁ…!!』

今まで耐えていた想いが溢れだして止まりません。幸人が大将と手を組んでいじめてきたって、真冬は幸人が本当は優しい友達だと信じ続けていたから、親にも言わずに耐え続けました。


あの日もらった群青色の宝物は幻だったのでしょうか。


すると。


『ま、真冬……』


懐かしい声が、後ろから聞こえました。

やっとのことで振り返ると、そこにいたのは、雪に濡れた幸人でした。


『ゆ…きと………?』

寒さと驚きと涙につまって口が上手く動きません。

『真冬、これ、ごめん』

幸人の手には真冬の筆箱がありました。

『こ…れ……どこで……』

『そこで、雪に埋もれてた』


すると幸人は突然膝から崩れ落ちました。

『真冬、ごめん、本当に。今までごめん。許してもらえるなんて思ってない、でも、少し聞いて…』

懇願するようなその声は、苦しそうな、泣き出しそうな声でした。

『本当は真冬のこといじめたくなかったんだ。でも、俺実は大将に脅されてて、"俺と一緒に真冬をいじめなかったら俺は幸人と友達やめる"って…』

『え…?』

『俺、高学年になってから友達が大将ぐらいしかいなくて、従わなきゃ俺ぼっちになっちまうと思って…』

幸人は言葉に詰まって俯きました。

『ひとりになるのが怖くて、俺は真冬を身代わりにして自分を守ったんだ』

『……っ』

『最低だろ…?だから俺はもうお前とダチでいる資格なんてねえんだ。ごめん、筆箱は弁償する。あと、その石の約束守れなくてごめん。』

『覚えてて、くれたの…?』

『覚えてるよ。でも真冬は俺じゃない他の誰かと"一番の友達"になった方がいい…』

『ダメだよ!!!』

『このパワーストーン…貰った時のことちゃんと覚えてるよ。見ないうちに豹変して…人が変わったように私をいじめてくるの…絶対おかしいと思ってた。』

『…え』

『だって、だって、幸人は…』


『幸人は、本当は優しいから!!!』


泣き叫んだその声は、雪に沈まず幸人の心に届きました。


『真冬…』

『この青いパワーストーンが見つかったってことは、私たちまた友達になれるんだよ』

『ほんとか…?俺あんなひでぇことしたのに…』

『もちろん。だってあれは幸人の意思じゃないから。私、気づいてたよ。』

『えっと、じゃあまた、"いちばんのともだち"として改めてよろしくお願いします』

『固いなぁ…笑』


雪の舞う中で微笑み合う幸人と真冬。


このときは、ふたりが生涯を共にするなんて、まだ知る由もないのでした。

いかがでしたでしょうか。続きは今のところないですが、いつか書けたらと思います。

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